第15話 誠央学園の赤松先輩

「やっと見つけたよ,四之宮しのみやさん!」


 常盤ときわさん達が不請顔で見ていた茶髪のキザッタらしい男性,特に結衣ゆいちゃんはその男性の顔を見ると常盤ときわさん達よりも嫌そうな顔をしていた。


赤松あかまつ先輩――私にまた何用ですか?」


 珍しく溜息を吐きそうにもなりながら肩を落としていた。


 人懐っこい彼女がここまで毛嫌いするとは余程関わりたくない相手なのだろう。


「そんな言い方は失礼だな。俺はただ君に愛の告白をしに来ただけなんだから」


 結衣ゆいちゃんにウィンクしながら言うと僕だけでなく彼のことを知る常盤ときわさん達も背筋が凍りそうなゾクッとした感じがした。


 ――ナルだ……絶対この人ナルシストだ。


 直観的にこの男性には関わってはまずいと思い,ふと周りを見渡すといつの間にか周囲にいた人達が居なくなっていることに気付いた。


「あれ?周りにいた人は?」

赤松あかまつ先輩の取り巻きっぽい奴等が下がらせていたぞ。何名かはヤバいと思ったのか早々に何処かへ行ったな」


 よく見ると困ったような顔をしているスタッフさんが男性達に囲まれており,遊んでいた子供達の何人かは下がらせていた男性達に抗議をしていた。


 あれって営業妨害にならないのかなと思ったが,それよりも先程から出ていた赤松あかまつという名前が気になっていた。


翔琉かける赤松あかまつってもしかして赤松あかまつ製薬かな?あのがいるっていう」

「おや?俺を知っているのかな?いやはや,有名人は本当につらいものだよ。」


 赤松あかまつと名乗った彼は髪をかき上げてキザッたらしくそう言った。


 絶対この人ナルシストだろうと僕は確信してしまった。


赤松あかまつ先輩,何度もいいますけど先輩の告白は何度も断っているじゃないですか!彼氏がいるって言っているのにこれで10回目ですよ!」

「10回!?」


 この人は結衣ゆいちゃんに10回も告白しているのか――でも,結衣ゆいちゃんには既にあの人が彼氏であるから付き合うことは絶対に無理なはずだ。


 それに、10回も断られているのならいい加減諦めると思ったのだが……。


四之宮しのみやさん,彼氏がいるといつも言っているけど俺が紹介して欲しいと言っても君は会わせてくれないじゃないか?」

「そ,それは向こうが忙しいからであって……」

「やれやれ,困った子猫ちゃんだ。俺の何がそんなに気に食わないんだ?権力と財力もあるし,君が欲しい物なら何でも買ってあげられるんだぞ?君のような一般庶民の子に取って今まで以上に贅沢ができるというのに何か不服でもあるのかい?」


 彼の言葉を聞いて僕は少し考えると隣にいた常盤ときわさんに質問した。


常盤ときわさん,今から大変失礼なこと言うけどいいかな?」

「……何かしら?」

「さっきから話を聞く限り,あの人って誠央学園の先輩さんなんだよね?赤松あかまつ先輩みたいな人って誠央学園に結構いるの?」


 僕が言ったことは一番言われてほしくない台詞だったらしく溜息を吐くと少し怒り気味に先輩に抗議した。


赤松あかまつ先輩,お願いですから結衣ゆいのことはいい加減諦めてください。それと,周りの人達がいますからあまり恥ずかしいことを為さらないでくださいませんか?」

「ん?誰かと思ったら常盤ときわ副会長じゃないか!君からも四之宮しのみやさんを説得してくれないか?彼女を放っている彼氏よりも俺の方が彼氏に向いているとね」


 話を全く聞いていない彼を見て僕は珍妙な生き物を見るよう目な目をした。


神条かみじょう君,言いたいことは分かるわ。でも,お願いだから何も言わないで!」

「……僕,まだ何も言ってないよ?」


 僕の表情から同じ学園の出身者と思われたくなかったのだろう。


 僕に対しても強い口調で言うとそんな二人のやり取りを見て不思議そうにしている目の前の男性を今度は睨んだ。


「本当にいい加減にしてください!どうしてそんなに結衣ゆいに執着するんですか!」

「そんなの彼女が好きだからに決まっているだろう?それに彼女はミス常盤ときわに選ばれた子だ。そんな彼女は俺みたいな選ばれた男が相応しいと思っているんだよ」


 先輩の話を聞けば聞くほど頭が痛くなり僕は片手で頭を抱えた。


 それは隣にいる常盤ときわさんも同じであり彼女はいつも目の前の先輩の相手をしているのかと思うと不憫に思えてしまった。


 ――というか,そろそろ青葉あおばさんの堪忍袋が切れそうなのか,必死で翔琉かけるが抑え込んでいるような気がするんだけど……。


赤松あかまつ先輩はそれに選ばれたから私が欲しいだけでしょう!私のことなんてまるっきり見てない癖に!」

「そんなことはないさ。だが,俺達はお互いに選ばれた者同士なんだ。そんな二人が共に歩むのは浪漫があると俺は思うよ」


 最早,この先輩とは話をするだけ無駄ではないかと思って来た。


 ――だが,彼が結衣ゆいちゃんに執着する理由が分かってきた。


 先輩が先ほどからと口にしていたこと――結衣ゆいちゃんは去年の常盤ときわ女学園の学園祭でミス常盤ときわに選ばれたことを知っていた。


 そして,赤松あかまつ先輩が言っていた選ばれた者というのはおそらく自分が特例で人間国宝に選ばれたことを言っているのだと思った。


「(正直,政府に関りがある人とあまり問題を起こしたくないんだけど常盤ときわさん達が困っていることだし助け船でも出そうかな)」


 家同士の繋がりもあることを考えると第三者が何とかした方がいいだろう。


 仕方がないと思い,僕は先輩と結衣ゆいちゃんの前に立った。


赤松あかまつ先輩でよろしいですか?」

「ん?何だね,君は?」

「星稜学園の神条遙人かみじょうはるとと言います。そこにいる結衣ゆいちゃんの友人です」

 

