第36話 彼女と義妹とデート!?

「――むむむ……」

「……悩ましいですねぇ」


 社交部での一件からの初めての日曜日――僕は美陽みはるちゃんと義妹に連れられて買い物に付き添っていた……のだが,普通の買い物ではなく……。


「ああ!これって新刊出ていたんだ!?」

「一昨日出たばかりですね。たしか,限定販売の方ではフィギアが付いているとか」

「嘘でしょう!?誰かフィギアだけでも転売してないかしら」


 赤髪のツインテ―ル……ではなく,本日は珍しくキャップ帽を被り,眼鏡にポニーテール,カジュアルな服装をしていた美陽みはるちゃんとのツインテ―ルに何故かゴスロリ系の服装をした義妹という変わった組み合わせを見て苦笑してしまった。


「兄さん,どうかしましたか?」

「何でもないよ。それにしても,美陽みはるちゃんもそっち系の趣味があったなんてね」

「うっ……」


 恥ずかしくなったのか美陽みはるちゃんは僕から目線を外した。


 僕が風華かざはな先輩達と支援策を話している時に美陽みはるちゃんは社交部にやってきた義妹と談笑していたらしい。


 そこで,お互いに共通の趣味があることが分かり意気投合――今度の休みに義妹がよく行くお店に一緒にいくことになったんだが……。


美陽みはるちゃん,大丈夫?外出って男性が接触されることがあるかもしれないから滅多にしないって青葉あおばさん達から聞いていたんだけど」

「そうね。でも,ハルが守ってくれるんでしょう?」

「まあ,そのつもりではあるんだけどね」


 肩を竦める僕を見て義妹はクスクスと笑っていた。


 美陽みはるちゃんもこういったお店オタクショップに来るのは初めてなのか自分の体質のことも忘れて子供のように目を輝かせていつもより喜んでいたのだ。


 そんな楽しんでいる彼女を見て僕も笑みを浮かべており彼女が楽しめるように細心の注意を払っていたりもした。


「でも――あれは流石に目立つんじゃないかな?」

「……たしかにそうね」


 美陽みはるちゃんも僕の言葉に納得して同じ方向を見た。


 僕達から少し離れた所に黒いサングラスにスーツを着た金髪と茶髪の男性がこちらの様子を伺っており――はっきり言って異様な光景であった。


「ユフィ,あの二人を連れて来たのは間違いじゃなかった?」

「問題ありませんよ。あと,今日はも一緒に来ていますから」

「あの3人も来ているの!?」


 僕の専属護衛の3人まで呼んでいるとは……。


「女性だけしか入れないお店にも行くかもしれませんのでスケさんとカクさんを連れて行くわけには行きませんから」

「ん?ユフィちゃん,何処か行きたいお店でもあるの?」

「ええ。少しランジェ……」

「ストォォォォップ!!それ以上は言わなくても分かったから黙ろっか!?」

「……はい?」


 不思議そうに首を傾げる義妹に僕は盛大な溜息を吐いた。


 本当に義妹のあれは何とかしないと――あと,美陽みはるちゃん……何処へ行こうとしていたのか分かったのかもしれないけどそんな顔で睨まないでくれるかな?


