第19話 水晶のペンデュラム
佐伯は初詣での出来事が頭から離れなかった。桜子との何気ない会話、その一瞬一瞬が彼の心に残り、進展の兆しを感じていた。もっと自分の気持ちを整理し、桜子との関係をさらに深めるために、再びセドナに会おうと決心する。
占いの館「星辰と月夜の部屋」に足を運ぶと、あの懐かしいステンドグラス越しの光が彼を迎えた。館内は変わらず、静寂が心を包み込み、まるで時間が止まっているかのようだ。受付に立つセドナが彼を見つけ、柔らかく微笑んだ。
「また来てくれて嬉しいよ。今日は何の相談かな?」セドナは軽い調子で佐伯を迎えたが、どこか深い意味を持つような視線を彼に向けた。
「少し、また相談したいことがあって…。先日の初詣で、桜子との関係が少し変わった気がするんです。でも、それがどこに向かっていくのか、どうすればいいのかがまだわからなくて…」佐伯は心の中の迷いを素直に打ち明けた。
セドナはその姿に軽く笑い、「もちろんだよ。そんなに気を使わないで。気軽に話しに来てくれて嬉しいから」と言って、佐伯を鑑定室のソファに案内した。
佐伯は静かな鑑定室で、目の前に座るセドナに向かい、初詣での出来事を話し始めた。彼は言葉を選びながら、少し戸惑った表情でその日のことを振り返る。
「初詣の日、同期たちと一緒に桜子も来てて、みんなでおみくじを引いたんです。特別なイベントってわけじゃなかったけど、桜子との距離が少しだけ縮まった気がして…。でも、何かもっと踏み込めばいいのか、それとも今のままが良いのか、結局よくわからなくて…。」
佐伯は一度言葉を止め、視線を落とした。自分の気持ちを整理しながら話すのは、思った以上に難しい。彼の眉間には少し皺が寄り、どこか不安そうな表情が浮かんでいる。
「桜子とは同期だから、ずっと同僚として接してきました。彼女との会話はいつも楽しいし、仕事もやりやすい。でも、最近はただの同期以上に感じることがあって…。その日、桜子と話したことが何気ない一言でも、頭から離れなくて、何かが変わるような気がしたんです。」
佐伯は自分の胸の内を探るように、少しうつむきながら続けた。「正直、今の関係が心地良いんです。でも、一方で、これ以上進んだらどうなるのかも気になって…。もし桜子との距離をもっと縮めるべきなのか、それともこのままでいいのか、それが自分でもよく分からなくて…。」
彼の表情には混乱と迷いが浮かんでいた。話しながらも、感情を隠せない自分に苛立ちを感じているのが分かる。
「初詣のとき、みんなでおみくじを引いて、俺は『吉』だったんです。『慎重に進め』とか、そんなことが書いてあって…。その時、俺はもっと自分の気持ちに素直になるべきなのかもしれないって思った。でも、実際にはどう行動すればいいのか、まだ答えが出なくて…。」
佐伯は苦笑いを浮かべながら、セドナに向き直った。「俺、どうしたらいいんでしょうかね?このままだと、ただずっと立ち止まったままのような気がして。でも、勇気が出せないんです。」
彼の顔には焦りと迷いが入り混じった表情があり、その中で小さな希望の光を探しているような瞳が、セドナを見つめていた。
セドナは静かに、「それなら、今日もタロットで君の未来を見てみよう」と、タロットカードをシャッフルし始めた。
セドナがカードを広げ、最初の一枚を引く。テーブルに置かれたのは「皇帝」のカードだった。彼はそのカードを指さしながら解説を始めた。「このカードは『皇帝』。君の中にあるリーダーシップや、決断力を象徴している。君は今、しっかりと自分の感情をコントロールし、次のステップに進もうとしている姿がここに表れている。」
佐伯はその言葉に耳を傾けながら、「自分の中では少しずつ進もうと思っているんですが、それでも勇気が出せなくて…」と呟いた。
セドナは次のカードを引き、テーブルに並べた。そこには「恋人」のカードが現れた。「このカードは『恋人』。君と桜子さんの関係がこれからどう進展していくのかを示している。今は、選択の時期に来ているということだね。二人の関係がもっと深まるか、それとも現状維持で留まるか…それは君の選択にかかっている。」
「選択…ですか。でも、どうしたら…?」佐伯は焦りを感じながら、セドナの言葉に耳を傾け続けた。
セドナはその問いに微笑みながらも、少し表情を変えた。「もう一枚引いてみよう。」彼は次のカードを慎重に引き、テーブルに置くと、そこには「塔」のカードが現れた。
セドナは一瞬だけカードを見つめ、その後、ふと視線を変えた。「このカードは『塔』。変化や衝撃、そして何かが壊れることを意味する。君がもし今のままで進まなければ、何か大切なものを失う可能性があることを示しているんだ。」
