第29話 出会い再び

予言の時が、ついに訪れる兆しが見え始めた。


ある日、和樹は再び「星辰と月夜の部屋」を訪れ、これまで何度か話してきた天樹に、もう一度相談しようと決心していた。和樹は、最近の夢の中で何度も繰り返し見る場所と人物について、どうしても自分だけでは解決できないと感じていたのだ。


玄関をくぐると、石油ストーブの温かさが館内を優しく包み込み、外の寒さを忘れさせる。天樹はちょうど談話室に座っており、和樹の姿を見ると穏やかな笑みを浮かべて立ち上がった。


「和樹、また来たんだな。何か悩んでいるのか?」天樹は落ち着いた声で彼を迎えた。


和樹は少し戸惑いながらも、座るとすぐに口を開いた。「最近、夢がますます鮮明になってきて…何か大切なことを思い出すべきなんだろうけど、その意味がわからないんだ。夢の中に現れる場所や人が、まるで僕に何かを伝えようとしているみたいで…。」


天樹は静かにうなずき、和樹の話を聞き続けた。「それで、その夢に現れる場所や人について、もう少し詳しく話してもらえるか?以前も少し聞いたが、最近の夢はどう変わってきた?」


和樹は深く息を吸い込み、慎重に言葉を選んで話し始めた。「夢の中に出てくるのは、古い洋館のような場所なんだ。廊下やリビング、家具までが、どこか懐かしい感じがする。でも、その場所にいる人が問題なんだ。最初はぼんやりとしたシルエットだったのに、最近はその人の顔や姿がはっきりしてきたんだ。幼い男の子と女の子…僕はその二人を知っているような気がしてならないんだ。」


天樹は和樹の言葉を聞き、九星気学の資料を広げながら、「その二人が何を象徴しているのか、気になるな。君の運勢や過去の記憶に何か関係があるかもしれない」と話し始めた。


天樹は黙って和樹の目を見つめ、しばらくして静かに言葉を紡いだ。「君が見ているのは、過去の記憶が無意識に表れているのかもしれない。特に九星気学では、今の時期は過去との繋がりが強調されるとされている。もしかしたら、その夢が君に忘れていた大切なことを思い出させようとしているんだろう。」


和樹はその言葉に深く頷き、「そうか…それで、僕は何をすべきなんだろう?その夢に出てくる場所や人が、現実とどう関係しているのか知りたいんだ」と真剣な眼差しを向けた。


天樹は少し考え込んだ後、和樹に向かってこう提案した。「まずは、もう一度その夢の内容を詳しく記録してみよう。そして、次に夢を見たときに感じたことや、気づいたことを少しずつ分析していく。九星気学でも星の動きが関係しているから、君の今の運勢をさらに細かく見てみる必要があるな。」


天樹はさらに和樹の生年月日を元に運勢を確認しながら、彼の運命の流れに何が影響しているのかを探り始めた。「君の今年の運気では、過去からの繋がりが大きな鍵を握っている。君が夢を通じて何かを解決しようとしているのは、偶然じゃない。自分と向き合うためのタイミングが来ているんだろう。」


和樹は天樹の言葉を噛みしめながら、「やっぱり僕自身の過去が関係しているんだな。ありがとう、天樹。もう少し自分の心と向き合ってみるよ」と感謝の気持ちを述べた。


天樹は微笑みながら、「焦らずに、少しずつ向き合っていけばいいさ。何か新しい気づきがあったら、またいつでも相談に来てくれ」と和樹を励ました。


同じとき桜子は、夢の中でこれまでぼんやりとしていたシルエットが鮮明になるにつれ、ただの夢ではなく、何か重要なメッセージが隠されていることを強く感じ始めていた。夢の中で聞こえるバイオリンの音、洋館の中での出来事、そしてそこに現れる大人の男性と子供。彼らの存在が桜子の心に深く刻み込まれていた。


そんな日々を過ごす中、占いの館「星辰と月夜の部屋」のスピカに相談することにした。


占いの館「星辰と月夜の部屋」に、桜子が訪れたのはいつもの夕方の時間だった。冷たい風が彼女のコートの裾を揺らし、ステンドグラスから漏れる暖かな光が館の入り口を柔らかく照らしていた。彼女は少し迷いながらも、夢についての相談をするため、再びスピカに会おうと決心していた。


