第29話 僕はハーレム王になる!?

「はぁぁ!?条件を変更したぁぁ!?」


 昼休み,委員長達と久しぶりに食事を取るということで翔琉かけるを除いたいつものメンバーで昼食を取っていると青葉あおばさんが叫んだ。


「ええ。私に謝罪をしなくてもいいから今日中にハル達に謝罪をするようにたちばなさんに伝えてもらうように頼んだわ。ごめんなさいね,結衣ゆい……無理を頼んじゃって」

「大丈夫だよ。お爺ちゃんも本人がそれで納得するなら構わないって」


 結衣ゆいちゃんが言うには未だに謝罪をしない彼等を見て白星しらほし総帥の堪忍袋がそろそろ切れ掛けていたようなのだ。


 しかも,たちばな会長ですら激怒寸前であったらしく謝罪をしない彼等が原因でたちばなさんのが鉄槌を降されていたかもしれなかったという。


「でも,みはるんはそれでよかったの?あれだけ皆から色々と言われていたのに謝罪をしなくていいって」

「別に構わないわ。謝罪はないけど私に敵意を向けないことには変わりないもの。それに,これで謝罪がなければ私も彼等を許さないから」


 彼女の言う通り謝罪をしないということ――即ちそれは試合に出ていた僕達に謝罪をしないと言っていると同じであったのだ。


 流石の美陽みはるちゃんも事件に全く関係のない僕達に謝罪をしないということは容認できないようだ。


「それにしても,何で妨害までして謝罪をさせないように動いたんだろう?彼等が謝るわけではないのに理由がまったく分からないんだよね」

「「…………」」


 僕の言った言葉に美陽みはるちゃん達は何故か黙り込んでしまった。


 ――僕,もしかして何かやらかしてしまったのかな……。


「はるるんが分からなく当然だよ~」

「ん?この声は――」


 声が聞こえて来た方を振り向くとそこには義妹と珍しい二人が一緒であった。


「やっほ~,はるるん。色々とやらかしたみたいだね~」

「アンちゃん!?それに……灯里あかりちゃんとユフィも……」


 そこには定食を持った義妹とアンちゃんと灯里あかりちゃんが一緒にいた。


「ユフィちゃん!?隣にいる可愛い子って――」

「そういえば,美陽みはるは写真でしか見せてなかったわね。というか,何で新井あらい悠姫ゆうひ達と一緒にいるわけ?」

杏子きょうこさんと灯里あかりちゃんは私とクラスメイトでして最近ではご友人にもなったので一緒によく行動を」


 義妹が僕を見てウィンクすると事情を察したのか僕は肩をすくめた。


 なるほど――赤松あかまつ先輩達の情報を義妹に教えたのは彼女だったのか……。


「皆さん,ご一緒してよろしいでしょうか?」

「僕は別に構わないよ。皆も構わないかな?」


 美陽みはるちゃん達に確認を取ると特に問題なさそうに頷いた。


「――おいおい,何だあの席は……」

「あれって常盤ときわさんと神条かみじょうさんだよな?それに,青葉あおばさんに四之宮しのみやさん。しかも,椎名しいなさんに誰だよあの茶髪の美少女は!?」

「あれって神条かみじょうだよな?何であんなに美少女に囲まれているんだ?」


 食堂にいた女子生徒達は不思議そうにこちらを見ていたが男子達はこちらの様子を見て僕を羨ましそうに見ていると思ったら徐々に殺意をむき出しにしてきた。


「はるるんも大変ですなぁ。美少女に囲まれて」

「揶揄わないでくれるかな。それから,美陽みはるちゃん。灯里あかりちゃんが怯えているから猛獣みたいな視線を向けるのは止めようね?」

「そんな視線は向けてないわよ!それで,灯里あかりちゃんだったわね!?椎名しいな先生の妹さん何でしょう?部活とか何処に入っているのかしら!?」

「え,え~っと……」


 何時ぞやの商業施設同様に息遣いも荒くキマッた目で灯里あかりちゃんに詰め寄る彼女を見て本当に大丈夫?と心配になってしまった。


「――それで兄さん,お姉様達と何を話されていたんですか?」

たちばなさん達のことだよ。そういえば,アンちゃん。さっきの意味はどういうこと?僕が分からないのは当然だって」

「そのまんまの意味だよ~。これは誠央学園の学生じゃないと分からないと思うんだよね~。あの子達が謝罪しない理由は別のこともあると思うけど先生達もな~んであんな下らないことを教えるんだろうなって私は不思議に思ってるだよねぇ~」


 理由を説明してもらうと僕や義妹達は眉をひそめた。


 ――誠央学園に在学した君達にはこの国を導く責任がある……。


 誠央学園とはこの国を引っ張っていく有能な学生を育てるために設立された学園であり,多くの政財界にいる著名人達は誠央学園の卒業生だと言ってもいいだろう。


 そして,今でこそ崩壊した星央会も設立してから十数年の間は政財界に太いパイプを持っておりそれ相応の権威を誇っていたという。


 しかし,ある時期を境に誠央学園は歪な環境を生み出すようになり,近年では卒業生達の横暴な問題が指摘されるようになっていたのだ。


「エリート思考は分かるんだけど度が過ぎるエリート思考なんだよね。誠央学園にいる自分達は他の者達より優れている!って。しかも,それを学生達を導く先生達が教え込んでいるから余計に達が悪いわけ」


