第21話 星稜学園チームの実力

「皆,おつかれさま~」


 1回目の休憩が入り,休憩席に戻ると座っていた佐倉さくら先輩が近付いて来て労いの言葉を掛けてくれた。


「12-15か。今のところは順調かな」


 電光掲示板の近くに置いている点数表を見て佐倉さくら先輩は考え事を始め出した。


「しっかし,相手さんやっぱり強いなぁ」

「まあ,相手は全員バスケ部だからな。強くて当たり前だと思うぞ」


 ――トミーも織斑おりむら君も普通に話しているが気付いているのだろうか?


 彼等は全国クラスの強豪,強くて当たり前と言っているが,そんな彼等に3点差で食い付いている僕達の方が周りからしたら異常であるのだ。


 しかも,大助だいすけすすむに関しては息すら上がっていないという。


 チラッと誠央学園側の休憩席を見ると赤松あかまつ先輩は余裕そうにしていたが,翔琉かける達バスケ部のメンバーは思い詰めた顔をしていた。


「向こうって最初のうちに点数を引き離すつもりでいたんでしょうか?」

「そうじゃないかな。最初のうちに点数を引き離しておいて後半戦からは体力を温存しつつ守りに徹しようと考えていたんだと思うよ」


 休憩席にいる他のバスケ部達を見ると悔しそうにしている子達が何名か見えたので佐倉さくら先輩の考えは当たっていたようだ。


「――シンく~ん」


 声をした方を向くとかえで先輩と風紀副委員長であった一葉かずは先輩が一緒にいた。


神条かみじょう君,おつかれさま。もう安心していいわよ」

「安心?」


 一葉かずは先輩が観客席の方を見ると僕も釣られて観客席を見た。


 よく見ると先程から僕や常盤ときわさんに暴言を吐いていた学生達が風紀委員会の学生達に注意をされていた。


悠姫ゆうひが暴言を吐いていた子達を控えておいてくれたから直ぐに対処ができたわ。あまりにも酷い子達は観客席から退場させたからもう大丈夫よ――ただ……」

「ただ?」

「ふふっ,は仕方がないわね」


 かえで先輩が常盤ときわさん達の方を向くと先程と同様に女子達が常盤ときわさんに群がっていた。


 どうやら,先程僕に応援していたことで更に関係が気になったらしい。


神条かみじょう君,悠姫ゆうひがいるんだから浮気は駄目よ?」

一葉かずは先輩,何回も言いますけど義妹と僕はそんな関係じゃありませんよ?あと,その言葉はそのままそちらにお返しします」

「……私はもう諦めているからいいわ。シンも本気じゃないのは分かっているから」


 ニコニコと笑っている佐倉さくら先輩を見て一葉かずは先輩は珍しく彼をジト目で見た。


 実は佐倉さくら先輩と一葉かずは先輩は学園でも有名なでもあり,自分達の知らない所ではかなり熱々の関係でもあったりする。


 そんな佐倉さくら先輩は未だに他の女子生徒から告白が絶えず,たまに遊んだりもしている――のだが,本人は一葉かずは先輩以外とは本気で付き合おうと考えていないらしい。


「まあ,僕に取っては一葉かずはが一番大事だからね。……もう1つ増えたけど」

「「もう1つ?」」

 

 どういうことだろうと思っていると佐倉さくら先輩は近くにいたかえで先輩を見た。


 何故かかえで先輩が少し嬉しそうな顔をしているように見えたがどういうことだろう。


 そういえば,さっき二股がどうとか言ってたような気が――!?


