第18話 謀略と裏切り

「失礼しまーす。聖人まさと会長,ユフィに言われて……来ま……」

「……」


 放課後,常盤ときわさんを連れて生徒会室に来た僕は目の前の光景を見て唖然とした。


「んん?やあ,遙人はると君。美陽みはる君もわざわざごめんね」

「いえ,別に構いませんけど――何してるんですか?会長も結衣ゆいちゃんも」


 目の前の光景,猫のように甘えている結衣ゆいちゃんを自分の膝に座らせて資料を見ていた聖人まさと会長に僕はツッコミを入れた。


結衣ゆいも何しているのよ!?ここって生徒会室でしょう!?」

「だってぇ~,最近まったくお兄ちゃんが相手してくれなかったもん!」

「もん!じゃないでしょう!」


 流石の常盤ときわさんも場所が場所なので注意をしたが,それよりも僕は会長達の周りにいる屍達生徒会メンバーを見て心配そうな顔をした。


「何ですか,この状況?」

「見ての通りよ?せい兄と結衣ゆい熱々イチャイチャの光景に皆やられている状況」

「熱々なのは相変わらずだね。青葉あおばさんは平気なの?」

「私は見慣れているから平気よ。それに,これでまだマシなのは神条かみじょう君も知っているでしょう?」


 常盤ときわさんに『これでマシなの!?』という顔をされてしまった。


 ――残念ながらこの2人の熱々イチャイチャはこれでも抑えている方であったりする。


 だが,屍達生徒会メンバーは会長達を微笑ましく見ていた二人にそろそろ助けを求めてきた。


「あ,青葉あおば宝城ほうじょうさん……会長達を何とかしてくれ……。そろそろ,俺達の胃が持たない……」

「今のうちに慣れておけ。これで無理ならこれから先もっと辛くなるぞ?」

「そうだよね~。聖ちゃん,これでもまだ手加減しているぐらいだから」

「――この状況をお二人は何とも思わないんですね……」


 会長達の状況を見てまったく動じていない蒼一郎そういちろう先輩と宝城ほうじょう先輩を常盤ときわさんは会長達より驚いてしまったようだ。


 その後,生徒会メンバーの大半は『これ以上は胃がやられそうなのでお暇させて頂きます……』と早々に生徒会室から退散して行った。


「さてと,後は冨塚とみつか君とユフィ君達が来るだけかな」


 結衣ゆいちゃんを膝から降ろすと会長は生徒会室にあったソファーに腰掛けた。


白星しらほし会長,神条かみじょう君達を呼んだ理由って――」

「僕達に交流会の選手として出て欲しいってことでしょうか?」

「ピンポーン!流石だね,遙人はると君!」


 僕と会長の言葉を聞いた彼女は驚いた顔をした。


「か,会長!?それってどういうことですか!?」

美陽みはるちゃん,実はちょっと困ったことが起きちゃってね」


 驚く常盤ときわさんに宝城ほうじょう先輩が困った顔をして言うと隣にいた蒼一郎そういちろう先輩は何故か険しい顔で今にも怒り出しそうな雰囲気を出していた。


「今回のスポーツ交流会,バスケ部の出場を禁止にしたのは聞いているよね?」

「はい。交流会なのでバスケ部の人達まで参加したら楽しめないのではと」


 ――赤松あかまつ先輩から提案された勝負方法。


 お互いに権力をかざすのは問題があるので自分達に協力してくれる1年生達に勝負をしてもらおうと提案があったのだ。


 その勝負方法の中にはバスケ部の協力は禁止もあった。


「僕達の勝負以外にもいくつか試合はする予定でいたからね。バスケ部が参加したら勝負が決まっちゃうものだから赤松あかまつ君の提案を飲んだんだけど――」

「そのことで赤松あかまつ君の策に嵌っちゃうなんてね」


 実は誠央学園も星稜学園も現在のバスケ部はどちらも強豪校である。


