第2章 偽装恋人編
第2章 序章
第2章 プロローグ
――ピッ……ピッ……ピッ……
真っ白な病室の中で電子音の音だけが聞こえていた。
ここは何処だろう?
僕はたしか,小学校の修学旅行に行っていたはず――いや,違う……。
朧げな頭で当時の情況を思い出した。
よくよく考えたら修学旅行は既に終わっていたのだ。
修学旅行の最終日,僕は森の中を彷徨っていたんだ。
――どれくらいの時間を彷徨っていたんだろう?
ほんの数時間程度?
それとも、丸1日?
駄目だ……記憶が曖昧で直ぐに思い出すことができない……。
「…………」
ふと視線があることに気付いた。
薄っすらと目を開けるとそこには赤い髪をした女の子が僕を見ていた。
年齢的に僕と同じぐらいの歳だろうか?
可愛らしい顔をした女の子で虹色のような瞳が印象的であった。
「――可愛い子……」
女の子は目を輝かせて僕の頬に手を触れようとした。
『
――女の子の手を見て思い出したくない記憶を思い出してしまい,僕はその触れようとした手を見て身体を震わせて酷く怯えた顔をした。
「……震えているの?大丈夫?」
触れないでと叫びたかったが上手く言葉を出すことが出来なかった。
優しい声を掛けて来た女の子の手が僕の頬に触れそうになると怖くなったのか目を瞑ってしまった。
だが,女の子の手が僕の頬に触れることはなかった――むしろ,僕は女の子に優しく抱きしめられて頭を撫でられていた。
「泣かなくても大丈夫だから。怖くないから……ね?」
どうやら,僕はあまりの怖さに涙を流していたらしい。
優しく抱きしめられた僕はいつの間にか震えも無くなり涙も止まっていた。
「よかった――名前って言えるかな?」
抱きしめるのやめた女の子は僕に名前を尋ねて来た。
「……ハ,ル……」
「ハルって名前なんだ――それにしても,本当に可愛い女の子だなぁ……」
彼女は興味深々な顔で僕のことを見詰めていた。
幼い時の僕は男の子というよりも女の子に見間違えられることが多く中学の2年生になるまではよく可愛いと言われていた。
その影響で虐められる原因にもなっており,今回の修学旅行で起きた出来事もその虐めが原因でもあった。
「あ!?ここにいたのね……って!?君,目が覚めたの!?」
病室に入って来た看護師さんが慌てた様子で僕の顔を覗き込んだ。
「私の顔が分かる!?直ぐに先生とご家族を呼んでくるから!」
軽く頷く僕を見て看護師さんは慌てた様子で部屋を出て行こうとした。
それと同時に男性らしき人が病室に入ってきた。
「――ここにいたのか」
「っ……おとうさま……」
赤い髪の女の子は男性を少し怯えながらそう呼んだ。
「ちょうどよかった!この子が目を覚ましたんです!直ぐにご家族の方を呼んで来ますので少しの間だけ見ておいてもらっていいでしょうか!?」
「問題ない。こちらで見ておこう」
看護師のお姉さんは頭を下げると急いで病室から出て行った。
「――お前は
「……わかりました。じゃあ,またね」
そう言って僕の頬に手を当てて微笑むと女の子は病室を出て行った。
――だが,その光景を見て男性は非常に驚いた顔をしていた。
「驚いたな。あの子が子供とはいえ異性に触れるとは――俺が分かるか?」
僕に近付いて来た男性は置いてあった椅子に腰掛けると僕の顔を見た。
そんな男性に僕はまだ上手く喋ることはできなかったので軽く頷いた。
「お前は5日も森を彷徨って――いや,違うな。碌でもない大人達に森の中に置き去りにされたと言った方がいいだろう」
――置き去りにされた……その言葉を聞いてやっと思い出して来た。
修学旅行の最終日,僕は班ごとに決められたクラスメイト達と共に比較的に安全な場所で散策を楽しむはずであった。
そして,僕の班には僕を虐めていた女の子が一緒だった。
『ねぇ,かくれんぼしましょう?』
ふと少し離れた森の中で女の子は班にいた僕と他の女の子達にそう提案してきた。
女の子に恐怖を抱いていた僕が何故女の子達と一緒にいるかって?
