外伝 誠央学園はトラブルが多い?(悠姫視点)

「どういうことですか!?」


 星稜学園の生徒会室に女の子の叫び声が響き渡った。


美夜子みやこちゃん,落ち着いて。これはせいちゃんと話し合って決めたことだから。」

「話し合うって……私達は全く聞いていませんよ!?」


 眼鏡を掛けた誠央学園の女の子が抗議の声を上げた。


 だが,そんな彼女に対しても聖人まさと会長は冷静に対応をしていた。


たちばな君には申し訳ないんだけど彼女はそのまま生徒会の副会長を務めてもらうよ。星稜学園の皆がいる前で言いたくはないけど今の生徒会で彼女以外,次期生徒会会長を任される人がいないからね」

「何故ですか!?星稜学園にはまだまだ優秀な方々いるはずです!それに白星しらほし会長が次期会長に推している男子生徒も……」

美夜子みやこ,もうその辺に……」


 誠央学園の男子生徒が抗議している女子生徒を静止しようとした。


「っ……何でひかるは彼女のことを庇うの!?あなたの家があの事件でどうなったか自分が一番分かっているでしょう!?」

「…………」

「もう知らない!!」


 眼鏡を掛けた女の子は今にも泣きそうな顔で止めに入った男子生徒を睨むと生徒会室から飛び出して行ってしまった。


美夜子みやこ!!……白星しらほし会長,宝城ほうじょう会長,本当に申し訳ありません!」

ひかる君,私達のことはいいから美夜子みやこちゃんを追い掛けて」


 彼はもう一度,聖人まさと会長に頭を下げると急いで彼女を追い掛けて行った。


「……会長,何か誠央学園の生徒会って荒れてません?」

織斑おりむら君,かえで君達もいるからあまりそういうことは――と言いたいけど事実だから皆にちゃんと説明しないと駄目かな?」


 生徒会室にいた星稜学園の生徒会メンバーを見ながら聖人まさと会長は言った。


白星しらほし,何であの子はそこまで常盤ときわさんを副会長にしたくないんだ?たちばなってことはあの子のお爺さんが京都六家のたちばな家当主で星央会の元会長さん何だろう?」


 ――星央会。


 誠央学園の卒業生で作られた懇親会であり,政財界に大きな影響力を持ち,本来は政財界と繋がりのある卒業生しか入ることが許されないと言われている。


 しかし,毎年学園の首席卒業者や生徒会に所属していた有能な人材は関係なく招かれており,入れば普通の卒業生達以上の将来が約束されている。


 ――だが,その栄光は年数が経つに連れて徐々に影響力を失いつつあった。


 そんな状況の中で夏休み前に星央会が崩壊する事件が起きてしまったのだ。


「皆もニュースでは知っているよね?夏休み前に起きた誠央学園の横領告発事件」


 理事会と星央会の重役達が長年隠し続けていた学費の横領問題。


 しかも,横領以外でも学園の教職員達だけでなく学園の在学生やそのご家族達が所属する後援会まで関わっていると分かったのだ。


 それを,現政権の大物政治家である本柳もとやなぎ幹事長の御子息が報道局に告発。


 報道局は特ダネとしてこの事件を徹底追及した結果,彼が提出したリストに書かれた者達は全て検挙・逮捕されることになり,在学生に至っては退学処分にもなった。


「それによって誠央学園は色々と運営が難しくなり,星央会の会長であったたちばなのじいさんの下,暫定理事会を発足。犬猿の仲であった白星しらほし総帥に頭を下げて何とか誠央学園の生徒達を受け入れてもらえるようにしたってことか」


 聖人まさと会長と一緒にいた蒼一郎そういちろう先輩は状況を再確認すると誠央学園の生徒会メンバーを見て哀れんだ視線を向けた。


「お前達もその歳で苦労したな」

そうちゃん,その言い方はお年寄りの言い方だよ?」


 宝城楓ほうじょうかえで会長,今は副会長の立場になった彼女は蒼一郎そういちろう先輩に苦言を呈してた。


たちばな君の両親はある事件で亡くなったから自分を育ててくれたお爺ちゃんを敬愛していてね。本来は柔軟な考えを持つ子なんだけど――あの事件が原因で美陽みはる君を恨んでいるんだよ」