 他の部活では大会の運営委員会を買収したり,賄賂を贈りエースの席を取ったりと問題行動があった誠央学園でもバスケ部とテニス部だけは本物の実力であるらしい。


 そのバスケ部は現在,誠央学園の学生達が星稜学園に来たばかりなので何処の部活にも状況であったのだ。


「それって,誠央学園のバスケ部は出場できるってことですか!?」

「そういうこと。真面目に提案して来るから正々堂々と勝負をするのかなと思ったんだけど違ったみたいだね。」


 チラッと隣に座っていた結衣ゆいちゃんを見るとムスッとした表情で怒っていた。


 自分を手に入れるためには手段を選ばない赤松あかまつ先輩に嫌気がさして来たんだろう。


織斑おりむら君,相手チームのメンバーって分かったのかな?」

「4人は分かりましたね。それと,常盤ときわさんに物凄く言いにくいんだが……」


 資料を持った織斑おりむら君は言っていいのか迷っていると彼の隣にいた誠央学園の女子生徒,常盤ときわさんと同様にツインテ―ルにしていた女の子が口を開いた。


「この件に美夜子みやこちゃんが関わっているんです」

「彼女が!?どうしてなの!?」

美陽みはるちゃん,落ち着いて。順番に話すから」


 宝城ほうじょう先輩が常盤ときわさんを落ち着かせると事情を話し出した。


 横領告発の事件以降,どこからも支援がなかった誠央学園の1年生達。


 その多くの1年生達は未だに将来の不安を抱える者が大半であった。


 それはバスケ部に所属していた1年生達も同様であり,中には父親が働いていた会社が今回の事件に巻き込まれて倒産したという事例もあったのだという。


赤松あかまつ君は今回の勝負で絶対に勝つためにバスケ部の1年生達が必要だった。だから,彼等をまとめていた美夜子みやこちゃんに交渉を持ち掛けたのよ。協力してくれたらバスケ部にいる1年生全員に赤松あかまつ製薬のを用意するって」

「だから,協力したんですか!?彼女は結衣ゆいのことを知っているはずですよ!?」

「……美夜子みやこちゃんから聞いたんだけど,負けた時のことも考えて赤松あかまつ先輩に誓約書まで書いてもらったみたい。赤松あかまつ君は絶対に負けないと思ってるけど,勝っても負けても美夜子みやこちゃんに取っては良い話しだったから受けたそうよ」


 常盤ときわさんは苦虫を噛み潰しような表情で黙り込んでしまった。


織斑おりむら君,ちょっといい?」

「ん?」


 沈んだ表情をしていた常盤ときわさんを他所に僕は織斑おりむら君に尋ねた。


「さっきから気になっていたんだけど美夜子みやこちゃんって誰?」

「そういえば,遙人はると君は誠央学園の生徒会の子達で知らない子もいたね」

「ええ。宝城ほうじょう先輩と朝美あさみさん達は知っていますけど」


 話を聞く限り誠央学園の1年生をまとめている女の子というのは理解できた。


 そして,何かしら常盤ときわさんと因縁があるようにも。


橘美夜子たちばなみやこ君という名前でね,お爺さんがたちばな家の当主なんだよ」

たちばな家ですか……」


 ――三大勢力の一角,京都六家の1つたちばな家。

 

 京都六家の中でも発言力を持つ家柄であったが、10年前のあの事件で白星しらほし財閥と大喧嘩して京都六家の中でも末席まで落とされたと兄上が言ってたような……。


 それに,たちばな家元当主に娘さんはいないはずだから彼女はおそらく……。


「彼女は私のことを恨んでいるから」


 考え事をしているとポツリと常盤ときわさんが口を開いた。


「恨んでいる?」

「ええ。私が作ったリスト――あれが本柳もとやなぎ君達の手に渡ったからあの事件が引き起こされたの。それによって,彼女のお爺さんが長年守って来た星央会や彼女の婚約者の実家は倒産。2年生や3年生だけに支援をした私が許せないのよ」