「……前々から思っていたんだけどユフィちゃんって気にしないの?」

「気にしないとは?」

「だからその,男の子がいる前で下着の話とか……ごにょごにょ……」


 義妹の言おうとしていることが分かったのか恥ずかしい顔をして俯いてしまった。


 ――だが,義妹はというとそんな彼女の様子とは打って変わって……。


「下着のことですか?特に気にしませんよ。見られても大したものでもない――」

「何でそんなに平然と言えるのよ!?ハル,どうなっているの!?」

美陽みはるちゃん,言いたいことは分かるけどもう少し落ち着こうか?他のお客さんも見ているんだから」


 よく見ると周りにいるのは大半が男性客なのだ。


 変装をしているとはいえ二人の容姿を考えると目立って仕方がない……こともそうだが先程の義妹の下着という言葉が気になっているのだろう。


「とりあえず,買い物したらお店を出よっか?あとで事情を話すから」

「……分かったわ。それじゃ,これとこれと……」


 渋々納得してくれたのか商品を持って義妹と一緒にレジへ並びに向かった。


 そうして買い物を終えて近くの公園のベンチに辿り着くと――。


「――えぇぇぇぇぇぇ!?」


 案の定,美陽みはるちゃんは先程よりも声を上げて驚いていた。


「それって大問題じゃない!?」

美陽みはるちゃんに言われなくても大問題だよ!この間の交流試合のことだってトミーから聞いて気が気じゃなかったんだから!」


 盛大に溜息を吐く僕を見て美陽みはるちゃんは顔を引き攣らせながら少し離れた所で護衛の2人に戦利品グッズを預けている義妹を見た。


「――がないって大問題じゃない……」


 義妹の唯一の問題点――羞恥心が限りなくないに等しいということだ。


「僕を女性恐怖症に治すためにユフィが過剰なスキンシップをしていたのは聞いていたでしょう?その反動であんなことに……」

「で,でも,あれだけ可愛かったら注意ぐらいす――」

「普通ならね……」


 幼い時から男の子達から好意を寄せられていた義妹――そのことが原因で僕は虐められることになり義妹は心を痛めてしまった。


 それ以来,義妹は強くなるためなら手段を選ばない……女の子が持つ弱さを限りなく捨てようと思ったことも合わさって更にエスカレートする事態に。


 あと,中等部に女子学園に通っていたこともあって男性から好奇な目線を向けられるのが少なったことも要因の1つとなっていた。


「この間だってお風呂上りにバスタオル1枚で何食わぬ顔で僕の部屋に来るんだよ。兄として義妹の将来が不安で……」

「…………」


 美陽みはるちゃんは恥ずかしさも怒りも通り越してご愁傷様というような顔で僕を見た。


 どうやら,彼女も僕が悩んでいる顔を見て真面目な話だと思ってくれたらしい。


「お二人とも何をそんなに悩んでいるんですか?」

「「ユフィのことだよ(ユフィちゃんのことでしょう)!!」」


 首を傾げる義妹を見て僕達はツッコミを入れたが盛大な溜息をまた吐いた。


「ユフィちゃん……ハルの為にも羞恥心は持った方がいいと思うわよ」

「羞恥心……ああ,さっきの話のことですか。ご心配には及びません。流石に自分から見せようとは思っていませんから。それに,それを言ってしまうと私だけでなく問題があると思いますけど?」

「うぐっ……」


 義妹の言葉に僕は二人から目線を逸らした。


「――ハルも何かあるの?」

「ありますよ。私が過剰にスキンシップをした反動でしょうか。完全に克服してからは女性恐怖症の時と真逆でを持つようになってしまって……」

「女性に興味……それって……」


 美陽みはるちゃんの冷めた視線に気付かない振りをしながら僕は明後日の方向を向いた。


「簡単にいえばになったってことです」

「ハルも大問題じゃない!!」

「そんなこと言われてもねぇ……」


 僕に関しても女性恐怖症を克服した反動でこのようなことになってしまったのだ。


 ――主に原因は義妹の過剰なスキンシップと周りの同級生達が原因だけど。

 

