外伝 動き出したそれぞれの思惑(???視点)

※今回の話は複数の場面に入れ替わりお届けいたします。


「――そうですか。彼は美陽みはる嬢と恋人になったと……」


 モニター通信越しに映る人物を前にLICENSEライセンス本部の本部長である自分,伊澄純一郎いすみじゅんいちろうは安堵の溜息を吐いた。


伊澄いすみ君,気を張り詰め過ぎだと思うが……』

「そうでしょうか?むしろ,自分よりもあなたの方が安堵しているのではありませんか――本柳もとやなぎ幹事長」


 皺を寄せていた初老の男性――現政権である新民党の幹事長を務めており事実上のである本柳もとやなぎ幹事長に尋ねた。


『君も痛い所を突いてくれないでくれ。馬鹿息子が原因でこのような事態になったのだ。美陽みはる君もそうだが巻き込んでしまった君の部下にも申し訳ない』

「幹事長,何度もいいますが今のLICENSEライセンス取得者達は……」

『そう,だったな。昔と違って彼等は軍属でもなければ政府の犬でもない。いや,表立ってはと言った方がいいか』


 自身の言ったことに苦笑している幹事長を見て自分も肩をすくめた。


 自分達がLICENSEライセンス取得者として活動していた時に比べられば彼等は大分自由が利くようになったと思う。


 ――その反面,昔から続いている様々な問題が浮き彫りになって彼等に危ない橋を渡らせているのも事実であるが……。


 まったく,あの時代の者達は何を考えて若い世代を犠牲にさせることを当たり前と思っているのか未だに理解が出来なかった。


「それで幹事長。これからどうするおつもりですか?御子息が復学されるのは再来月頃だと聞いておりましたが?」

『……近い内にあの子には美陽みはる君に恋人が出来たからこれ以上は彼女に執着しないように言うつもりだ。納得してくれればの話だがな』

「心中,お察しいたします」


 私の言葉に幹事長は溜息を吐くと通信を切った。


 幹事長の御子息は頭の良い子で美陽みはる嬢共々,特に問題のある子には思えなかったんだが――誠央学園に入学が決まった時期からおかしくなり始めたと見ていいだろう。


「やはり,あの学園は何かあると見て間違いないだろう。司馬しば新井あらいから聞いている情報だけでは最深部までまだ分からないが……」


 かといって,


 藪を突いて蛇だけならまだいいが,それ以上の物が出ないとも言い切れん。


「それにあの子にはあまり誠央学園のことを関わらせたくない。神条かみじょうから例の件は彼には教えない様に言われて――ん?誰から通信だ……」


 考え事をしていると誰からか通信が入っていることに気付き繋げた。


伊澄いすみだ。どうした?」

『……久しぶりだな,伊澄いすみ。娘が迷惑を掛けている』

「!?――お前から連絡を寄こすとは珍しいな,天河あまかわ……」


 連絡が来るはずのない人物からの連絡に自分は笑みを浮かべると共に要件はおそらく常盤美陽ときわみはるの件だと思うと溜息を吐くしかなかった。


**************************


「ふぅ~……」


 伊澄いすみ君との通信を終えて先程と同様に私は執務室で溜息を吐いた。


「先生,お疲れでしょうか?」

「そうだな。息子のこともそうだが,今後のことも色々とある」


 ――LICENSEライセンス……。


 元々は諸外国の諜報員や国内で暴れ回るに対応するために設立した超法的処置を有したエージェント。


 政府関係者達から政府の犬と言われているが彼等の御蔭で国内が守られていたことも事実であり,彼等に重荷を背負わせ過ぎていたことも事実だ。


 そして何より――我々は若い世代を使い捨ての駒にしてしまったのだ。


「昔と違って情勢は落ち着いた。日解連もほぼ壊滅したと見ていいだろう。もう,彼等には普通の生活を送らせてやらねばならん」


 政権が変わりLICENSEライセンス取得者の削減,それに伴う国防軍の軍備強化,同盟国への協力要請……様々な改革を数年で行ったことで国民には納得してもらえないが,私の首と引き換えにしても成し遂げないとならない。


