第16話 和樹と天樹
談話室では、いつも通りの柔らかな雰囲気が漂っていた。石油ストーブの上でかすかに湯気を立てるやかんの音が、部屋全体に温かみを与え、三人の軽やかな会話に耳を傾けていたかのようだ。天樹、セドナ、そしてスピカは、昼下がりの時間を楽しみながら、お互いの最近の出来事を共有していた。
「最近、神社巡りの話、結構してるよな。どこかまた面白い場所を見つけたの?」と、セドナが天樹に声をかけた。彼は常に新しい場所や体験に興味を持っており、天樹の神社巡りの話を聞くのが楽しみだった。
天樹は少し微笑みを浮かべながら頷いた。「そうだな、先週行ったのは山奥にあるちょっとした神社だったんだ。見つけるのに苦労したけど、それがまた面白い場所だったよ。」
「どんなところだったの?」スピカが興味を示して尋ねる。
「バイクを降りてから30分ぐらい歩く必要があったんだ。山道を抜けると突然、古びた鳥居が現れるんだけど、その鳥居をくぐると、まるで時間が止まったかのような静けさに包まれるんだ。参拝者もほとんどいなくてね。そこには、木々の間からさわさわと風が吹いていて、その音が耳に心地よく響くんだよ。」
「へえ、そんな場所があるんだな。」セドナは、天樹の話に興味を示し、さらに突っ込んだ。「その神社、風水的にも良い場所なんだろう?」
天樹は頷いた。「そうそう、実は風水的にも気が流れている場所だった。周囲の木々や地形が、まさに良い気を集めている感じがしてね。だから、しばらくそこに座って瞑想してみたんだ。そうすると、頭の中がすごくクリアになって、普段考えすぎていたことが一気に整理された感じがしたんだよ。」
スピカは微笑みながら、「さすが、天樹らしいわね。私だったらカフェでゆっくり読書するのが癒しだけど、あなたは自然の中で過ごすのが好きなのね。」と言った。
天樹は笑いながら、「まあ、バイク乗りだからか、自然に惹かれるんだろうな。風を感じて走るのも、神社の静けさに浸るのも、どちらも心をリセットするには最高なんだよ」と答えた。
「わかるよ、その気持ち。」セドナが同意しつつ、「でも、俺はどちらかと言うと、都会のカフェでちょっとした交流が好きかな。いろんな人と話すことで、いろんな刺激を受けられるしさ。」
「それぞれのリフレッシュ方法があるってことね」とスピカがクスクスと笑いながら話を締めくくった。だがその和やかな空気は、玄関の呼び鈴の音で途切れた。天樹は立ち上がり、ステンドグラスが埋め込まれた重厚な扉へと向かう。そこには、小鳥遊和樹が立っていた。
「やあ、久しぶりだな、天樹。」和樹は穏やかな笑顔を浮かべながら挨拶をした。
「お、和樹!今日はどうしたんだ?」天樹は少し驚きつつも嬉しそうに声をかけた。
「最近、ちょっと気になることがあってな。前に話した夢のことなんだが、どうにも頭から離れないんだ。今日、少し占ってもらえないかと思って来たんだ。」和樹の表情は真剣だった。
天樹は和樹を鑑定室に案内し、重厚な木の机に向かい合って座った。室内は柔らかな照明に照らされ、奥には九星気学の資料や星座に関する本が整然と並べられている。本棚の間には香り豊かなハーブがさりげなく置かれていて、リラックスした雰囲気を作り出していた。
「今日は、夢や記憶についての相談でいいよな?」天樹が静かに口を開いた。
「そうなんだ、最近ずっと同じ夢を見てるんだよ。あの洋館が何度も出てきて、でもその場所が現実か夢か、わからなくなってきてるんだ」と和樹は少し戸惑いを見せながら話した。
天樹はうなずき、「それなら九星気学を使って、今の運気や過去とのつながりを見ていこうか。和樹の本命星と傾斜星を基にして、夢の意味を探ってみよう」と言いながら、九星気学の盤を準備し始めた。彼は手際よく資料を広げ、和樹の生年月日をもとに星の配置を確認する。
