第37話 天災少女に挟まれて

「――美陽みはるちゃん,大丈夫?」

「だ,大丈夫じゃないわね……」


 服を購入して着替えた後,僕達は美陽みはるちゃんが行きたいと言っていた回転寿司のお店に行ったのだが――先程の洋服屋さんの件もあって美陽みはるちゃんは食べ過ぎてしまったようだ。


 ただ,今では落ち着いたのか食べ過ぎてしまったことを後悔していた。


「これは夕食は食べない方がいいわね……」

「そうかもしれないね。僕も少し食べ過ぎちゃったかな」

「兄さんも小食なのに珍しくたくさん食べてましたね」


 義妹に珍しそうに言われながら苦しそうにする美陽みはるちゃんを見て心配そうにしたが彼女は大丈夫だと言うとまた行きたいと言ってくれた。


 どうやら,機嫌が直っても満足してくれたみたいだ……今度はトミーお勧めの焼肉屋でも行く予定を立ててみようかな。


「二人とも,ごめんなさいね。食後の運動まで付き合わせてしまって……」

「気にしないでください。こうやってのんびりと歩くのも楽しいですから」


 本来ならスタモルには最寄駅から直通で行けるのだが彼女のお腹の具合も考えて軽く運動も兼ねて二駅ほど離れた場所から歩いて向かうことに。


 いつもと道が違っていることもあって新鮮な気持ちにもなっていた。


「――それにしても,視線が気になるわね」

「まあ,二人とも可愛いからね。美陽みはるちゃんのその服装も似合ってるから」

「あ,ありがとう……」


 店員さんが選んでくれた服装……ジャケットに黒のミニスカートを履いた可愛らしい美陽みはるちゃんを見て僕は微笑んだ――あと、ある部分が気になってもいたが……。


「……ハル,何処に視線を向けているのかしら?」


 ジト目で睨まれてしまい僕は慌てて視線を向けていた部分……スカートとニーハイソックスの間にある魅惑の領域から視線を外した。


「ふふっ,兄さんってああいうの本当に好きですよねぇ」

「あまり僕の性癖を暴露しないでくれる!?」

「そう思うならもう少しハルも自重しなさい!」


 怒られてしまったがこれに関しては仕方がないと思い受け入れることにした。


 すると,何を思ったのか急に義妹が左腕に抱き着いて来た。


「こういうことはあまり興味がないのにどうしてでしょうね」

「ユフィちゃん!?何してるの!?」

美陽みはるさんもしますか?右腕は空いてますから」

「しないに決まっているでしょう!!ハルも注意しなさいよ!!」

「う~ん,そう言われてもねぇ……」


 美陽みはるちゃんには申し訳ないのだが義妹と外に出かける時はこれがの光景だったりするのだ。


 僕の女性恐怖症を治すために続けていた行動であったが,克服した現在でも二人で出掛ける時は続けていたりもする。


「(ただ,他の人がいる時は自重していたんだけど今日はどうしてだろう?)」


 美陽みはるちゃんを煽っている行動も含めて少し不思議に思ってしまった。


美陽みはるさんはしないんですか――恋人なのに」

「うぐっ……わ,私とハルは偽装カップルであって……って,そもそも恋人でも腕を組むのは大分先だと思うんだけど!?」

「……言われてみればそうかもしれませんね。仕方がありませんから揶揄うのはやめて今日は諦めておきます」

「やっぱり,揶揄っていたじゃない!!」


 僕の腕から離れた義妹に怒りながら抗議する美陽みはるちゃんを何食わぬ顔で対応していたが急に真面目な顔をした。


「ですが,美陽みはるさん。本当にこのままでいいんですか?お姉様達からもお店で注意されていたと思いますけど?」

「それは……たしかにそうだけど……」

「あと,非常に言い難いんですがたちばなさんの件が落ち着き始めた反動で兄さんの周りがどうなったか既にお分かりになっていますよね?」


 義妹の言葉に美陽みはるちゃんは何も言い返せなくなった。


 風華かざはな先輩達の支援策の御蔭で美陽みはるちゃんに表立って嫌味を言う誠央学園の学生達はいなくなったが逆に僕の方で問題が起きてしまっていた。


 たちばなさんの周りにいた女子生徒達――自分達の将来に不安を抱いていた彼女達を助けたということで一部の誠央学園の女子達が僕に好意を抱くようになったのだ。


聖人まさと会長のお気に入りだっただけでなく風華かざはなグループの会長や京都六家とも繋がりがある。正直,今まで興味を示していなかった誠央学園の女子生徒も兄さんを狙っているんじゃないでしょうか」

