第6話 どうしても気になって
スピカの鑑定室には、いつものように温かい光が差し込み、ハーブの香りがほんのりと漂っていた。桜子はその心地よい空間に包まれ、両手でカップを握りしめながら、ゆっくりと深呼吸を繰り返していた。少しずつ、彼女の中にあった緊張がほぐれ始めていた。スピカの優しい眼差しが、彼女をそっと支えているように感じられる。
しばらくの沈黙の後、桜子は静かに口を開いた。
「佐伯くんのことが、もちろん気になっていて…それが大事な相談内容だったんです。」
スピカは静かに頷き、桜子の言葉を待ちながら、柔らかな笑みを浮かべた。
「でも…それ以上に最近、ずっと見る夢が気になっていて…」桜子は言葉を選びながら視線をスピカに向け、一瞬の躊躇の後、再びテーブルに目を落とした。
スピカは桜子の内面を察し、優しい声で促した。「大丈夫ですよ、桜子さん。ここではどんなことでも安心して話してください。どんなに小さなことでも構いませんから。」
桜子は深く息を吸い、一瞬迷いを感じながらも話し始めた。「最近、同じ夢を何度も見てるんです。夢の中に、古い洋館が出てくるんです。古びた木の廊下や、静かな部屋…。でも、洋館の中には暗い影があって…怖い感じじゃないけど、不安になるんです。それが現実に何か関係しているんじゃないかって、どうしても思ってしまって…」
スピカはじっと桜子の話に耳を傾け、真剣な表情を浮かべた。「古い洋館と影…。それは何かのメッセージかもしれませんね。夢というのは、私たちが気づかない心の声や、未来の兆しを伝えることが多いんです。特に繰り返し同じ夢を見るというのは、潜在意識が何かを伝えようとしている可能性が高いです。」
桜子はスピカの真剣な表情に少し安心しながらも、その不安を拭いきれない様子で続けた。「ネットで夢の意味を調べていたとき、偶然『星辰と月夜の部屋』の口コミを見つけたんです。ここが、不思議なことや自分の本当の心を教えてくれる場所だって…。それで、どうしても気になって…」
スピカは頷きながら、「それはきっと何かの縁ですね。夢のことが桜子さんにとって重要であるからこそ、この場所に導かれたのかもしれません。占いの館は、そうした縁を持つ人々が集まる場所です。きっと何か意味があるのでしょう。」と優しく言った。
桜子はスピカの言葉に少しほっとした様子を見せ、「ありがとうございます、スピカさん。最初は佐伯くんのことだけ相談するつもりだったんですけど…でも、この夢がどうしても気になってしまって…。スピカさんが信頼できる方だとわかって、話してみようと思ったんです。」と打ち明けた。
スピカは微笑みを浮かべながら、「お話してくださってありがとうございます、桜子さん。その夢が何を伝えようとしているのか、一緒に解き明かしていきましょう。それがきっと、桜子さんにとって大切な一歩になりますよ。」
桜子は「夢のせいで、最近は夜もぐっすり眠れなくて…考えれば考えるほど不安になってしまうんです。現実と夢が繋がっているような気がして…」
スピカは静かに桜子の手に触れ、温かい笑顔を見せながら「大丈夫ですよ。夢と現実の間には、私たちがまだ気づいていない何かが隠れていることがあります。
それを星々と共に解き明かしていくのが、私の役目です。」と安心させるように語りかけたのは、夢の話を話し始めてからはどこか落ち着かない様子で、カップを握る手が少し震えているのに気づいたからだ。
いつもより冷たく感じる自分の手を温めるように、両手でカップをぎゅっと握りしめていた。瞳は微かに揺れ、頭の中では言葉にならない思いが交錯していた。
「夢を見るたびに、なんだか胸が苦しくなってきて…」桜子は静かに語り始めたが、その声には少し緊張が含まれていた。「あの古い洋館…私は本当にあんな場所を知っているのか、どうかもわからないんです。でも、夢の中ではすごく懐かしい感じがして…。」
彼女の眉がかすかに寄り、まるで迷子になった子どものように見えた。目を伏せたまま、スピカの前で自分の思いを吐き出そうとしているが、うまく言葉にならないようだった。
スピカはその表情に気づき、優しく声をかけた。「桜子さん、無理しなくていいんですよ。あなたの中で、何かが目覚めようとしているのかもしれませんね。」
その言葉を聞いた桜子は、ふっと肩の力を抜いたものの、まだ不安が残るようで、視線を落としたまま話し続けた。「夜中に突然目が覚めるんです。夢の中で、洋館の影を見つけた瞬間、心臓がどくんと大きく鳴るのがわかるくらい…不安で、恐ろしくて。現実に何か悪いことが起こる前触れなんじゃないかって、そんな気がして…」