 ――祇園で起きた事件を二度と繰り返さないためにも……。


新居あらい君は何と言ってきてる?」

「話には応じると。ただ,鹿森ししもり先生達の周辺の方々が納得してないと連絡が……」

「老害共が――未だに自分達が行ったことを認めない上に若い世代を食い潰すつもりか!?出生率の減少は止まってきているとはいえ状況を理解しているのか!?」


 自分も老害の一員であるため他人事のように言えないが,何故そこまでして自分達の保身のために動こうとするか理解ができなかった。


 それに,自分達の下の世代も新居あらい君のような少数以外は本当に頼りない。


 ――未成年のLICENSEライセンス取得者を大量に動員したことによる弊害がここに来て一気に問題になるとは本当に頭の痛い問題であった。


 ――プルルルルルル


「……少し失礼します。……もしもし……えっ!?坊ちゃんが!?」

「どうした?馬鹿息子が何かあったのか?」


 電話を切った秘書が眉をひそめて私にとんでもないことを言った。


「坊ちゃんが先生とお話がしたいと言っております――常盤美陽ときわみはる様に恋人ができたのはどういうことなのかと……」

「何処から情報が漏れたんだ!?また,馬鹿息子の取り巻き達からか!?」


 こちらから話を切り出す前に情報が行き渡るとは……。


 何故,息子の周りに馬鹿共の息子が集まったのか理解が出来なかった。


「……家に戻り次第,話をすると言っておいてくれ」

「かしこまりました」


 溜息を吐きながら執務室に置かれている椅子に深く腰掛けると頭を抱えた。


 本当に何故こうも頭の痛い問題が続くのか――常盤ときわ君か彼が政界に居てくれれば状況は変わったかもしれないと思うと先程よりも盛大に溜息を吐いてしまった。


**************************


「――本柳もとやなぎには連絡しておいたぞ」

「おつかれさまです,大輝だいき様」


 とあるカラオケ店のソファーに深く腰掛ける誠央学園の男子生徒,石神大樹いしがみだいきに自分は労いの言葉を掛けた。


 そして,その周りには大学生ぐらいの女性二人が彼に抱き着いていた。


「ねぇ,次はそっちが歌ってくれてもいいでしょう?」

「そうそう。カラオケに来たんだから歌わない――キャッ!?」


 だが,彼は彼女達を振り払うと蔑むような目線をした。


「……金はやる。早く失せろ」

「!?そんな言い方ないでしょう!?そっちが誘ってきた――ヒッ!?」


 扉付近にいた男性が二人を睨むと彼女達は怯えたような顔で震え出した。


 しばらくすると,彼女達は言われた通り部屋から出て行った。


「お前も外に出ていろ。スタッフが来ても中に入れるな」


 扉の前にいた男性は何も言わず,そのまま部屋を出て行った。


「……なぁ,石神いしがみ。勿体なくなかったか?あの大学生達,結構美人――」

「あんな下等市民なんて興味ねぇな。狙うなら誠央学園の美人か,星稜学園のあの青髪の女も悪くないな。あの時は驚いたがあれはかなりの上玉だぞ」


 厭らしい笑みを浮かべる彼を見て周りにいた彼の友人達は肩をすくめていた


 ――石神大樹いしがみだいき,父親は一般家庭の出身であるが常盤ときわ女学園の女子生徒と結婚し,妻の父親の後ろ盾もあって政界へと足を踏みいれた経歴を持つ。


 そして,父親と同様――彼もまた誠央学園のこの国を導く存在という呆れた校風によってエリート思考が植え付け垂れた男子生徒でもあった。


「それにしても,たちばなさんのところで問題が起こるなんてな。本柳もとやなぎがいないとはいえ俺達は何もしなくてよかったのか?」

「あいつのダチから動くなと言われているだろう。何か言われてもあいつらの責任にすればいい。にしても,星稜の奴等には感謝しかないな」


 自分達が何もしなくても今回の件であちら側が相当な痛手になっただろう。


 これで自分達が動いてもあまり目立つことはなくなったのだ。


「それで,お前が言うには今はまだ動かない方がいいと?」


 彼だけでなく周りにいた友人達も自分を見た。


「動くのは本柳もとやなぎ様が戻って来てからの方がいいでしょう。今動けば悪目立ちをして逆に動きにくくなるかと。それに,新しいが手に入るかもしれないのに吟味するのもまた楽しみの1つかと」

