第17話 占いの館の新しい年
石油ストーブのやわらかな音に包まれ、談話室は静かな温もりに満ちていた。スピカ、天樹、セドナはそれぞれの椅子に腰掛け、新年を迎えたこの占いの館「星辰と月夜の部屋」で、いつものように談笑を楽しんでいた。
「明けましておめでとう。今年もよろしく頼むよ」と、天樹が穏やかな口調で挨拶をすると、スピカが「今年もどうぞよろしくお願いします」と微笑みながら応じた。セドナも軽くグラスを持ち上げて、「本当に去年もお世話になったな。今年も、きっと良い年になるだろうね」と続けた。
「セドナ、お前、去年いろいろな占術に手を出してたけど、今年も何か新しいことを始めるつもりか?」天樹が興味津々で聞くと、セドナは目を輝かせて「その通りだよ。今年もいくつか面白い計画があるんだ」と楽しそうに話し始めた。
「どんな計画なんだ?」天樹がさらに尋ねると、セドナは少し身を乗り出して、「まずは、もっと深く西洋占星術を掘り下げたいと思ってるんだ。去年は基本的な部分を見直してたけど、今年はもっとマニアックなところに踏み込んでみたいんだよ。特に、古代ローマの占星術や、神秘学との関連性をもっと探っていこうと思ってるんだ」と語った。
スピカは感心したように頷き、「セドナさんは本当に探求心が旺盛ですね。そういう姿勢は、常にお客様の信頼を集める秘訣かもしれません」と褒めた。セドナは照れくさそうに笑いながら「ありがとう。まあ、好奇心が止まらないだけかもしれないけどね」と軽く肩をすくめた。
「でも、西洋占星術に加えて、今年はもう一つ新しいことに挑戦してみようと思ってるんだ。それは、もっとオリジナルなタロットの解釈を作り上げること。今までいろんな占い師のタロットスタイルを見てきたけど、僕なりの解釈を深めて、完全オリジナルの占いスタイルを作りたいんだ」と、セドナは力強く言った。
「それは面白そうだな。セドナのタロットは、すでに十分ユニークだと思ってたけど、さらにオリジナル性を高めるなんて、きっと大成功するだろう」と天樹は感心した様子で言った。
「そうだよね。僕も自分のスタイルにもっと自信を持っていいと思ってる。今年は特に、カードに隠れたシンボルや、色彩の意味をもっと掘り下げてみたいんだ。色彩心理学とタロットの関連性を深く学ぶことで、新たな解釈の幅が広がるんじゃないかって思ってるんだ」とセドナは熱心に語った。
「色彩心理学か。それは面白そうだね」とスピカが興味を示し、「確かに、カードの色やその印象は、潜在意識に大きな影響を与えることがありますよね。色彩とタロットの融合、楽しみにしています」と続けた。
「ありがとう。ちょっとマニアックかもしれないけど、僕にとっては大切な部分なんだ。特に、お客様が抱えている問題に対して、ただの占い結果だけでなく、心の奥にある感情の流れを色から読み取れるようになれば、もっと深い洞察ができると思うんだよ」とセドナは意気込んだ。
天樹はその話に深く頷き、「占いって、結果を出すだけじゃなくて、その人の心をいかに深く理解するかが重要だからな。セドナのアプローチはまさにそれだ。お前はいつも、占いの枠を超えて、人の心に寄り添おうとしている。それがセドナの強みだと思うよ」と、真剣な眼差しで言った。
セドナは照れながらも嬉しそうに「ありがとう。そう言ってもらえると、自信がつくよ。今年はその方向でさらに深めていきたいと思ってる。お客様との関わり方も、もっと丁寧に、そして新しい視点を持って接していきたいな」と話を続けた。
スピカもセドナの話に頷きながら、「私も、もっとお客様の内面に寄り添いながら、星々の動きと心の流れを繋げていきたいと思います。今年は特に、星の配置が大きな変化を示す時期があるので、その時に適切なアドバイスをお届けできるようにしたいですね」と、自分の抱負を語った。
天樹はその二人を見ながら、「二人とも、真剣に占いに向き合っていて感心するよ。今年もお互い、さらに高め合っていこうな。俺も、九星気学を掘り下げて、さらに深いところに踏み込んでいくつもりだ」と真剣な顔で語った。
スピカも静かに微笑み、「学び続ける姿勢は素晴らしいですね。今年は、私も少しずつ占星術の深い部分に取り組もうと思っています。長年占いをしてきた中で、新しい知識を取り入れることは大切ですから」と、落ち着いた口調で語った。
「スピカがさらに知識を深めたら、この館の占いはますます強力になるね。スピカの占星術はいつも的確だし、さらに深い洞察が加わったら、きっとお客様も喜ぶだろう。」セドナが楽しそうに言うと、スピカは微笑みながら軽く頷いた。