「和樹の本命星は七赤金星だ。七赤金星は人との縁や過去の出来事に強く影響される星なんだ。この星は特に感受性が豊かで、過去の記憶や懐かしい思い出に深く関わることが多いんだよ。」天樹は静かに説明を始めた。
「それで、この夢が現実なのか、ただの幻想なのかは分かるかな?」和樹は少し興味を示しながら尋ねた。
天樹は盤を指しながら続ける。「まず、今年の運気を見ると、七赤金星の持つ影響力が強くなっている。特に、過去と向き合うことで、未来の道が開ける時期だ。だからこそ、夢に出てくる洋館やそこでの出来事は、単なる夢じゃないかもしれない。」
「つまり、この夢が今の俺の運命に影響を与えているってことか?」和樹はさらに深く考え込みながら質問した。
「そうだな、夢や記憶が現れる時期っていうのは、今の運気や人生の流れと関わりがあることが多い。特に、今の運勢では過去との関わりが強くなる時期だから、昔の出来事やその時の人間関係が再び君の前に現れてくる可能性が高い」と天樹は説明を続ける。
天樹はさらに九星気学の盤を見つめ、「和樹の傾斜星は六白金星だ。この星は直感や精神性が強くなる星で、夢や無意識からのメッセージを受け取ることが多い。君が夢の中で感じる懐かしさや安心感、それは本物だよ。過去に何か未解決の感情や出来事があるかもしれない。それが夢の中で浮かび上がってきているんだ。」
和樹は少し驚いたように、「確かに、昔のことを最近よく思い出すんだ。でも、あの洋館が実際に存在したのか、ただの記憶違いなのかも曖昧で…。それがずっと気になってるんだ。」と話す。
天樹は優しく微笑みながら、「それが重要なんだよ、和樹。夢や記憶が曖昧な時期は、君の心の中にあるものが現れてきている証拠だ。七赤金星と六白金星が重なる時期に、君は自分の中で忘れかけていたものを思い出そうとしているんだ。洋館が象徴するのは、君にとって大切な場所か、もしくは大切な人との関わりが今後の人生に影響を与える可能性がある。」
和樹は真剣な表情で天樹の言葉に耳を傾け、「それって、今の自分にとって何か意味があるってことか?」と質問を続けた。
「その通りだよ。九星気学では、場所や人との関わりが運命に大きな影響を与えるとされているんだ。だから、君の夢の中に出てくる洋館やそこにいる人物は、君にとって何かしらの意味がある存在だ。その夢の中で感じる懐かしさや安心感は、君にとって大切なものを示しているかもしれない。」天樹は静かに話し続けた。
「そして、この先の運勢を見てみると、君にとって新たな選択肢が現れる時期が近づいている。過去の記憶や人との関わりが、君に何か新しい道を示してくれるかもしれないんだ」と天樹はさらに深く盤を見つめながら言葉を続けた。
和樹はしばらく考え込んだ後、「じゃあ、この夢や記憶とちゃんと向き合えば、何かが変わるかもしれないってことか…」と呟いた。
「そうだよ、和樹。この夢は君にとって重要なメッセージを含んでいる。過去と未来が交差するこの時期に、君は自分自身と向き合い、今後の道を見つけていく必要がある。焦らず、少しずつ進めばいい。」天樹は優しく語りかけた。
和樹はその言葉に頷きながら、「ありがとう、天樹。自分の直感を信じて、夢と向き合ってみるよ。」と微笑んだ。
「大丈夫、和樹。君が向き合うべきことが、きっと次のステップへ導いてくれるさ。俺もいつでも力になるから、また迷ったらここに来てくれ。」天樹は力強く言い、和樹に励ましの言葉を贈った。
和樹は天樹の言葉に深く感謝し、少しだけ心が軽くなった様子で席を立った。
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