第26話 偶然の出会い
ある冬の日、桜子は占いの館「星辰と月夜の部屋」に足を運んでいた。夢の中の光景が少しずつ変わり、シルエットだった人物たちがはっきりと見えるようになってから、彼女はその夢が何を示しているのかますます気になり、再びスピカに相談することを決めていた。
外は寒さが厳しく、冷たい風が街を吹き抜ける中、桜子はコートの襟を立て、早足で館へと向かっていた。ステンドグラスの光が柔らかく漏れる館に着くと、どこか安心感に包まれる。玄関のチャイムが優しく鳴り響き、彼女は中へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ、桜子さん。お久しぶりですね。」スピカが落ち着いた笑顔で迎えてくれる。
桜子も軽く微笑んで「こんにちは。少し相談したいことがあって…また来てしまいました。」と返すと、スピカは頷いて、彼女を鑑定室へと案内しようとした。
その時、後ろから「峰木?」と聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り返ると、そこには佐伯が立っていた。彼もまた、この館に足を運んでいたのだ。
「佐伯くん?」桜子は驚きの表情を浮かべる。彼もまた占いをしに来ていたとは、全く想像していなかった。
「まさか、ここで会うなんて思わなかったな。」佐伯は少し照れくさそうに笑っていたが、どこか居心地の悪さを感じている様子でもあった。
「本当にね。お互いにここに来るなんて、偶然だね。」桜子も少し戸惑いながら答える。彼女の胸の奥には、突然の再会に小さな動揺が広がっていた。
スピカは二人の様子を見て穏やかに微笑んだ。「偶然とはいえ、お二人のタイミングがぴったりですね。もしよかったら、桜子さんと佐伯さん、今日は一緒にお話をしてみますか?」
「えっ、一緒に?」桜子と佐伯は顔を見合わせる。二人とも戸惑いを隠せなかったが、それぞれ心の中に抱えているものを少しでも整理したいと思っていた。
「スピカさんの提案はありがたいけど…」佐伯は少し困った表情を浮かべながら、口を開いた。「実は、僕はセドナさんにいつもお願いしていて。今日もそのつもりで来たんです。」少し戸惑いの色を見せながらも、スピカの提案をやんわりと断った。
桜子もその返答に戸惑い、「そうなんだ…。じゃあ、どうしようか?」と、少し不安げに佐伯を見た。
その時、廊下の方からゆっくりとセドナが姿を現した。いつもの軽やかな笑みを浮かべながら、二人に視線を向ける。
「なるほど、佐伯くんは僕にお願いしてたんだね。」セドナはスピカと二人を交互に見やり、続けた。「でもね、今日は何か特別な感じがする。桜子さんも一緒だし、スピカに先に見てもらうのも悪くないかもしれない。どうせ僕もあとでじっくり話を聞くからさ、ここはリラックスして楽しんでみたらどうかな?」
その言葉に、佐伯も一瞬驚きながらも考え込み、桜子に視線を送った。「そうだね…セドナさんがそう言うなら、試してみようか。」と、少し照れくさそうに答えた。
桜子も「うん、それなら大丈夫そうだね。」と微笑みながら頷いた。
スピカは二人を優しく見つめながら「では、少しだけ星々の流れを見てみましょうか。」と静かに言い、二人を鑑定室のソファに案内した。
その流れで、桜子と佐伯は並んで座り、スピカの占いが始まった。彼女の落ち着いた口調と優雅な仕草に、二人の緊張が少しずつ解けていった。
「佐伯さん、生年月日と生まれた時間を教えていただけますか?」
佐伯は少し戸惑いながらも、すぐに自分の生年月日を答えた。「1988年の3月15日です。生まれた時間は…たしか、夜の10時頃だって母が言っていました。」
スピカは頷き、手元のノートPCを開き、ホロスコープのソフトに佐伯の情報を入力し始めた。彼女の指先は軽やかにキーを叩き、星々の配置を描き出す準備を整える。その間、スピカの表情は真剣そのものだった。
「ありがとう。生まれた時間は、占いにおいて非常に重要な要素です。星々の配置が、その瞬間のエネルギーを表しているんです。」スピカは優しく佐伯に説明しながら、スクリーンに表示されたホロスコープをじっと見つめた。
「佐伯さん、あなたはとても強い意志とリーダーシップを持っていますね。しかし、それを発揮するには少し時間がかかるタイプのようです。自己表現がとても重要な時期にきています。あなたが再び自己を表現することが、今後の道を開く鍵になるかもしれません。
スピカはホロスコープをじっくりと見つめ、「あなたの金星と火星が交わる位置が、非常に重要な時期を示しています。特に、桜子さんとの関係において、この星の配置は『自己表現』を通じて絆を深めるタイミングだと言えます。お二人のつながりは、単に仕事上の関係を超えていくかもしれません」と、さらに深く語り続ける。
佐伯はスピカの言葉を聞きながら、少し驚きと共に納得した様子で頷いた。「自己表現…確かに、最近はそういうことを意識していなかった気がします。」
スピカはさらにホロスコープを読み込みながら、続けた。「あなたの星は、行動を通じて大きな変化をもたらす力を秘めています。」
「今日は、星の配置を基に、お二人のことを見ていきましょう。
「次に、桜子さん。」彼女は優しい声で話し始めた。
桜子は静かに言葉を聞き、少し考え込みながら頷いた。「確かに、最近は何か大きな変化が起こる予感がしていて…。でも、それが何なのか、まだはっきりとはわからなくて。」