佐倉さくら先輩,あなたって人は……」

「ん?なんだい?」


 未だに問題なさそうにしている佐倉さくら先輩を他所に嬉しそうにしているかえで先輩と少し照れた顔をした一葉かずは先輩を見て何も言えなくなった。


佐倉さくら先輩!!羨まし過ぎますよ!!2年生の二大美少女を一人占めなんて!!」

冨塚とみつか君も女の子にはモテていなかったかな?」


 佐倉さくら先輩の言う通りトミーも女の子にはモテており,僕が紹介した女の子達とも付き合っている――のだが,何故か1週間ぐらいすると別れているのだ。


 しかも,その理由が喧嘩別れしたとかではないという。


「何故か俺のことを彼氏としては見れないって言われるんすよ!なのに友達ならOKとか言われるから女の子の友達は増えてばかりで!」

「トミーのそれって良いのか悪いのかよく分からないよな……」


 僕も織斑おりむら君に同感であった。


 そんなやり取りをしていると電光掲示板が鳴り,休憩タイムが終わったようだ。


「それじゃ,次も頑張って行こうか!」

「「はい!」」

「皆~,頑張ってね~」

「分かっていると思うけど怪我はしないようにね」


 佐倉さくら先輩達に送り出された僕達はコートに入ると休憩時間中に話し合った作戦の確認のために一度円陣を組んだ。


「んで,今度はあの作戦で行くのか?」

「うん。おそらく,僕はかなりマークされているような気がするから」


 最初の方で目立ち過ぎたのか途中から僕のマークが厳しくなってきたのだ。


 それを見兼ねた佐倉さくら先輩から少し作戦を変更しようと提案があったのだ。


大助だいすけすすむ。任せて大丈夫かな?」

「お任せを,王子」

「必ずや勝利をお届けしましょう」


 暑苦しい二人の態度に苦笑したがこの二人は本当に頼りになると思った。


「!?おい,どういうことだ!?」


 試合が再開して誠央学園側のチームは直ぐに気付いたようだ。


 何せ,先程と同じように攻勢を仕掛けていると状況が変わって後ろにいた2人が前に出て来ていたのだ。


桐原きりはら,あの2人って誰か分かるか?」

「ユフィちゃんとよく一緒にいる男子生徒ってぐらいしか分からないな」


 翔琉かけるも2人のことは義妹とよく一緒に行動をしていることしか分からないのだ。


 そう思っていると翔琉かけるにボールがパスされた瞬間,そのボールは前に出ていた金髪の男子生徒に奪われてしまった。


桐原きりはらすまん!」

「気にするな!それよりも早く戻る――って,おいおい!?」


 翔琉かけるが気付いた時は既に遅く後ろにいた二人をあっという間に抜かれてシュートを決められていたのだ。


「いいぞー,天野あまの!!」

天野あまの君ファイトー!!」


 観客席からの応援が沸く中,先程の攻勢に翔琉かける達は眉をひそめた。


「二人とも何やってるんだ!?」

「そんなこと言われても仕方はないだろう!急に突っ込んできたと思ったら正面を向いたまま直角に曲がり出したんだぞ!あんなの対応できるか!」

「落ち着け二人とも。まだ,こっちの方が有利だ。冷静に対処して行くぞ」


 ――だが,この翔琉かけるの言葉とは裏腹に誠央学園側は劣勢を強いられることに……。


「おい!また,あいつが一人で突っ込んできたぞ!」

「くそっ!今度こそ抜かせるか!」

「絶対に止めるぞ!これ以上,点数を離されてたまるか!」


 ボール持っている茶髪の男子,すすむの攻勢を3人で足止めしようとした。


「見える,見える,見える――」


 だが,すすむはまるで動きが見えているか人間とは思えないような動きをしていとも簡単に3人を抜いていった。


「こいつ等,本当に人間かよ!?動きがおかし過ぎるぞ!?」

「そんなこと言っている場合か!?急いで戻るぞ!!」

「もう遅い――王子,後は任せました」


 僕はすすむからボールを受け取るとそのままシュートを決めた。


「みはるん,みはるん!遙人はると君がまた点数を入れたよ!」

結衣ゆい,落ち着きなさいよ。……にしても,星稜学園側がここまで強かったとはね」

「そうね。神条かみじょう君も凄いけどあの2人も経験者なのかしら」


 観客席にいた彼女達も僕だけでなく2人の動きに驚きを隠せずにいた。


 ただ,義妹だけは何も言わず,笑みを浮かべながら試合の行く末を見守っていた。


