第38話 LICENSE取得者の実力

※一瞬だけ視点が遙人はると視点から美陽みはる視点に変わります。


「何よ,このゲーム!!凄くムカつくんだけど!!」


 僕達は先日来たゲームセンターまで足を運び遊んでおり,その中で美陽みはるちゃんは懐かしいモグラ叩きのようなゲームで遊んでいたのだが……。


 【YOU,ちゃんと狙いなYO!!】


「むっきぃぃぃぃぃぃ!!!言われなくても分かってるわよ!!!」

「…………」


 あまりの剣幕に僕は声を掛けられず困った顔をした。


「……神条かみじょう君,オレンジジュースでよかったぁ?」

「ありがとう。君達も休みの日なのにごめんね」


 缶ジュースを渡してくれた癖毛気味な金髪の特徴の女の子にお礼を言った。


「あとの二人はどうしたの?」

常盤ときわさんの直ぐ近くにいるわよ。茉優まゆはおかしくて笑いを堪えているけど」


 よく見ると美陽みはるちゃんよりも濃くないが赤髪のボーイッシュな髪型の女の子が気付かれないようにお腹を抱えて笑いそうになっておりその隣では眼鏡を掛けた女の子が彼女を必死で静止していた。


「ところで,ユフィとあの2人は?」

「姫様達ならメダルゲームにいるって――でも,あっちの方には近付きたくないわ」


 チラッと見るとスロットゲームをしている義妹の後ろに黒いサングラスを付けた強面のSPが2人――う”ん”,早急に何とかした方がいいかな!?


「皆でユフィに一緒に遊ぼうって僕が言っていたって伝えてくれる?美陽みはるちゃんの方は僕がいるから問題ないと思うから」

「オッケー!じゃあ,呼んで来たら私達はまた隠れておくから」


 そう言い残すと彼女の合図で近くにいた二人も下がって行った。


「――美陽みはるちゃん,苦戦しているね」

「そうなのよ!あと,失敗すると嫌味ばかり言ってくるから……」


 モグラの変わりにスーツを着て髭を生やしたおじさん?が叩くのを失敗すると煽り文句を言ってくるのだ。


 このゲームを作った制作者はどんな意図でこれを作ったんだろうとムスッとしている美陽みはるちゃんの光景を見て僕は笑いそうになっていた。


 ――あと,頬を少し膨らませた顔が少し可愛いと思ったのも秘密だが……。


「兄さん,何か用ですか?」

「ちょっと別の場所に行こうかと思ってね。あと,店員さんを泣かせてないよね?」

「大丈夫ですよ。はしましたから」


 義妹の言葉に僕は先程と違って顔を引き攣らせた。


 この子をゲームセンターに連れてきて何度出禁にされたことか……。


 事情を知る後ろの二人も今回ばかりは僕に哀れみの顔を向けていた。


「……そういえば,赤松あかまつ先輩が結衣ゆいちゃんを連れて行こうとしたのはここだったね」

「言われて見ればそうね――あの時から本当に色々とあったわ」


 赤松あかまつ先輩が結衣ゆいちゃんを連れて行こうとしてから聖人まさと会長との恋人宣言,その後に決闘騒ぎが起きて学園同士の交流会,たちばなさんの周りにいる苦学生達の問題から今回の解決まで本当に色々なことがあったような気がした。


 そして,一番変わったことは――彼女と偽装恋人になったことだ。


「よくよく考えたら赤松あかまつ先輩の事件がなければ美陽みはるちゃんと偽装カップルになるのはもっと先の話になっていたのかな」

「どうかしら?そこは私にも分からないわね」

「要するに赤松あかまつ先輩はお二人に取ってキューピットであったということでしょうか?