深く考え込むような表情を見せた。佐伯が「何か気になることでも?」と尋ねると、セドナは小さく頷き、「少しだけ、別の方法で占ってみたい。君の魂に直接問いかけてみようと思う」と言った。
セドナは、小さな布袋から慎重に水晶のペンデュラムを取り出し、佐伯に向かって静かに説明を始めた。
「このペンデュラムは、ただの占い道具じゃないんだ。特別な魔力がこもっている。ある人から譲り受けたもので、非常に強力なものだ。その水晶には、不思議な力が宿っているんだ。」
セドナが手のひらにペンデュラムを乗せた瞬間、水晶が虹色の光を纏い、まるで生きているかのように輝き始めた。淡い光が部屋の中に広がり、石油ストーブの温もりとは違う、神秘的なエネルギーが漂い始める。
「見えるか?この虹色の光は、ペンデュラムが答えを探し始めた証拠だ。この水晶が導いてくれるのは、魂の深い部分からのメッセージなんだ。」
セドナはゆっくりとペンデュラムをテーブルの上に垂らし、揺れるのをじっと見つめた。その動きはゆっくりと始まり、次第に一定のリズムで揺れ始めた。虹色の光はペンデュラムの揺れに合わせて強弱を変え、まるで何かを語りかけているかのようだった。
セドナの表情が変わり、まるで誰かが乗り移ったかのような威厳が彼の全身に漂った。セドナの目は鋭く光り、部屋の空気がピンと張り詰める。まるで、異世界とつながる瞬間を目の当たりにしているかのような神秘的な空間が広がった。
「このペンデュラムが動き始めたのは、君の心の中にある答えを探り出しているからだ。今はただ、心を静めて、ペンデュラムの動きに身を委ねるんだ。」
佐伯はその光景に圧倒され、言葉を失ったままペンデュラムの動きを見つめていた。セドナはさらに集中し、深く呼吸を整えると、ペンデュラムに問いかけるように呟いた。
「答えを示せ、魂の奥底からのメッセージを見せてくれ。」
セドナは静かながらも、どこか重みのある声で問いかけた。ペンデュラムは一瞬止まった後、ゆっくりと円を描くように揺れ始めた。その動きは穏やかで規則正しく、しかし次第に速さを増していく。佐伯はその光景に息を飲み、言葉を失ったまま見守った。
しばらくして、ペンデュラムが突然方向を変え、激しく左右に揺れ始めた。セドナはその動きを見つめながら、深い呼吸をし、さらに集中した。やがてペンデュラムが静まり、セドナは目を閉じたまま静かに言葉を紡ぎ出した。
「3ヶ月以内に、君の前に大きな選択が訪れるだろう。桜子さんとの関係において、その選択が君たちの未来を決定づける。君が行動を起こせば、新しい段階へと進むだろう。君の中には、勇気が試される瞬間が待っている。」
佐伯はその言葉に緊張しながら耳を傾けた。「勇気が試される…それはどういうことなんでしょうか?」
ペンデュラムをセドナ意思とは関係なくゆっくりと周り続けた。「近い将来、桜子さんに対して自分の気持ちを伝えるチャンスが訪れる。だが、そのタイミングは一度きり。それは君自身が知っている場所でもあり、二人にとって大切な場所だ。 君がその瞬間に素直な気持ちを伝えられれば、二人の関係は今までとは違う形に変わるだろう。だが、もしためらってしまえば、桜子さんは君の手からすり抜け、違う道を歩むことになる可能性がある。」
「そのタイミングは…どうすればわかるんですか?」佐伯は不安そうに問いかけた。
「その瞬間が来た時、君の心は自然と動くだろうそして導きを見つけるだろう。桜子さんが君に対して、いつもと違う表情を見せる瞬間、それが合図だ。ペンデュラムは、その瞬間が必ず訪れると告げている。だが、君がそのチャンスを見逃さないかが試練だ。」
セドナは、再びペンデュラムを布の袋に収めながら静かに語った。「今は焦る必要はない。ただ、その時が来たら自分の心に正直になること。星やペンデュラムは君に道を示すが、その道を進むのは君自身だ。」
佐伯はその言葉に深く頷き、気持ちを引き締めた。「ありがとうございます、セドナさん。僕、やってみます。逃げずに、ちゃんと向き合ってみます。」
セドナは微笑み、「そうだ、君にはその力がある。星も、君の勇気を見守っているよ」と励ました。
館を出た佐伯は、冷たい風が彼の頬を撫でる中で、さらなる不安と大丈夫と言い聞かせる心に新たな決意が生まれていくのを感じた。ペンデュラムが示した道、そしてセドナの言葉が、これの意味が分かる時が来るのはいつだろうか
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