 挨拶すると取り巻き達に警戒をされたが,赤松あかまつ先輩は取り巻き達に手を軽く上げて問題ないと言った。


「すまないが,これは君のような一般庶民には関係のない話だ。四之宮しのみやさんの友人とはいえ俺達の話に入ってこないで貰いたいんだが?」

「そうですが,彼女が困っていると思いまして。それに彼女もと思ってますよ?」

「――何?」


 赤松あかまつ先輩の空気が変わり,周りにいた取り巻き達も一斉に僕を睨んだ。


「か,神条かみじょう君!?赤松あかまつ先輩を煽ってどうす……」

「それと,赤松あかまつ先輩。さっきから結衣ゆいちゃんの態度で気になっていたんですが――先輩って女の子と付き合ったことないでしょう?」

「「!?!?」」


 赤松あかまつ先輩の後ろに雷が落ちたような音がし,取り巻き達は僕を睨むよりも彼を見て冷や汗をかきながら何故か慌て出した。


「お,お前!今の言葉は訂正しろ!赤松あかまつ様に失礼だろうが!」

「そうだぞ!赤松あかまつさんは別に……赤松あかまつさん?」


 必死に抗議をする取り巻き達を他所に赤松あかまつ先輩は片手で顔を抑えて笑っていた。


「ふ,ふふふ、構わないさ別に。所詮,俺と比べて何も持ってなさそうな君に言われたところで痛くも痒くもないことだ。俺なんていくらでも女性と……」

「それから,僕は赤松あかまつ先輩と違って目の前で先輩が告白しようとしている彼女とそちらの常盤ときわさん達とも遊んでいますけど?」

「うぐっ……」

「あと,自慢じゃないですけど顔も良い方だと思っていますし,それなりに女子と遊んでいますよ?何なら先輩にも紹介しましょうか?あ,それとも女の子と遊んだこともないからやっぱり恥ずかしいですか?大丈夫ですよ,僕の女の子の友達って先輩みたいな初心な人でも優しく対応してくれる子達ですから」

「な,な,な……」

「プッ……」


 色々と先輩を煽っていくと隣にいた常盤ときわさんが今にも笑い出しそうになっていた。


 煽られていた光景が余程面白かったのか,結衣ゆいちゃんも笑いそうになっており青葉あおばさんと翔琉かけるは呆れた顔をしていた。


「さっきから赤松あかまつさんのことを侮辱することばかり言いやがって!赤松あかまつさん,さっさと彼女を連れて行きましょう!」


 取り巻きの一人が結衣ゆいを連れて行こうと彼女の腕を掴んだ。


「何するんですか!?離してください!!私は先輩達と行きませんから!!」

「おい,あまり彼女に手荒な真似はするな!彼女に傷が付いたらどうするんだ!」

「ですが!」

「言い返せなくなった途端に強引になるんですか?先輩って子供みたいですね」


 腕を掴んだ取り巻きの人を見て僕が呆れた口調で言うと,彼は赤松あかまつ先輩が馬鹿にされたと思い激怒して僕の胸ぐらを掴んだ。


「お前!赤松あかまつさんにさっきから言い過ぎだろう!?いい加減にしないか!」

「僕は先輩に言ったんですよ?もしかして,先輩達もそういった経験ないとか?」

「!?貴様!!」

神条かみじょう君,危ない!!」


 煽られて我慢の限界だったのか,取り巻きの一人が僕を殴り掛かろうとした。

 

 それを見た瞬間,常盤ときわさんは止めに入ろうとしたのだが――彼女が止める前に取り巻きの腕はに捕まれていた。


 しかも,今にも腕が折れそうな強さでその男性を睨んでいた。


「イテテテテ!?折れる!折れる!」

「貴様……王子に何をしようとしてたんだ?」


 冷めた口調でその男子生徒は僕を殴ろうとしていた彼を足払いをして地面転がすと腕を後ろに曲げて彼の動きを封じた。


 一瞬の出来事で一部の者達は青ざめて驚いた顔をしてしまった。


「王子,ご無事ですか?」

「大丈夫だよ――と,言いたいんだけどすすむがいるってことは……」

「勿論,私もいますよ?」


 声をした方を振り向くとそこには薄い青髪の義妹が満面の笑みで鬼の形相をした同じ制服を着ていた男女達を数名ほど従えていた。


「御姉様,お怪我はありませんか?」

「ユフィ!?来ていたんだ!」

「はい。それと――来ているのは私だけではないんですけどね」


 そう言って結衣ゆいちゃんに笑顔を向けた義妹は後ろを振り向いた。


「おやおや,何か騒がしい声が聞こえると思ったら美陽みはる君達じゃないか?」

「……えっ?」


 常盤ときわさんだけでなくその場に居た全員がそちらを振り向いた。


 そこには,誠央学園や星稜学園の制服を来た学生達と一緒に一人だけ皆と違う制服を来た少し小太りな男子生徒がにこやかに手を振っていた。


「「し,白星しらほし会長!?」」

「やあ,皆。一体何をしているんだい?」


 そんなにこやかに笑う彼を見て驚いている常盤ときわさん達を他所に結衣ゆいちゃんだけはその顔を見て今にも泣き出しそうにしていたのだった。

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