占の館 言葉の家にようこそ  「夢の影と三つの予言」 

@kirosu

第1話

プロローグ

静かな路地裏に佇む占いの館。


古びた木の扉には、小さな控えめな看板が揺れている。


その看板には「占い 言葉の家」と、柔らかな文字で記されていた。


街の喧騒から一歩離れたこの場所には、風に揺れる木々の葉の音と時折響く足音だけが静かに混ざり合い、


不思議な静寂が漂っている。




占いの館は派手な宣伝もなく、訪れる人の数も少ない。


平日にはせいぜい5人ほどの来訪者がある程度だが、週末や連休には20人ほどに増えることもある。


しかし、その静かな空間は、常連客や迷い込んだ人々が、ふと立ち寄りたくなる魅力を秘めている。


この館に集う占い師たちは、その空気の中で穏やかに過ごしている。




占い師たちは、それぞれが異なる占術を持ている。


出勤してからそれぞれの鑑定をするための部屋で仕事の準備をしているが、


今日は特に予約もなく平凡な午前中だった。




三人は館の中心にある談話室に集まり、いつものように世間話を始めていた。


談話室は、休憩や食事ができるように整えられていて、各自の鑑定室ともつながっている。




温かな照明に包まれたこの部屋は、木のテーブルとふかふかのソファが置かれ、


どこか家庭的で居心地の良い空間だ。


お客が入店する際には、チャイムが鳴る仕組みになっているため、


占い師たちはその音を聞いてからでも、余裕を持って自室に戻ることができる。






星詠みであるスピカは、窓際の椅子に座り、長い髪を肩に流しながら、星の配置について語っていた。


彼女はノートPCを広げ、今日の恋愛運について考えている。


「金星と火星の位置が微妙だから、今日は恋愛相談が増えるかもしれないわね」と、微笑みながら言う。


その童顔と若々しい微笑みは、彼女がこの館で信頼を集め続ける理由の一つだった。


若いころは大手に所属していたそうだが、過去のことはあまり語らないため


二人もあえて聞かないようにしていた。




天樹は、背筋を伸ばして木製の椅子に座り、九星気学の後天定位盤を眺めている。


彼は眉を寄せながら、「今の時期は方位的にも変化の波が来ている。


職場のトラブルや新しい人間関係の悩みを抱える人が多くなる時期だな」と、


生真面目な口調で言った。


彼の静かで落ち着いた物腰は、長年培われた経験と信仰心に裏打ちされている。




自称リーディングマスターと言っているセドナは、壁際のアンティーク調の椅子に腰を下ろし、


タロットカードを手にして軽やかにシャッフルしていた。


「今日は運命の輪のカードが出そうだね」と、冗談めかしながら言う。


彼は占いオタクでもあり、占いの話になると、彼の目は一層輝き、その情熱が伝わってくる。


都会的なカフェやバー、マルシェなど人が集まるところに出かけては様々な人と交流するのが好きだ。




三人は星の動きや方位、タロットの象徴を交えながら、日々の出来事や時事ネタについて語り合う。


お互いの占術の視点を共有し、和やかな空気の中で過ごすこの時間が、彼らにとっての大切なひとときだった。




ブー!ブー!と突然大きな音で玄関のチャイムが鳴った。


誰か訪問者が来たのであろう。




その音に反応した天樹は、後天定位盤から顔を上げ、


少し不満そうに「まだ見ている最中だったのに…」とぶつぶつ言いながら、


今さっきまで見ていた紙をそのままにして自室に戻っていく。




その様子を見て、スピカは彼の姿を横目でくすくすと笑いながら、


ノードPCを閉じて脇に抱え、ゆったりとした動きで自室に向かう。




セドナは、テーブルに広げていたカードを手慣れた手つきで素早くひとまとめにすると、


「おっと、いよいよ出番かな?」と小さくつぶやきながら、急ぎ足で自室へと向かった。




三人ともその動きには慣れた占い師ならではの落ち着きがあり、一瞬のうちに静寂が戻る。




静かな占いの館の空気は、次第に動き始めようとしている――


それは、星、方位、そしてカードが示す予兆に導かれた運命の始まり。


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2024年10月11日 21:00
2024年10月14日 21:00
2024年10月24日 21:00

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