「焦らなくて大丈夫です。星々がゆっくりと導いてくれますから、その時が来たら自然に感じ取れるはずです。」スピカは桜子を励ますように言った。
スピカが佐伯のホロスコープを読み解いている間、セドナは静かにその隣に座って、慎重に聞き入っていた。彼の顔には穏やかな表情が浮かび、目は優しくスピカと佐伯のやり取りを見守っているが、いつものような軽い言葉を挟むことは一切なく、静かに場の空気に溶け込んでいた。
佐伯はスピカの話を真剣に聞きながら、セドナの存在も気にかかっていた。しかし、セドナはただ静かに頷きながら、スピカに完全に任せているようだった。その沈黙には、セドナがスピカの解釈を尊重し、彼女の占いを邪魔しないという深い信頼が感じられた。
スピカが読みを進める間、セドナの存在が場の安定感を生み出していた。佐伯は心の中で少し不思議に思いながらも、二人の占い師が持つそれぞれの役割を理解するように感じた。スピカの言葉が徐々に佐伯の心に響き、占いが深まっていく。
「あなたの心が自分の感情に向き合い、行動を起こすことで、大きな転機が訪れるでしょう。音楽や表現が、そのきっかけになるのです」とスピカが締めくくった瞬間、セドナは微かに頷き、静かにその場の雰囲気を見守り続けていた。
スピカの占いが終わると、彼女は静かに佐伯を見つめ、「今の星の動きから見て、あなたが取るべき道は明確になりつつあります。しかし、もう少し具体的な指針が必要なようですね」と優しく微笑んだ。
その瞬間、セドナがスピカの横から静かに立ち上がり、「今度は僕が見させてもらう番だね」と、柔らかい声で佐伯に声をかけた。彼は、いつもの軽い調子を保ちながらも、どこか神秘的な雰囲気を漂わせていた。スピカが席を譲ると、セドナは静かに腰を下ろし、佐伯に向かって「少しリラックスして、頭を空っぽにしてみてくれ」と言いながら、タロットカードを取り出した。
セドナが占いを進める間、スピカは静かに彼の横に座り、じっとカードの動きやセドナの言葉を見守っていた。彼女の表情は穏やかでありながらも、その目には深い洞察力が輝いていた。セドナがカードを並べるたびに、彼女は軽く頷くが、口を開くことはなかった。
セドナはカードをシャッフルし、慎重に一枚ずつテーブルに並べた。彼の動きはゆっくりとしたもので、空気が一瞬で張り詰めるような感覚が佐伯に伝わってきた。
「このカードを通じて、君の未来にもう少し深く触れてみよう」と、セドナがカードを並べ終え、佐伯に向き直った。
一番最初に現れたカードは「運命の輪」。セドナはカードを指しながら説明を始めた。「これは『運命の輪』のカード。君の人生が今、大きな転換点にあることを示している。初詣や桜子さんとの会話、そして音楽を再び手に取ることが、運命を動かす重要なカギになっているんだよ。これからの展開は、君の決断と行動次第で変わってくる。」
佐伯はその言葉にじっと耳を傾けながら、「確かに、最近は色んなことが動き始めているように感じています。でも、どう行動すればいいのかがまだ見えていなくて…」と素直な気持ちを口にした。
セドナは次のカードを引き、「愚者」のカードをテーブルに置いた。「『愚者』は、新しい冒険の始まりを意味する。リスクを恐れず、未知の道に飛び込む勇気を持つことが必要だ。君が音楽に戻り始めたこと、そして桜子さんとの関係も、すべてが新たなステージに進む準備ができているんだ。ただ、その一歩を踏み出すのは君自身だよ。」
佐伯はセドナの言葉に深く頷き、少し緊張した表情を見せながらも、心の中で何かが解けていくのを感じていた。
「最後のカードを引いてみよう」とセドナはもう一枚のカードを手に取り、テーブルに置いた。それは「恋人」のカードだった。
「これは『恋人』のカード。君と桜子さんの間に深い絆が形成されつつあることを示している。だけど、それをただ待っているだけではなく、君自身がその絆を育て、行動を通じてその道を開いていく必要がある。」
セドナが「恋人」のカードを引いたとき、スピカはほんの少しだけ眉を上げた。セドナの解説を静かに聞きながら、彼女はそのカードの意味を深く理解しているようだった。
セドナはカードを片付けながら、「君にはその力がある。そして、星もカードも、君の行動を待っているんだ」と締めくくった。
占いが終わると、スピカは一度だけセドナに目を向け、軽く頷いてから佐伯に優しく微笑んだ。「セドナさんの言葉に耳を傾けて、今のあなたがどう行動するべきかをじっくり考える時間が必要ですね」と言った
桜子と佐伯は二人の占いを受けた後、胸の中に重く感じていた迷いが少しずつ晴れていくのを感じた。スピカの穏やかな視線は、まるでこれからの道を見守ってくれているようだった。
「これから、どんな決断をしても、私たちはここであなたたちをサポートします」とスピカは静かに言い、二人に安心感を与えるような温かな微笑みを浮かべた。
セドナもまた、二人に向かって笑顔を返し、「君たちにはその力があるよ。星も君たちを見守っているし、行動を起こす準備ができているんだ」と言い添えた。スピカとセドナ、二人の占いを受けた桜子と佐伯は、自分の心の中に新たな決意が芽生えているのを感じ、深く感謝した。
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