「ユフィ,僕は彼女達とは付き合うつもりは――」

「兄さんは黙ってください」

「ワカリマシタ」


 どうやら,僕は喋ることすら許されないらしい。


美陽みはるさんは他の方と違ってまだリードしている状況ですがこのままだと他の方々に追い抜かれてしまいますよ?もう少しぐらい積極的になった方がいいのでは?」

「そ,そんなことは私でも分かって――ああ,もう!!」


 義妹に色々と言われたことで自暴自棄になったのか恥ずかしそうにしながら僕の右手に自分の手を繋いできた。


美陽みはるちゃん!?」

「な,何か悪いかしら!?」


 流石の僕も美陽みはるちゃんがこういった行動を起こすとは思っても見なかったので戸惑うだけでなく恥ずかしくなって彼女から視線を外した。


 ――勿論,美陽みはるちゃんの顔が完熟トマトよりも真っ赤になっていたのも言うまでもないことであったが……。


「うふふ,二人とも初々しいですね」

「「ユフィ(ユフィちゃん)が煽ったからでしょう!!」」


 僕達のツッコミにクスクスと笑う義妹に溜息を吐くしかなかった。


「何だかユフィちゃんの掌の上で踊らされているみたいね――それにしても,ハルが戸惑うなんて珍しいわね」

「……僕,突拍子もないことには耐性がないんだよね」

「そうですよね。兄さんってですから」

「こんにゃく……」


 珍しい言葉を聞いて唖然としていたので義妹は簡単に説明をしてくれた。


「豆腐メンタルの反対の意味で柔軟性があってはじき返すことができメンタルが弱いようで強いってことです。ただ,私が思う限りでは実際は柔らかいのでブスッと刺されたら貫通するので突拍子もないことは弱いんじゃないかと」

「な,なるほど……」

「あと,兄さんにも弱点がありますからね」

「ハルの弱点?」


 不思議そうにする美陽みはるちゃんの横で顔を引き攣らせる僕を見て義妹はこの後に訪れることを考えたのか笑い出しそうになっていた。


 そして,それは直ぐに美陽みはるちゃんも理解することが出来たらしく――。


「は,ハルってまさか……っ……」

美陽みはるさん,笑い過ぎだと思いますよ――あと,兄さんは大丈夫ですか?」

「……だ,大丈夫じゃない……ユフィ,離れないでね……」


 身体をガクガク震わせながら義妹に涙目で抱き着いていた僕を美陽みはるちゃんは更にお腹を抱えて笑ってしまった。


「ま,まさかハルって,高所恐怖症だったんだ」

「そうなんですよね。飛行機とか山頂なら大丈夫なんですが遊園地の絶叫系や先程みたいなガラス張りのエレベーターなどは全くダメでして……」


 先程エレベーターに僕達だけしかいなかったことが幸いなのか僕は涙目になりながら義妹に抱き着いて生まれたての小鹿のように足をブルブルと振るわせていたのだ。


 その光景が余程ツボに入ったのか美陽みはるちゃんは未だに笑ったままであった。


「そ,そんなに笑わなくてもいいじゃない!」

「ご,ごめんなさい……ハルって完璧だと思っていたから意外だと思って」


 流石にムスッとした僕の顔を見て笑い過ぎたのか申し訳なさそうにした。


「――姫様,少しよろしいでしょうか?」


 少し離れた位置にいた大助だいすけが声を掛けて来た。


「どうかしましたか?」

「先にすすむが中を見て来ていますが誠央学園と星稜学園の学生が何名かいるそうです。如何しましょうか?」

「そうですね――お二人はどうしましょうか?」


 落ち着いた僕は義妹から離れると少し考えた。


 このまま中に入ると間違いなく勘違いされるだろう。


 まあ,既に僕と美陽みはるちゃんは表立っては恋人だと思われているので特に問題にはされない――むしろ学生達がいることは好都合だと思った。


「僕達が仲の良い恋人だって思わせるのはちょうどいいかな」

「ですね。ということで,二人はまた手を繋いで行きましょうか♪」

「はぃぃぃぃぃぃ!?」


 美陽みはるちゃんは知り合いがいるかもしれないと思ったのか叫び声をあげた。


美陽みはるちゃんは嫌だった?」

「そ,そういうわけじゃないけど……」

「ちなみに,美陽みはるさんが行かないなら私が兄さんの腕に抱き着いて入りますから♪」

「何でユフィちゃんはそんなに笑みを浮かべて煽ってくるのよ!?二人で行けばいいんでしょう!ほら,ハルも行くわよ!」

「ちょっ!?美陽みはるちゃん,いきなり引っ張らないで!!」


 僕は美陽みはるちゃんに右手を繋がれると義妹達よりも先にそのまま最上階にあるゲームセンターまで連れて行かれてしまった。


「――姫様,よかったのですか?」

「何がですか?」


 二人が立ち去った後,大助だいすけは義妹に尋ねた。


「王子と常盤美陽ときわみはるのことです。本当に恋人として認めるんですか?」

「スケさんは反対ですか?」

「姫様が反対しないなら何も言い――」

としてはどうなんですか?」


 彼女に昔の呼び方で言われてしまい彼は反応に困ってしまった。


「……彼女に遙人はるとの過去の全て受け入れることが出来るか心配だ。俺達が言える立場ではないが何も知らない人にとってはあいつの過去あまりにも重過ぎる」

「そうですね。それに――引っ越したとはいえあの子がまた何かをしてくるかもしれません。私は二度と会いたくはありませんけど警戒はしておいた方がいいでしょう」


 それだけ言い残すと義妹も二人の後を追い掛けて行った。


「――今の言葉は君にも言った言葉なんだけどな……」


 彼は大きな溜息を吐くとその後に続いてゲームセンターへと向かったのだった。

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