第20話 彼女のために出来ることを
「それじゃ,作戦だけど――」
――だが,僕にはまったくそのことが頭に入ってこなかった。
「
「……大丈夫じゃない」
何が大丈夫じゃないかって?
二重の意味で僕は精神的に疲労困憊の状態であったからだ。
「ねぇねぇ,
「だ,だから
「まだってことは付き合うかもしれないってことでしょう?前々からよく一緒に居るからどうしてかなぁと思ってたんだけどそういうことだったんだね!」
「うぅぅ……」
「何で
「
「羨ましい,羨ましい,羨ましい……裏山に埋めるか……」
何か最後の方,物騒な声が聞こえて来たんですけど!?
彼等の気持ちは分かるがこればかりはどうしようもないことだ――何せ,僕と
かといって,
「王子,男子達が煩いなら黙らせましょうか?」
「気にしなくていいよ。
男子達は義妹がいるのに常盤さんという美少女が恋人だと言われて殺意を飛ばしているだけに過ぎないのだ。
――それに比べて誠央学園の学生達の状況はというと……。
「嘘でしょう?有り得なくない?」
「あんなパッとしない男の子が
「
「男性恐怖症と言いながら恋人を作っているってやっぱり噓吐きだったんだな」
正直,ここまで1年生達が酷いとは思ってみなかった。
見学に来ていた両学園の2年生に至っては僕や
学園ではカツラを被り見た目を陰キャに変えているので馬鹿にされるのは仕方がないと思うが,それを抜きにしても酷いと思ってしまった。
「にしても,ユフィちゃんは大丈夫か?お前を馬鹿にする子に容赦は……」
「――大丈夫だ,問題ない」
「
問題なさそうに
「既に王子を馬鹿にしている学生達は
「「(全く大丈夫じゃねぇ!!)」」
さっきの台詞のフラグもそうだが,問題だらけじゃないかと思った。
「う~ん,でもここまで騒ぎだすとそろそろ彼女が黙っていないんじゃないかな」
「そうだと思います」
先程と同様に今度は義妹の方を見ると僕達の方を見てニコニコと笑っていた。
ただ,口元をよく見ると――『兄さん,〇ってもいいですか?』とハイライトが消えた瞳で僕に言っているように見えたので義妹に全力で首を横に振った。
「あれは絶対に爆発寸前だと思うぞ?どうするんだ?」
トミーの言う通りこのまま暴言が続けば,義妹が動く前に風紀委員会や
「……
「どした,
進言した
「あいつ等って
「
「んじゃ聞くけど,
チラッと未だに星稜学園の女子達から僕との関係を聞かれて困っている
今は苦笑していたが,誠央学園の学生達の誹謗中傷は聞こえているはずだ。
正直,僕自身はいくら蔑まれようと構わないが――何かイラっとしてきた。
「決まりだね。それじゃ,作戦だけど――」
「それじゃ,頑張って来てね」
「「はい!!」」
「……悪いな,
既にコート内にいた
「僕は気にしてないよ。
はっきりと言えば,この状況を招いたのは
そして,おそらく義妹自身も何等かの関わりを持っていると見ていいだろう。
だが,先程のあの子の怒りようを見ると少し疑問を抱いてしまったのだ。
「俺もここまで酷くなるとは思っても見なくてな。あと,理由については……」
「おい,
誠央学園のチームに居た一人が
「
「気にしてないから大丈夫だよ。……君は
僕の言葉を聞くと彼は肩をすくめた。
「俺達は別に全員が
彼は将来に不安であることに違いはないが
そして彼がいる場所――
「ここだけの話にしてほしいんだが,
「おい!相手チームと何を話しているんだ!さっさと試合を始めろ!」
休憩席で踏ん反り返っていた
「
「わかってる」
これ以上,長話をするわけにも行かず,僕達は位置に付いた。
「……おいおい,何の冗談だ?」
「何で彼がジャンプボールなの?他にも身長の高い人がいるのに」
会場にいた学生達はざわつき始めた――まあ,騒がられるのは無理もないだろう。
何せ,ジャンプボールをするのはチームの中で一番背の低い僕だからだ。
「――どういうつもりだ?」
相手チームの男子生徒,身長からすると180cm前後だろうか?
それに対して僕は165cm前後,男子の中でも身長が低い方に入るのにジャンプボールをするのが不思議で仕方がなかったのだ。
「僕がジャンプボールをするのは可笑しいかな?」
見学している学生達からは馬鹿にするような声も聞こえてきたが,目の前にいる彼は至って真面目な顔をしていた。
「他の奴等は馬鹿にしているかもしれないが,全国に行けばお前ぐらいの身長でとんでもない化け物がいる時もあるからな。気は抜かないつもりだ」
噂に聞いていた通り誠央学園のバスケ部は本当に実力者であるらしい。
これは最初から本気を出さないと駄目かなと思い苦笑してしまった。
「それでは,誠央学園と星稜学園の試合を開始します!」
――おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
体育館に歓声が沸く中,審判の合図でボールが投げられると電光掲示板の時間が動き出し,試合開始となった。
誰もが最初のボールは誠央学園側が取ると予想していただろう。
――だが,最初からこの試合は予想外の出来事ばかりが起きた。
「なっ!?」
「トミー,お願い!」
身長差で圧倒的に不利だと思われていた星稜学園チーム。
その予想を大きく塗り替えて僕が弾いたボールをトミーが取った。
「よっしゃ!
ボールを取ったトミーは
「おいおい,何だよさっきの!?」
「彼って身長低い方でしょう!?どうなっているのよ!?」
会場にいた学生達,特に誠央学園の1年生達は僕のことを驚いていた。
「トミー,後ろ!」
「させるか!」
誠央学園チームの2人に囲まれていたトミーは僕にボールを渡すと近くにいた1人がボールを奪おうとした。
「
だが,そのボールは取られることはなく僕は直ぐにゴール近くにいた
「先制点は星稜学園だ!」
「
唖然とした誠央学園の学生達を他所に先程まで
「……
「みはるんは
「ええ。体育の授業の時も男子と女子は別々だったから」
彼が
「でも,あれってまだ本気出してないわよね?」
「
「あれで本気じゃないの!?」
「兄さんが本気を出したら誰も止められませんから。普段は目立ちたくないから力をセーブしているんですけどあれでおそらく4割程度じゃないでしょうか?」
「あれで4割って――それに,普段セーブしているの今はどうして……」
「おそらく,
「――えっ?」
ユフィちゃんの言った言葉に私が驚いていると彼女はクスクスと笑い出した。
「兄さんって自分のことでは滅多に怒らないんですけど自分のご友人が蔑まれたりすると怒るんです。特に自分が大切にしている人の場合は」
彼女の言葉を聞いた私はもう一度,コート内で試合をしている
自分が大切にしている人――おそらく,今の彼は私のことを恋愛感情では見ておらず友人の一人として見ているだけなのだろう。
それでも,自分の為に頑張ってくれている彼の顔を見て私は知らずに叫んでいた。
「
そんな私の応援が聞こえたのか彼はこちらを振り向くと軽く手を振ったのだった。
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