「そうですね。今年は特に、星の動きが大きく変わる時期が多いので、その流れをしっかりと読み取って、皆さんに必要なアドバイスができるように準備しておきたいと思います。」
スピカの目には、星々への深い愛情と責任感が感じられた。
天樹もまた、自分の今年の計画を話し始めた。「俺は今年、九星気学をさらに掘り下げてみようと思っている。特に、地方の古い文献に目を通して、今の占術に活かせる新しい視点を取り入れたいんだ。」
「地方の古い文献って、結構興味深いよね。意外と現代に通じる知恵が詰まっていたりするし。」
セドナは興味を示し、天樹の話に耳を傾けた。
「そうだな。九星気学って、運勢や方位のことだけじゃなく、性格や人間関係を読み解く力も強いから、
そこをもっと深く理解して、より精度の高い占いができるようにしたい。」
天樹の言葉には、占い師としての誇りと熱意がこもっていた。
スピカは静かに目を閉じ、一息ついてから口を開いた。「天樹さんのそういう姿勢、尊敬します。
古い文献を掘り下げて現代に活かすというのは、占いの伝統を受け継ぎながらも、
新しい風を取り入れる素晴らしい姿勢です。今年の星々も、きっと天樹さんのその努力に応えてくれることでしょう。」
天樹は少し照れくさそうに笑い、「そう言ってもらえると嬉しいよ、スピカ。
いつか、新しい発見があったら二人にも共有するから、楽しみにしててくれ」と返した。
「それなら、私たちも楽しみにしているね。天樹が歴史学者みたいに、昔の文献を広げている姿が目に浮かぶよ」と、
セドナが冗談めかして言うと、天樹は「まあ、占い師兼歴史学者ってのも悪くないな。
いろいろな知識が混ざり合って、新しい発見ができるかもしれないしな」と返し、三人は笑い声を響かせた。
その時、館の玄関のチャイムが軽く鳴り響いた。スピカが穏やかな表情で立ち上がり、「お客様が来たようですね」と言って、扉の方へ向かう。
「さて、どんなお客様だろう。新年最初のお客様だといいな」セドナが楽しそうに言うと、天樹も「そうだな、新しい縁が結ばれる瞬間はいつも特別だ」と微笑みを返した。
スピカが玄関を開けると、冷たい冬の風が一瞬部屋に流れ込んだが、それを押し返すかのように、温かい笑顔でお客様を迎え入れた。
「いらっしゃいませ。今年もどうぞよろしくお願いいたします」と、丁寧な挨拶をするスピカの声が響き渡る。
天樹とセドナは、それぞれの話題に戻りながらも、お客様との新しい出会いを心待ちにしていた。
「今年はどんな人たちがこの館に訪れるんだろうな」と天樹がふと漏らすと、セドナは少し考え込みながら答えた。
「それがわからないからこそ、占い師って面白い仕事だよね。人の運命や悩み、未来の可能性を一緒に探っていく。その過程が好きなんだよ。」
「確かにそうだな。占いというのは、ただ結果を伝えるだけじゃなくて、その人の人生に寄り添うものだからな」と天樹は深く頷いた。
セドナはグラスを持ち上げながら、「そうだね。そしてその寄り添い方も、星やカードが導いてくれるというのがまた神秘的でさ」と、占いに対する自分の感動を改めて口にした。
天樹はその言葉を受けて、「占いはただの結果を示すだけじゃなく、その人が進むべき道を共に歩むことが大切なんだよな。特に、今の時代は迷いや不安が多いから、少しでもその不安を和らげられるようにしたい」と語った。
「占い師って、ただの未来予測ではないんだよね。人の心を読み解き、その人自身が気づいていない可能性を見つける。そして、少しでも良い方向に導いてあげられるなら、それは本当に素晴らしいことだと思う」とセドナが感慨深く言葉を続けた。
二人が話している間、スピカはお客様と軽く挨拶を交わし、奥の鑑定室に案内していた。
再び静かになった談話室で、天樹とセドナは互いに見つめ合い、軽く笑みを交わした。
「新年早々、なんだか真面目な話になっちゃったな」とセドナが冗談めかして言うと、天樹は軽く肩をすくめて、「まあ、たまにはいいだろう。新年だし、初心に戻るのも悪くない」と返し、また二人は穏やかな笑い声を立てた。
談話室の中には、石油ストーブの柔らかい音と、三人の占い師たちの静かな決意が心地よく響き、外の寒さを忘れさせるような温かさが満ちていた。
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