桜子の声は震え、目の奥に恐怖がにじんでいた。言葉にするたびに、不安が現実味を帯びてくるかのように感じている様子だった。スピカは静かにうなずきながら、じっと耳を傾け続けた。
「その影が、何を意味しているのか…もしかしたら、私自身の何かが反映されているのかもしれないって思うんですけど、どうしてもわからなくて…怖いんです。」桜子は思わずカップを持つ手をぎゅっと握り、震えを抑えるように口を結んだ。
スピカは彼女の不安を受け止めるように柔らかな声で言葉を返す。「その不安な気持ち、すごくよくわかりますよ。でも、桜子さん、夢はただあなたを怖がらせるために現れているわけではないんです。夢の中で現れる影は、あなたに気づいてほしい何かを示しているのかもしれません。夢を恐れるのではなく、そこに隠された意味を探りましょう。」
桜子はスピカの言葉を聞きながら、少しずつ息が整っていくのを感じたが、まだ心の中のざわつきが消えない。
「でも…もし、あの夢が何か悪いことを予告しているとしたら…どうしたらいいんでしょうか?私、どうしてもその不安が頭から離れなくて…ずっと、考えちゃうんです。」
スピカはホロスコープの画面をじっと見つめながら、「夢の内容があなたにとって重要なメッセージであることは確かです。恐れなくても大丈夫です、桜子さん。星々の配置を見てみると、今は感情が揺れ動く時期ではありますが、心を落ち着けてそのメッセージを受け入れることで、今後の道が開けてくるはずです」と説明した。
「夢を受け入れる…ですか?」桜子は少し疑問を浮かべながらスピカの方を見た。「怖いのに、それをどう受け入れたらいいんでしょう…?」
スピカは穏やかな笑顔で桜子を見つめながら、「受け入れるというのは、無理に夢を良いものだと思い込むことではなく、その夢が自分にとって何を意味しているのかを少しずつ理解していくことです。夢はあなたの心の一部が作り出しているものですから、そこで感じた感情や印象を大事にしてみましょう。」
桜子は少し考え込んだ表情を浮かべながら、スピカの言葉を反芻していた。「確かに…私は自分の感情に蓋をしているのかもしれません。佐伯くんに対しても、自分の本当の気持ちが何なのか…自分でもよくわからなくて…」
桜子はふっと息を吐き、苦しげに笑みを浮かべた。「どうしてこんなに自分の気持ちを伝えるのが怖いんでしょうね…。夢の中でも、現実でも、いつも私は何かを怖がっている気がします。」
スピカは桜子に優しい目を向け、「桜子さん、それはとても自然なことです。感情を表に出すことは、誰にとっても簡単なことではありません。でも、あなたの心の中には、もっと自由に表現して良い感情がたくさん詰まっているはずです。その感情を解放することで、夢の影も少しずつ薄れていくかもしれませんよ。」
桜子は一瞬戸惑ったように目を見開いたが、次第にその言葉が自分の心に染み込んでいくのを感じた。「感情を解放する…それができたら、きっと楽になるんでしょうね。」
スピカは、ノートPCに再び目を向けながら話を続けた。「あなたのホロスコープには、今が感情の整理と新しいステージへの準備を進める時期だと示されています。これからあなたの中で何かが変わり始める重要な時期です。夢に現れる洋館や影は、もしかしたらその変化の象徴かもしれません。」
桜子は、その言葉を聞きながら、ふっと微笑んだ。「変化…。怖いけど、避けられないんですよね。」
「そうですね。変化はいつも私たちのそばにあります。それをどう受け入れるか、どう向き合うかで未来は変わっていきます。佐伯さんとの関係も、その夢の中に隠されたメッセージを受け取ることで、新しい展開が見えてくるかもしれませんね。」スピカは静かに言った。
桜子は頷き、少しずつ自分の中に湧き上がる恐れと向き合う決意を固めていく。「スピカさん、私、もう少し自分の心と夢に向き合ってみようと思います。たとえ怖くても…それが今、私が進むべき道なら。」
スピカは優しく微笑み、「その決意がとても大切です。桜子さん、あなたは今まさに大きな変化の入り口に立っています。その道を恐れずに歩んでいけば、きっと素晴らしい未来が待っているはずです。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます