第14話 星詠みのための特別なカード
桜子はさらに季節が進み、冷たい空気を感じながら再び占いの館「星辰と月夜の部屋」を訪れていた。
クリスマスが過ぎ、街は年越しの準備に追われていたが、彼女の心には一向に変化の兆しがなかった。
館に入ると、いつも通り石油ストーブの柔らかな温かさが彼女を迎えてくれた。
周りの慌ただしさとは対照的に、館内はまるで時が止まっているかのように静寂に包まれていた。
スピカは桜子を迎え入れ、いつも通り鑑定室のソファに案内した。
スピカは静かに鑑定室の空気を整えると、桜子の目を見つめながら言った。「今日は、特別な占い方法を使います。いつもはホロスコープを見てお話しするのですが、今回は星詠みのためのクリスタルカードを使いましょう。」
スピカはそっと背後の棚から黒いベルベットの布に包まれたケースを取り出した。布をゆっくりと解くと、そこには透き通るようなクリスタルでできたカードが並んでいた。光にかざすと、カードはまるで生き物のように微かに輝き、淡い虹色の光を放っている。彫られた模様はどこか不思議な形をしており、文字とも絵ともつかない、まるで星の瞬きを閉じ込めたような細工が施されていた。
「このカードは、星々と魂をつなぐためのものです。普段は使わないのですが、桜子さんには特別にこれを試してみたいと思います。」スピカの声にはいつもの穏やかさとともに、どこか神秘的な響きが込められていた。
カードの表面には、氷のような冷たさと光の温かさが同時に感じられ、桜子はその感触に戸惑いながらも目を離せなかった。スピカが手をかざすと、カードが微かに振動し始め、まるで呼応するように星の光が部屋に満ちていった。
「これからカードに星の導きを求めます。桜子さん、あなたの運命にどんな変化が訪れるのかを見ていきましょう。」
スピカは、しばらく静かに目を閉じていた。桜子はその様子を見つめながら、少し緊張した表情を浮かべた。いつものホロスコープ鑑定とは違う雰囲気に、期待と不安が入り混じった感覚が胸に広がっていた。
「桜子さん、このカードは星の力を通じて、あなたの未来と向き合います。いつもより深く、心の奥にあるものに触れるかもしれませんが、準備はいいですか?」スピカの声はいつもよりも落ち着いていて、どこか厳かな響きを持っていた。
桜子は緊張したまま頷いた。「はい…いつもより少し緊張します。でも、自分の気持ちやこれからのことが知りたくて…」彼女の声は少し震えていたが、その瞳には決意が宿っていた。
スピカは優しく桜子の手を取った。桜子は自分の手がスピカの手に包まれる感覚に、少し安心したような気持ちになった。それでも、心の奥底では、これから何が起こるのか、そしてその変化がどのように自分の人生に影響するのか、不安が渦巻いていた。「もし…もしこの先に待っているのが、何か怖いことだったらどうしようって思ってしまいます。私は、変化が怖いんです。今のままでいたいと思うこともあって…」桜子はふと、本音を口にした。
スピカは微笑みを浮かべながら、「その気持ち、とてもよくわかりますよ。変化というのは、誰にとっても恐ろしいものです。特に、今の安定や安心感が心地よい場合は、なおさらです。でも、星はその変化があなたにとって必要なものだと教えてくれています。それが何であれ、あなたが乗り越える力を持っていると、星が示しているのです。」と優しく言葉を返した。
桜子はその言葉を聞いて少しほっとし、「そうですね、最近、佐伯くんとのこともそうですが、何も変わらないままで…自分から動けば変わることはわかっているんですけど、どうしても勇気が持てなくて…」と続けた。彼女の心には、ずっと引っかかっている感情があったが、それをどう処理していいのか、わからずにいた。
スピカは頷きながら、「そうですね。特に、他人の気持ちを探るのはとても難しいことです。あなたの月が蟹座にあることで、他人の気持ちに敏感になりやすく、慎重に動こうとする面があります。しかし、その慎重さが時に足枷になることもあるんです。変化を恐れてしまう気持ちは、そこから来ているのかもしれません。」
桜子は自分の感情を掘り下げるように、「私は、人からどう見られているのかをすごく気にしてしまって…。特に佐伯くんには、嫌われたくないって思ってしまいます。だから、自分の気持ちを伝えることが怖くて…」と心の内を明かした。