「それは何だか嫌だなぁ……」


 嫌そうな顔をする僕と同様に美陽みはるちゃんも物凄く嫌そうな顔をした。


 そんな僕達を見て義妹が笑うと僕達も笑ってしまった。


 ――赤松あかまつ先輩には大変申し訳ないけど……。


「早くしないと置いて行くぞ~!」

「ま,待ってよ~!」


 自分の直ぐ近くで小さな男の子達が通り過ぎて行った。


「……元気な男の子達だね」

「そうね。そういえば,ハルって小さい時ってあんな風に遊んで――あ!?」


 美陽みはるちゃんはしまったと言う顔で僕の顔を見た。


「ごめんなさい!そんなつもりじゃ……」

「僕は別に気にしてないから大丈夫だよ。それよりも,何処か別の場所で遊ぼっか」


 問題なさそうに僕はその場から歩き出した。


「――ユフィちゃんもごめんなさい」

「大丈夫ですよ。私もは気にしていませんから――ですよね?」


 後ろの二人にそう言うと珍しく二人は歯切れの悪そうな顔をしていた。


「……どういうこと?」

「そういえば、美陽みはるさんにはご説明していませんでしたね。この二人は……」

「姫様,そこから先は自分から説明します」


 腹を括った顔で金髪の男の子,天野大助あまのだいすけは大きく息を吐くと語り出した。


「自分達と姫様,王子は小学校の同級生だ」

「同級生……えっ!?ちょっと待って!?同級生ってことはつまり……」

「君の言う通り自分達……俺とすすむは小学校の頃に姫様にちょっかいを掛けて遙人はるとと喧嘩……虐めていた碌でもない奴等だ」


 彼の語り出した内容に言葉が出なくなった。


 要するにユフィちゃんの傍にいるこの2人は幼い時にハルを虐めていた男の子であるというのだ。


 ――そんな男の子達がどうして彼女の親衛隊ファンクラブに……。


「ちなみに,この二人以外にもあと数名ほど星稜学園には同級生達がいますよ?男の子だけでなく女の子の方も」

「女の子の方もって……ハルが女性恐怖症の原因になった子達ってこと!?」

「そうですね。彼女だけが問題なく復帰して一緒に星稜学園に来ましたから」

「復帰?それって……」

「4人とも何かあったの~?」


 話し込んでいると遠くからハルが声を掛けてきた。


 よく見ると先程通り過ぎていた子供達に何故か囲まれている状況であった。


美陽みはるさんには昔の兄さんのことを何れ話さないといけませんね――このまま兄さんとの恋人関係を続けるなら……」


 そう言い残すとユフィちゃんは先にハルの下へと歩いて行った。


「……常盤美陽ときわみはる,俺達から君にお願いしたいことがある」

「お願い?」


 先程から黙っていた茶髪の男の子,格之進かくのすすむ君だったかしら……急に私に頭を下げるので何事かと思ってしまった。


「王子のことをよろしく頼む」

「……意外ね。あなた達なら私じゃなくてユフィちゃんを推したと思うんだけど?」

「姫様では……王子の全てを受け入れることは出来ない」


 彼はそれだけ言い残すとユフィちゃんの後を追いかけて行きもう一人の金髪の男の子もその後を追って行った。


「(ユフィちゃんでは全てを受け入れることが出来ない……どういうことかしら)」


 彼の言った言葉を少し考えたが今は頭の隅において自分もハルの下に向かった。


「――それじゃ,気を付けて帰るんだよ」

「「は~い!」」


 僕がそう言うと男の子達はお礼を言うと立ち去って行った。


「何を教えていたのかしら?」

「ふふっ,どうやらこちらのゲームの攻略方法を聞いていたらしいですよ」


 義妹の横には武器を持った迫りくるゾンビを撃ち倒す――所謂ガンシューティングゲームが置かれていた。


「懐かしいわね。私も似たような物を小さい時にやったことあるわ」

「意外ですね。美陽みはるさんもこういったゲームは好きなんですか?」

「男性恐怖症になる前にお父様に色々と教えてもらったのよ――ゲームセンターじゃなくて海外の実家に置いていたんだけどね」


 実家に置いているって……そういえば,美陽みはるちゃんはお金持ちなだけじゃなくて父親はあの人であったことを思い出した。