館のドアを押して中に入ると、ふと、玄関先で誰かが出て行く姿が目に入った。ちらりと見えたのは、背の高い男性。柔らかい髪が夜風に揺れていた。桜子はその男性に見覚えがあるような、ないような、不思議な感覚に襲われたが、深く考える前にその男性はすぐに外へ出て行ってしまった。


「今、誰か出ていったんですね…」と桜子は小さく呟きながら受付に向かう。


スピカが出迎え、彼女にいつもの温かい笑顔を向けた。「桜子さん、ようこそ。また夢についてのご相談でしょうか?」


桜子は頷き、席についた。しかし、さっきの男性のことがどうしても気になって仕方がなかった。どこかで見たことがあるような気がしてならなかったのだ。


その男性は、実は小鳥遊和樹だった。彼もまた、この館に来て、自身の夢や記憶に関する相談をしていたのだ。しかし、桜子とは入れ違いで、ほんの少しの差で顔を合わせることなくすれ違った。和樹もまた、桜子と同じように、不思議な夢に悩まされていた。そして、夢に現れる場所や人物は、桜子の見ているものとどこか似通っている部分があった。


「まさか、あの人が…」桜子は胸の中で言葉にならない感覚を抱えながら、夢の相談を始めた。


「スピカさん、最近の夢がますます不思議なんです。以前はただの廊下や玄関ばかりが見えていたのに、最近はリビングや暖炉、そこにいる二人の姿がはっきりと見えるんです。でも、彼らが誰なのか、どうして私に現れるのかがわからなくて…」桜子は、不安と期待が入り混じった表情で語りかけた。


スピカは静かに頷きながら、桜子の話を聞いていた。そして、彼女の手を優しく握り、目を閉じてしばし沈黙を守った後、ゆっくりと口を開いた。


「桜子さん、夢の中の二人、そしてその洋館。あなたにとって重要なメッセージを伝えているのは間違いありません。そして、それは『予言』とも言えるでしょう。星々の流れから見ても、今は過去と未来が交錯する時期です。あなたがその夢を見ることで、過去の記憶や未解決の感情、そして未来への導きが与えられているのです。」


桜子はその言葉に驚きつつも、納得の表情を浮かべた。「予言…ということは、私に何か大事な選択が迫っているのでしょうか?」


スピカは頷きながら、ホロスコープを広げ、桜子の星の配置を確認した。「金星と火星の位置を見ると、あなたの運命が今、非常に強い影響を受けています。特に、近い未来においてあなたが重要な選択を迫られる瞬間が訪れるでしょう。その選択が、あなたの未来だけでなく、過去に結びついていることは確かです。」


「過去に結びついている…」桜子はその言葉を噛みしめるように繰り返した。彼女は、夢の中での出来事が、幼い頃の何かと深く関わっているのかもしれないと感じ始めていた。


そのとき、セドナがそっと部屋に入り、スピカと桜子に向けて柔らかい笑みを浮かべた。「桜子さん、スピカからの予言の時が近づいているんだね。今こそ、夢のメッセージをしっかりと受け止める時期が来たようだよ。」彼はいつもより静かに話し、重厚な雰囲気をまとっていた。


「予言が示す未来は、今あなたがどの道を選ぶかによって変わる。桜子さん、あなたは自分の心に従って進むべき。そして、その選択の瞬間が来た時、星たちはあなたを導いてくれるでしょう。」セドナは静かにペンデュラムを取り出し、手の中で揺らしながら言った。


「このペンデュラムは、未来を指し示す重要な道具。あなたの選択が迫られたとき、これが導きの手助けになるでしょう。そして、忘れてはいけないのは、あなた自身の直感です。夢の中の彼らがあなたに何を伝えようとしているのか、それを信じて進んでくださいね。」


桜子は心を静めながら、セドナの言葉に深く頷いた。「わかりました。私、信じて進みます。この予言が何を意味しているのか、怖いけれど、それを受け止める覚悟はできました。」


スピカは微笑みながら、桜子の肩に優しく手を置いた。「あなたなら、きっと大丈夫です。星々はあなたを見守っていますし、あなたの心が何を選んでも、それが正しい道になるでしょう。」


そして、予言の時が静かに、しかし確実に桜子の前に迫っていることを、彼女は強く感じるようになっていった。







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