理由は虐められていた僕は彼女に歯向かうことを既に諦めており,恐怖を抱いていても彼女の命令に従うことが当たり前になってしまっていた。
『いい?
『……うん,わかったよ』
森の奥を指さした彼女の言うことを僕は守ろうと思った。
じゃないと,また彼女だけでなく彼女の周りの子達からも酷い目に合わされる。
僕が数を数えていると薄っすらと笑い声が聞こえてきたが気にしない様にした。
『もういいかい~』
『『ま~だだよ~』』
何度か同じやり取りを繰り返していると女の子達の声は聞こえなくなった。
『まずはあの子から探さないと。じゃないと,今度はどんなことをされるか……』
早く見つけないとあの子はまた怒り出すかもしれない。
僕は彼女が隠れていると言った方を見ると急いで彼女を探し始めた。
だが,彼女だけでなく他の女の子達も一向に見当たらない。
――何時間ぐらい探し回っていたんだろう……。
気が付くと空は夕暮れに染まり,真っ赤になっていた。
『本当に何処に行ったんだろう――先生達も心配して……あれ……』
歩き疲れて一度立ち止まり,ふと疑問に思った。
空は真っ赤に染まっている――即ち夕方になっているということだ。
バスの集合は15時のはず……どうみても集合時間を過ぎているのだ。
『何で先生達は僕達を探しに来ないんだろう……。それに,ここは一体……』
周りを見ると辺りは木が連なっている森になっており,ここが何処かまったく分からない状況になっていた――どうやら,僕は道に迷ったらしい。
『もしかして,あの子達も迷子になったんじゃ……。急いで探さないと!」
あの子は自分の気に食わないことがあると直ぐに手を上げてくる。
見付けられなくて迷子になったと言われて学校に戻ったら今度はどんな虐めをされるか分かったものじゃない。
おまけにあの子は僕のとんでもない写真を持ってもいるんだ。
あれを学校中にバラまかれたら家族に迷惑が掛かってしまう。
なりふり構わずに僕はまた必死で彼女を探そうと歩き出した。
そして――気付けば夜になり,僕は木にもたれ掛かって休むことにした。
『夜になちゃった。あの子達は本当にどうしたんだろう。それに,先生達も』
正直,彼女達も見付からない,先生達も探しに来ない……あまりにもおかし過ぎると思った――が,僕は気付くのがあまりにも遅すぎてしまったようだ。
――あの子達や先生達が……僕をここに見捨てて置き去りにしたことを……。
日が昇り,日が沈み,何日も僕は森の中を彷徨い続けた。
そんなことを繰り返していると僕は到頭歩けなくなり倒れ込んでしまった。
『……お腹空いたな……本当に……何でこんなことになったんだろう……。あの子達は……無事,かな……。義妹に…………何て……謝ら……』
僕の意識はそこで途絶えてしまった。
そうしてまた目を開けると――そこは病院ではなく見慣れた天井であった。
「……懐かしい夢だ。あの時は本当に心配を掛けてしまったな」
ベットから起き上がると当時のことが鮮明に思い出される。
この歳になったからこそ分かる……僕が経験したあの出来事は捜索隊がもう少し遅ければ命を落とす危険性もあったのだ。
そして,僕はこの事件が原因で本格的な女性恐怖症の体質を発症してしまい,しばらくの間は母さんや義妹と真面に喋ることも出来なくなったのだ。
「それにしても,あの時の女の子と男性は誰だったんだろう」
はっきりと覚えてないが,女の子の虹色の目が特に印象的だった。
「……よくよく考えたら何となく
時計を見ると急いで学園へ行く準備をしないといけないと思った。
偽装とはいえ彼女を待たせるのは男としてどうかと思う。
僕は顔を洗うためにベットから起き上がるとそのまま自室を出たのだった。
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