「ところで,ハルってこういうゲーム得意なの?」

「う~ん,得意というか……」

「得意というか兄さんならノーミスで全ステージクリアできますね」

「えっ!?」


 義妹の言葉に後ろに控えていた二人も首を縦に振っていた。


「いい機会ですから兄さんにやってもらいましょうか――美陽みはるさんもLICENSEライセンスの力を見るいい機会だと思いますから」

「……それもそうね。ハル、お願いしていいかしら?」


 気付かれないように義妹に言われた言葉を聞くと美陽みはるちゃんは僕にお願いをした。


「僕は構わないよ。それじゃ,やってみるね」


 僕はそう言うと硬貨を入れて玩具の銃を構えた。

 

 が特に問題なさそうにせず,しばらくすると画面にプロローグが流れ出した。


「……様になっているわね」

「まあ,本職ですから……そろそろ始まるみたいですね」


 義妹がそう言った直後,ゾンビ達が武器を持って画面の前に現れて来た。


 それを見た瞬間,僕はまず右側から出て来たゾンビから片付けていき,その後に左側に出て来たゾンビ達を片付けた。


 最初のステージはゆっくりと敵が現れるためかそれほど気負いもせずに順序よく撃ち抜いて行き最初のステージを軽々とノーミスでクリアできた。


 「たしか,頭を打つと一撃で倒せるんだっけ――それなら……」


 僕は再び銃を構えると先程と同じように右側から敵を片付けようとしたが数が先程よりも増えていて明らかにノーミスは難しいと周りにいた人は思ったらしい。


 ――だが,僕は何食わぬ顔でゾンビ達の頭を撃ち抜くと問題なさそうに次々と黙々と次のステージに進んで行った。


 その光景にはまったくといって無駄がなく目を見張るものがあった。


「…………」


 次々と画面の敵を倒していく僕に目を奪われていた美陽みはるちゃんであったがそれは彼女だけでなく周囲で遊んでいた学生達も同じであった。


美陽みはるさん,兄さんの今の姿を見てどう思います?」

「どう思うって……」


 義妹の質問に美陽ちゃんは答えることが出来ない――いや,自分が思っている感情に戸惑っていたのだろう。


 目の前に立っている男の子の姿をカッコいいと思ってしまったことに。


「おいおい……もう最終ステージだぞ!?」

「しかも被弾なしってマジかよ!?誰だあいつ!?」

「ねぇねぇ!あれって1年生の神条かみじょう君じゃない!?遊びに来ていたんだ!」


 最終ステージに辿り着く頃には僕の姿を見た観客が興味を示して集まっており声援を送っている状況であった。


「このまま行くとノーミスで終わりそうですね,美陽みはるさん――美陽みはるさん?」

「……えっ!?ユフィちゃん,何か言ったかしら!?」


 ボーっとしていた美陽みはるちゃんの顔を見て何故か義妹は笑いそうになっていた。


「いえいえ,何でもありませんよ♪」

「その含んだ言い方が物凄く気になるんだけど!?」

「別に何も含んでませんよ。それよりも,そろそろ終わると思いますよ」


 そう言われて美陽みはるちゃんはもう一度,僕の素顔を見た。


「これで……ラスト!」


 最終ステージのボスを倒すと画面に『Congratulations!』と表示されて周囲の観客達から拍手が沸いた。


 どうやら,気付かないうちに注目を集めていたらしく僕は軽く周囲に手を振った。


「兄さん,おつかれさまです――少し目立ったようですので場所を変えましょうか」

 

 義妹にそう言われて僕は頷くと彼女は先に二人を連れてこの場を後にした。


美陽みはるちゃん,行こっか」

「えっ!?ハ,ハル!?」


 僕は美陽みはるちゃんの手を取ると観客達に軽く会釈してその場から立ち去った。


 ――無論,その光景を見ていた観客達から黄色い声援を浴びさせられるだけでなくリア充爆破しろ!と怒号のような声が聞こえて来たのは言うまでもなかった。

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