「まあ,ハルに関してはもう諦めるわ。ド変態なのは身に沁みて分っているから」

「あれは事故だよね!?」

「事故でも同じでしょう!!というか,やっぱり忘れてないじゃない!!」


 誘導尋問されてしまった……何だか解せぬ……。


「ふふっ,お二人って仲が良さそうですね――第1段階はクリアでしょうか」

「ユフィちゃん?」

「何でもないですよ。それで,今からどうしましょうか?」


 逃げるようにしてお店から出てきたが今はまだお昼前。


 昼食にはまだ少し時間があり時間を持て余していたのだ。


「午後からスタモルの方で遊びに行くんだよね?」

「その予定ね――ただ,ちょっと問題があるかも……」


 チラッと自分の服装と義妹の服装を見て美陽みはるちゃんは少し考え出した。


 僕に関しては眼鏡とカツラを付けて変装しているだけなのでは外せば特に問題がないが二人の服装……特に義妹の服装は一般のお店に行くには問題があると思った。


「たしかに,この服装では目立ってしまいますね。近くのお店で新しい服を購入するついでに着替えちゃいましょうか」

「そうね。ハルもそれでいいかしら?」

「僕は大丈夫だよ。それで,何処のお店に行くのかな?」

「そうですね。でしたら,近くのビルに――」


 義妹の案内で僕達は彼女がよく通っているお店まで案内してもらった。


美陽みはるさん,試着できましたか?」

「え,ええ。開けていいわよ」


 試着室のカーテンを開けるとそこには白いフリル付きのワンピースを着こんだ美陽みはるちゃんが恥ずかしそうに立っていた。


「よく似合っているよ,美陽みはるちゃん。凄く可愛い」

「あ,ありがとう……」

「うふふ。じゃあ,次はこっちも試着してみましょうか」


 そう言って今度は肩幅が見える大人っぽい服装を手渡してみた。


「これって露出多くないかしら!?」

「そうでしょうか?美陽みはるさんなら似合うと思いますのに――ですよね,兄さん?」

「まあ,似合うとは思うけど……」

「――じゃあ,ちょっと試着だけしてみるわ……」


 そう言って服を受け取ると美陽みはるちゃんは試着するためにカーテンを閉じた。


「いつの間にか美陽みはるちゃんのファッションショーになっちゃってるけどユフィはその服装で大丈夫なの?」


 ケーブルキーネックのセーターにロングスカートを履いた落ち着いた雰囲気の服装をしていた義妹に尋ねると問題なさそうにしていた。


 ――あと,髪の毛は普段の薄い青い色にも戻していた。


「私は問題はありませんよ。オシャレも大事ですが男性の方に見た目だけで判断されるのはあまり好みませんから」

「……そうだったね」


 義妹の言葉に僕は何も言えなくなってしまった。


 彼女自身も年頃の女の子らしくオシャレには興味を持っているが意外に落ち着いた服装が多かったりする。


 それも全て幼少期から男性から好奇な目を向けられていたことが原因であった。


「兄さんが望むならもう少し派手な服装に変えましょうか?」

「僕はその姿でも十分に可愛いと思うよ」

「ありがとうございます♪」


 嬉しそうに笑う彼女を見て僕も微笑むとそれと同時に試着室のカーテンが開いた。


「ど,どうかしら?」

「「…………」」


 そこには服装に合わせたのか少し大胆なポーズをしていた美陽みはるちゃんを見て僕は黙り込んでしまった。


 セクシーな色気を出しており似合ってはいるんだが――僕と義妹は彼女のある部分に目を向けてしまい僕は直ぐに視線を逸らした。


「――美陽みはるさん,私が勧めておいてこんなことも言うのもおかしいのですが……」

「な,何かしら?」

「もう少し……胸があった方がいいかもしれませんね,その服装は……」


 義妹の言葉に美陽みはるちゃんは身体をプルプルと振るわせて叫んでしまった。


「ユフィちゃんに言われなくても分かっているわよ!!着替えている時も自分も同じことを思って泣きそうになっていたんだから!!」


 彼女の切実な叫び声を聞いた僕は美陽みはるちゃんの前では胸の話は絶対にしてはいけないと心に誓った――あと,近くで叫び声を聞いていた店員さんは同情した顔でそんな美陽みはるちゃんに似合う可愛らしい服装を選んでくれたのだった。

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