「でも会長,話を聞く限りではその子は悪くなそうに聞こえ……」

「失礼します!委員長,よろしいでしょうか!」


 智樹ともきさんが言い終わる前に私と同じ制服を来た男子生徒が生徒会室に入って来た。


「どうした?」

「少しトラブルが……」


 顔を近付けて周りに聞こえない様に話すと蒼一郎そういちろう先輩は渋い顔をした。


一葉かずはが対応しているんだな?直ぐに向かう――悪いな,せい。行ってくる」

「わかったよ。あまり大事にはしないでね」

「心配するな。行くぞ,悠姫ゆうひ

「はい。では,私もこれで。失礼しました」


 丁寧に聖人まさと会長達にお辞儀をすると私も蒼一郎そういちろう先輩の後に続いた。


蒼一郎そういちろう先輩,トラブルとは?」

「誠央学園の男子生徒が料理部の女子にちょっかいを掛けたらしい。一葉かずはが対応しているはずだが,件の男子生徒達だったら問題だからな」


 ――蒼一郎そういちろう先輩の言葉に私は険しい表情を浮かべてしまった。


 兄さんは部活紹介ではなく誠央学園のクラスメイト達を案内する方だと今朝言っていたので家庭科室にはいないはず。


 要するに,今料理部には女子生徒達しかいないということだ。


「――風紀委員会だ!邪魔するぞ!」

「お,そうちゃん~。おつかれさま~」


 家庭科室に入ると料理部の部長さんが軽く手を振っていた。


千歳ちとせ一葉かずはは?」

「いっちゃんならあそこ」


 指をさした方を見ると数名の男子生徒達にお説教をしている最中であった――が,1名だけまったくと言って話を聞いていない男子生徒もいた。


「あなた達!自分達が何をやったのか分かっているの!?」

「いちいち口煩い先輩だなぁ。折角の美人が台無しなっちまうぞ?」

「おい,石神いしがみ!それ以上はあんまり刺激するなよ。本柳もとやなぎがいない間に騒ぎを起こしたら俺達の立場まで女子達と同じように危うくなるぞ」


 黒髪の長い髪をしたクールな女子生徒,風紀委員会の副委員長である柊木一葉ひいらぎかずは先輩は自分に反論している誠央学園の男子生徒に呆れた目をしていた。


「はぁ~。石神いしがみ君だっけ?何で料理部の女の子達を連れて行こうとしたのかしら?彼女達は部活紹介でここから動けないはずよ?それに,あなた達を案内していた子達はどうしたのかしら?」

「あんな陰気臭い女に案内なんかされてたまるかよ。やっぱり,案内してもらうなら美人の方が……」

「おい」


 話を聞いていた蒼一郎そういちろう先輩がゆっくりと彼等に近付いて行った。


 ――ただし,鬼のような形相でだ。


 そんな先輩を見て男の子達は怯えた表情をしていたのは言うまでもない。


「だ,誰だよ,あんた……」

「風紀委員長の青葉蒼一郎あおばそういちろうだ。さっきの話はどういうことだ?」


 先輩が怒るのは無理もない。


 彼等はこの学園で一番――やってはいけないことを口に出してしまったからだ。


 だが,流石に初日から星稜学園と誠央学園で問題を起こすのは聖人まさと会長も望んでいないと少し考えた。


蒼一郎そういちろう先輩,あまり怖い顔をされると彼等も話を聞いてくれませんよ?」

悠姫ゆうひ?」


 蒼一郎そういちろう先輩に近付く私を見て彼等は言葉を失った。


 特に先程まで一葉かずは先輩に突っ掛かっていた男子生徒は口笛を吹くと私を厭らしい目で見ていたのだ。


 ――やはり,彼等もまた兄さん意外の男の人と同じだ。


 溜息が出そうになったが,彼等に気付かれないように笑顔を向けた。


「皆さんも初めての学園に浮かれていたのかもしれません。ですが,彼女達が困っているのも事実です。今回はお咎めはしませんので引いては頂けないでしょうか?」

「ちょっと,悠姫ゆうひ。何勝手に……」


 口を挟もうとした一葉かずは先輩を止めると石神いしがみと呼ばれていた男子生徒は先程よりも私を値踏みするように笑みを浮かべて近付いて来た。


「こんな美人が星稜学園にいたとはな。お前が案内してくれるなら考えて……」

「おい,石神いしがみ!これ以上は……」

「構いませんよ。ですが――」


 私の言った発言に驚いたのも束の間,一番前にいた男子生徒は何処から現れたか分からない鋭い目付きの男子生徒2人に警棒を向けられていたのだ。


「私と一緒に回るなら彼等もお供に付きますがよろしいでしょうか?」

「なっ!?……チッ……」


 流石に突っ掛かっていた彼も行き成り現れた彼等に驚いたのだろう。


 冷や汗をかくと舌打ちをして慌てて逃げ出していた他の男子生徒達の後を追って自分も家庭科室を走り去っていった。


「――,ご無事でしょうか?」

「問題ありません。それと……蒼一郎そういちろう先輩,一葉かずは先輩。申し訳ありません。勝手な行動をしてしまって」

「別に構わん。どちらにせよ,あいつ等にはいい薬になっただろうな」


 男子生徒に警棒を向けていた二人を見ると肩をすくめていた。


「でも,青葉あおば君。彼等が白星しらほし会長の言っていた子達なら見回りを強化した方がいいんじゃないかしら?さっきみたいなのが起こったら……」

「でしたら,私が見回りをしてきます。ついでに,してきますので」

「一狩って,ちょっと,悠姫ゆうひ!?」


 一葉かずは先輩の静止も聞かずに私は家庭科室を出た。

 

 蒼一郎そういちろう先輩は何故か笑っていたような気はするが,問題にはしていないのだろう。


「姫様,如何様に?」

「スケさん,カクさん。親衛隊の皆さんに連絡を。問題が起これば直ぐに私か風紀委員会にいる親衛隊の方まで連絡をするようにと」

「「Yes, Your Highness.かしこまりました,姫様」」


 後ろに控えていた二人は早々に何処かへ立ち去って行った。


 ――そんな状況の中,急に自分のスマホが鳴り出した。


 画面を見るとそこには金髪の男子生徒と自分が恋人のように腕を組んでいる写真が映っており,見ると最愛の兄からメッセージが届いていた。


「兄さんからメッセージ?」


 何か用事でもあるのかなと思い,メッセージを開くと書かれていた文章を見て微笑んでしまった。


 ――そういえば,あの二人も誠央学園だったなぁ。


 先程のことで少し憂鬱な気分になりそうであったが,女学園時代の親しい人達との久しぶりの再会に胸を踊らせていると少し頑張ろうと思い,私は微笑みを浮かべて学生達の輪の中に消えて行った。

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