「はっ,たしかにその通りだな。――くれぐれも本柳もとやなぎにはバレないようにしろ」

「わかっております。では,自分はこれで」


 彼等に頭を下げると自分は部屋を出て行った。


「――何処へ行ってもああいった連中は馬鹿共ばかりだな。まあ,こちらは手に入る物さえ手に入ればそれでいい。それよりも,今度はあちらに動いてもらおうか。そろそろあのお嬢様がしびれを切らし始める頃だろうからな」


 微かに笑うとある人物に電話を掛けるために自分はカラオケ店を出て行った。


**************************


「何であの二人が星稜学園にいるのよ!!」


 部屋に置いてあった花瓶を投げつけるとガシャンと物凄い音で割れた。


「……お嬢様,落ち着いてください。また,旦那様に叱責されますよ?」

「うるさい!あんたは私の側仕えでしょう!命令を聞いておけばいいのよ!」

「……かしこまりました」


 私に注意をしたスーツを着た男性は溜息を吐いた。


 何であなたまでそんな顔で私を見るのよ!?


 私が一体,何をしたって言うの!?


 色々なことが重なり,私のイライラは今にも爆発しそうになっていた。


 ――プルルルルルル


「……少し失礼します。もしもし,私だが……」


 男性が電話を掛けに外に出ると私は部屋にあった椅子にドカッと座り込んだ。


 ――何で私の人生を狂わせたあの2人が星稜学園にいるのよ……。


 あの2人を見掛けたのは本当に偶然であった。


 2年生の赤松あかまつが起こした決闘試合――暇つぶしに途中からその試合を見に行くとあの子が星稜学園の休憩席に現れたことに驚いてしまった。


 そして,私が彼が選手として試合に出ていることにも。


「でも、まさか彼があのツンツン女の彼氏だったなんて……どうなっているのよ!」


 あの2人が原因で私のあの後は散々な人生あったが,お爺様の助力で伯母様の養子としてに引き取られたことで人生は好転すると思った。


 だが,伯母様……お義母様と再婚したあの義父の影響であのツンツン女と毎日のように競わされる日々は本当にうんざりであった。


「来る日も来る日も勉強だの,お稽古だの,何でこんなことばかりしないと駄目なのよ!あいつは私のことを何だと思っているのよ!」


 誠央学園に入学してからは仕事が忙しくなったのか私のことを無視し始めた。


 今までの憂さ晴らしも兼ねて色々とやりたい放題をしていたが,本柳もとやなぎの馬鹿が起こした事件で身動きが取れなくなりあいつに知られていなかった今までのことがバレて大目玉を食らったのだ。


「何が今度同じことを起こしたらただでは済まさないよ!血の繋がりもなく婿養子で来ただけなのに!お爺様もあんな奴とお義母様を何で結婚させたのかしら」


 教師達にも目を付けられて動けない,グループは本柳もとやなぎ達によって半壊,おまけに星稜学園には昔の私を知るが大勢いる。


 本当に色々と重なって鬱憤が溜まって行くばかりであった。


「――そうだわ。たちばなが問題を起こしたから少しは教師達の目も緩くなっているはず。あの2人やツンツン女は無理だけどあいつも彼女なら何も言わないでしょう」


 卑劣な笑みを浮かべる私は今まで溜まっていた鬱憤を晴らすために何をして彼女を遊んであげようか楽しみながら考えた。


 そんな顔を見て部屋に戻って来たスーツの男性は私のことを呆れた顔で小説に出て来る皆に嫌われた悪役令嬢のように思ってしまったようだった。

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