 誠央学園の教師に慣れるのも誠央学園の卒業生だけ――長年のエリート思考の考え方が何処かでおかしくなり,学生達を教えて導く先生達ですら歪な考え方を持つようになったことで今のような碌でもない思考を持つ学生達が生まれてしまったという。


「でも,そんな歪な考え方はおかしいって言う学生達がほとんどでね。毎年入学してくる生徒の中には2,3人程度よ……入学試験も難しいから」

「そういえば,誠央学園の入学試験って物凄く難しいって聞くね――じゃあ,何で今回の1年生達はそんな子達が多い……」

「今期の1年生の入学試験,色々と裏があるからよ」


 灯里あかりちゃんにじゃれついていた美陽みはるちゃんは真面目な顔をしていた。


「今回の1年生達は誠央学園の卒業生達の関係者が多いのよ。だからかしら――歪な考え方を持つ子達が多いのは……」

「そういえば,家庭の環境であいつ等の考え方に同調する子達も多くなかった?」

「そうだよね。よくよく考えたら橘さんの周りってみはるんが事件を起こした原因を作ったというよりもってことに不満がある人が多いもんね」


 ――ん?それってどういうことだろう?


 アンちゃんの方を見ると詰まらなさそう顔をしていたのでもしかして大したことがないことで美陽みはるちゃんは敵意を向けられていたってことなんだろうか。


「ところで,はるるん。常盤ときわさんと恋人になったって本当なの~?」

「んん!?」


 アンちゃんの急な質問に先程まで真剣な表情とは打って変わり、美陽みはるちゃんは喉を詰まらせて涙目になっていた。


「事実だよ。交流試合が終わった後に美陽みはるちゃんに告白したんだ」

「ハル!?」

「ハル君,ユフィちゃんのことはどうするの?」


 親友ではなく他の女性を選んだ僕のことが気になるのか義妹を見て心配そうな顔をしていた灯里あかりちゃんの頭を撫でた。


「心配しなくてもユフィを一人にはしないよ。大切な義妹だからね」

「うん……えへへ……」


 嬉しそうに目を細めた顔をする灯里ちゃんを見て義妹は笑っていたが,何故かアンちゃんにはニヤニヤと笑っていた。

 

 ――あと,美陽みはるちゃん……僕と同じように撫でたいのは分かるけどそんな羨ましそうな顔で見ないでもらえるかな?


「はるるんって罪深い男の子だねぇ~」

「どういうこと?」

常盤ときわさんと付き合っているんでしょう?まさか――もう浮気とか?」

「浮気!?」


 浮気という言葉に美陽みはるちゃんは反応したが偽装カップルと言うことを思い出したのか落ち着きを取り戻した――が,アンちゃんの攻撃は終わってなかった……。


「ねぇ,はるるん。今日の夜って暇なんでしょう?久しぶりに家に来ない?」

「アンちゃん,家に来ないって何するの?」

「もう,分かってるくせに~。そんなの二人っきりで―――ありゃ……」


 何だか視線が鋭くなり急に寒気もしたので視線を送る先を見ると――何時ぞやの保健室で見た白装束を着て般若のお面を被った銀髪の女性が美陽みはるちゃんの背後にいた。


「ハ~ル~?新井あらいさんとはどういった関係なのかしら?」


 笑顔を向けているが目は笑っておらず僕に蔑む視線を送っていた。


 そして,結衣ゆいちゃんと灯里あかりちゃんに至ってはあまりの怖さに青葉あおばさんや義妹に抱き着いてガクガクと震え出しているという。


「おい……常盤ときわさんの背後にいるあれは何だ!?」

「修羅場だ……修羅場になっている……」

常盤ときわさんってあんな顔で怒るんだ……物凄く怖いんだけど!?」


 どうやら背後霊スタンドが見えているのは僕だけではなかったようだ……。


 食堂にいた学生達も彼女の絶対零度に当てられたのか震え出す学生まで出て来た。


「にゃはは,ちょっと揶揄い過ぎちゃったかな。でも,ゆひゆひが気にしていたことがなくてよかったんじゃない?」

「……気にしていたこと?」


 いつも通りの彼女に戻ると僕を含めた全員は義妹の方を向き彼女の言葉を待った。


「そうですね。実は美陽みはるさんのことで少し気になることがあったんで杏子きょうこさんにお願いをしたんです――兄さんを誘惑してほしいと……」

「誘惑!?何でそんなことを頼んだの!?」

「そうですね。敢えて言うなら――私は翔琉かけるさんと違ってまだ美陽みはるさんと兄さんの関係を認めていませんので」

「「えっ!?」」


 そう言った義妹は隣にいた僕の腕に抱き着いて来た。


「私から兄さんを奪える気迫がなければ認めることはできませんので♪」

「なっ!?」


 僕の腕に更に抱き着き笑顔で挑発する義妹に美陽みはるちゃんは驚いたような困惑したような顔をしており,青葉あおばさんと結衣ゆいちゃんは呆れた顔をしていた。


 そして,事情を知るアンちゃんは今にも笑いそうになっており,何故か灯里あかりちゃんは二人を交互に見てドキドキと顔を赤らめていた。

 

 ――無論,僕に至っては隣で悪戯を楽しんでいる義妹の顔を見て顔を引き攣らせていたことは言うまでもないだろう。

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