スピカがカードを一枚ずつ丁寧に広げていくと、部屋の空気が一変し、まるで時が止まったかのような静寂が広がった。カードは揺れ動き、まるで桜子の運命に反応するかのように、きらめきながら模様を変えていく。スピカはその中から一枚を慎重に選び、手のひらに載せた。
「これは…『運命の交差』です。」スピカがカードを見つめ、少し重々しい声で告げた。カードの表面には二つの光の線が交わる様子が映されており、星々の配置がまるでそれを導いているかのように見えた。
「桜子さん、三ヶ月以内にあなたの前に、大きな選択が訪れます。これはただの偶然ではなく、あなたの過去と未来が交差する重要な瞬間です。この選択は、あなたの心に大きな影響を与えるでしょう。そして、その選択に関わる人物がもうすぐ現れます。」
桜子は息を呑み、「それは…佐伯くんのことですか?」と問いかけた。スピカは微笑みながら首を振り、「佐伯さんとの関係も、星が導いている可能性もありますが、それだけではありません」と言った。
「選択…」桜子はその言葉を繰り返し、ゆっくりと噛みしめるように呟いた。「でも、その選択って…どうすればいいのか。私は佐伯くんのことが気になるけど、彼がどう思っているのかもわからないし、動いて失敗したら怖いんです。」
スピカは桜子のふわっと心を包み込むような声で「あなたの金星が双子座に位置していることも、その気持ちに関係しています。金星は愛や対人関係を象徴する星ですが、双子座にあると、コミュニケーションを通じて相手との絆を深めようとします。桜子さんは、本当はもっと自由に、素直に自分を表現したいと思っているのではないですか?」
「そうかもしれません。でも、いざ言葉にしようとすると、うまくいかなくて…。言葉が足りなかったり、逆に多すぎたりして、相手にどう伝わっているのか不安で…」桜子は自分の不器用さに少し肩を落とした。
「その気持ちも、星は理解していますよ。」スピカはカードをもう一度手に取り、星の光が反射する中で静かに語り続けた。「桜子さんには一つのチャンスが訪れます。そのチャンスは、あなたが自分の心を伝えるためのものです。おそらく、佐伯さんとの関係が深まる機会でしょう。その時に、あなたがどう行動するかが、未来を決定づけるでしょう。」
「でも、私はその時にちゃんと行動できるでしょうか…」桜子は、不安そうに目を伏せた。「今まで勇気が持てなかったのに、急に変わるなんてできるのか、正直自信がありません。」
スピカは桜子の手を再び取って、穏やかに微笑んだ。「桜子さん、あなたの太陽が牡牛座にあるということは、確かに慎重で安定を求める性格かもしれません。でも、その反面、一度決心すれば最後までやり遂げる力を持っています。星があなたにチャンスを与えるとき、それを掴むのは桜子さん自身です。星々はただの道しるべで、最終的に行動を起こすのはあなた自身の力なんですよ。」
桜子はスピカの言葉に少しだけ微笑みを返した。「そうですね。自分にできることから始めてみます。小さな一歩でも、勇気を出して動いてみようと思います。
スピカがカードをもう一枚のカードを引いてじっと見つめると、炎が燃えているかのような模様とそれを囲うような動きをする光がまるで桜子に何かを伝えようとしているかのように揺らめいた。
「こちらが示すのは『意志の開放』です、心の中の葛藤を解き放ち、新しい自分を見つけるための試練でもあります。恐れずに、その選択に向き合ってください。」
桜子はその言葉に耳を傾けながら、胸の中に不安と希望が入り混じった感覚を覚えた。スピカが手を伸ばし、桜子の手を優しく包み込みながら、「大丈夫、星はあなたを見守っています。これから訪れる変化を、どうか恐れずに受け入れてください。」と静かに語りかけた。
スピカは桜子のその言葉に満足げに頷き、「それが大事です。星々は、あなたが進むべき道に光を灯し続けます。少しずつ、あなたのペースで進んでいけば、必ず道は開けていきますよ。」と励ました。
桜子は深く息を吸い、「スピカさん、ありがとうございます。これから先、どうなるかわからないけど、少しずつでも勇気を持って行動してみます。」と決意を新たにした。
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