「お前達,さっきから何をやっているんだ!」


 そんな中,先程からの光景に休憩席で踏ん反り返っていた赤松あかまつ先輩が立ち上がり,試合をしていた1年生に激怒し出した。


「そんなこと言われてもな……」

「俺達だってどうなっているかまったく理解が出来ていないっていうのに」


 赤松あかまつ先輩の言葉に誠央学園側の1年生達は不満を募らせた。


「お前等,そろそろハーフタイムだ。一旦,作戦を練り直すぞ」


 翔琉かけるはそう言って皆を落ち着かせようとしたが,ハーフタイムが来るまでに追加点も許してしまい,点数は35-20と大きく差を付けられてしまった。


「おい,1年生!やる気はあるのか!赤松あかまつさんが恥をかいたらどうするんだ!」

「そうだぞ!それにお前達は赤松あかまつ様に援助が約束されているんだぞ!もう少し死ぬ気で頑張ったらどうなんだ!」

「まあまあ,先輩方。落ち着いてくださいよ」


 休憩席にいた赤松あかまつ先輩の取り巻き達に叱られている他の1年生の間に入って翔琉かけるは先輩達を宥めていた。


「お前も同じだぞ,桐原きりはら!あの陰キャみたいな奴と知り合いみたいだが手を抜いているわけじゃないだろうな!」

「う~ん,手は抜いてませんよ?それに,俺だってあいつと賭けをしているんですから負けたら美陽みはるとの恋人関係を認めないと――」


 衝突している翔琉かける達を気にしながら休憩席にいた僕は溜息が出そうになった。


「王子,何か問題でも?」


 スポーツドリンクを手渡して来たすすむにお礼を言うと改めて翔琉かける達の方を見た。


「僕達の方は特に問題ないよ。ただ,向こうは相当荒れているなぁと思ってね」

「気にする必要はないのでは?向こうが負けても特に問題はないはずですし,こちらは四之宮結衣しのみやゆいを守れる,王子は常盤美陽ときわみはると恋人を続けられると思いますが?」

「そうなんだけどね。というか,常盤ときわさんと僕は恋人じゃないよ!?」


 僕が否定すると何故かすすむは不思議そうな顔をしていた。


「姫様から王子の恋人だと伺っていたのですか,違うので?」

「違うよ!というか,ユフィは何て勘違いを君達に……」

「――間違いではないと思いますよ?」


 声が聞こえた方を振り向くとそこには義妹達だけでなく常盤ときわさん達も一緒にいた。


「スケさん,カクさん,ご苦労様です。トミー君と智樹ともき君もお疲れ様です」

「「勿体なきお言葉です,姫様!」」


 頭を下げる二人に常盤ときわさんと青葉あおばさんは顔を引き攣られていたが結衣ゆいちゃんだけは何故か興味津々に二人を見ていた。


「……神条かみじょう君,勝てそうですか?」


 顔を引き攣らせていた常盤ときわさんがいつもの表情に戻ると心配そうに尋ねて来た。


 点数が離されているとはいえ相手はバスケ強豪校のチーム――この先どうなるか分からないからだ。


「何事もなければ問題なく勝てると思うよ。敢えて言うなら1点だけ気になることがあるんだよね」

「気になること,ですか?」

「――翔琉かけるってあれが本気なのかと思ってね」


 僕に勝負を仕掛けて来たのはいいが,これでは自分がワザと負けて僕を勝たせてしまうように周りから見えてしまうだろう。


 そんなことをすれば,周りからまた変な噂が流れることは必然だ。


 翔琉かける自身もそんなことは望んでいないだろうし僕ならギリギリの状況で――。


「どういうことですか!?約束がまったく違いますよ!?」

「なんだなんだ?誠央学園の方で喧嘩か?」

「あれってたちばなさんじゃないか?赤松あかまつと何か言い争いを始めたぞ」


 誠央学園側の休憩席から叫び声が聞こえてきたので見てみると赤松あかまつ先輩に眼鏡を掛けた女の子が抗議をしていた。


「あれって,たちばなじゃない?」

「だよね。赤松あかまつ先輩と喧嘩しているように見えるんだけど」


 しばらくすると赤松あかまつ先輩は話を止めて呆れた顔をしながら取り巻き達を連れて何処かへ行ってしまったようだ。


 そんな赤松あかまつ先輩の後姿を睨んでいた彼女――常盤ときわさんと対立している女の子,橘美夜子たちばなみやこはこちらの視線に気付いたのか重い足取りで僕達の前まで歩いて来た。

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