 彼女が言ったことはアンちゃんから事情を聞いてた通りの話であったが,僕はその話に少し疑問を抱いていた。


「やっぱり,その話っておかしいと思うな」

「えっ?」

「別に常盤ときわさんは何もしてないわけではないでしょう?2年生と3年生にはちゃんと支援をしているんだから。そうですよね,宝城ほうじょう先輩?」


 僕の言ったことに先輩は頷いた。


「それに,今の話からすると本柳もとやなぎ君達より常盤ときわさんの方が問題があるって言われているように聞こえるんだよね。事件を起こしたのは彼等なのに」

「……言われてみれば遙人はるとの言う通りだよな。どうなの?」


 織斑おりむら君も僕と同じことを思ったのか隣にいた朝美あさみさんに聞くと彼女だけでなく常盤ときわさん達も僕の言ったことに疑問を抱き始めた。


「そういえば,あの子と一緒にいる子達も美陽みはるのことは文句言うのに本柳もとやなぎ達のことは何も言わないわね。問題ばかりしているから言わないだけだと思ってたけど」

「よくよく考えらたおかしいよね。かえでさん,たちばなさんから何か聞いてないの?」

「う~ん,美夜子みやこちゃんから何も聞いてないわね」


 僕の言ったことに常盤ときわさん達は悩んでいると蒼一郎そういちろう先輩は手を叩いた。


「悩むのはいいが,終わったことを考えても仕方ないだろう。今は目の前のことを考えたらどうだ?」


 ごもっともな話である。


 既に赤松あかまつ先輩と取引をしている時点でこちらは後手に回っているのだ。


 それに,勝っても負けても彼女に利があるならこちらが勝っても彼女は何も文句は言ってこないということでもある。


「要するに僕達が誠央学園のバスケ部に勝てばいいってことですね」

「簡単に言えばそういうことだね。遙人はると君,行けそうかい?」

「こちらのメンバー次第になりますね。ちなみに,こっちのメンバーって誰になるんですか?トミーを呼んだってことはトミーは参加するのは当然ですけど」

「あと一人は俺だ。残りの2人はまだ決まってない」


 僕とトミーと織斑おりむら君か――チームワークとしては申し分ないが,相手がバスケ部なら体格のいい男子生徒に協力をして欲しいんだけど……。


「でしたら,スケさんとカクさんはどうでしょうか?」

「えっ?」


 生徒会室の扉を開けるとユフィと取り巻きの2人,ぐったりとした表情をしていたトミーが一緒に入ってきた――と思ったら急に僕の胸ぐらを掴んできた。


「どういうことだ,遙人はると!!ユフィちゃんだけじゃなくて常盤ときわさんとまでいい関係になりやがってぇ!!おまけに間接キスまでしたってどういうことだ!?」

「ちょっと,ユフィ!?教室の皆に何話したの!?」


 先程,義妹が去り際に残した言葉――あれの言葉を聞いたクラスメイト達は休み時間になる度に僕と常盤ときわさんに質問攻めを繰り返していたのだ。


 それは,放課後になっても変わらず,迎えに来た義妹が事情を話しておくと言って僕達は先に生徒会室にやって来たのだ。


「問題はありませんよ?事情を説明して納得してもらいましたから。」

「ユフィちゃん,全部話したの!?」

「はい♪――流石にLICENSEライセンスに関わることは教えてませんのでご安心ください」


 小言でそう言うと常盤ときわさんは安堵したが,僕は顔を引き攣らせた。


 つまり,はクラスメイトに話したということだ。


 僕は明日生きているだろうかと明日の自分にご愁傷様と祈った。


「そういえば,翔琉かける君はどうしたの?教室にいたはずだけど?」

翔琉かけるさんですか?実はそのことで会長にお話が……」


 そう言って義妹は聖人まさと会長にある物を手渡した。


「誠央学園のチームですが,最後の一人に翔琉かけるさんが入ることになりました」

「えっ?」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」


 義妹の言葉に僕達は声を上げて驚いてしまった――が,何故か義妹だけは問題なさそうに微かに笑っており,その姿に常盤ときわさんは疑問を抱いてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る