第35話 手術にて情報が一つ
魔法少女の都合があった日、阿坂の指定した場所に来ていた。
「阿坂、大丈夫なのか?」
しばらく別室で待機するようにと案内された部屋に阿坂が入ってきた。
「魔法少女の事か?」
「それもだけど、俺の事だよ」
立ち会いたいって言ったのは俺からだ。
でも、今回の手術は阿坂以外にも人が居る。指名手配犯が手術室にってのはバレたらまずい気がする。
それで混乱して手術が失敗したら。
「すまないな。私と君だけで手術するのは問題があった」
医療行為としてあまりにも危険すぎるし、犯罪行為を重ねる事になるからと阿坂が言う。
「君が魔法少女から認識される事がないように、こちらも配慮する」
「今回の手術に関わる奴らは?」
「相当の報酬を約束した。前金も払っている。今回は手術にだけ集中するように、と」
金にモノを言わせたらしい。
さすがの大学教授だ。
「それだけで大丈夫なのか?」
「今はこれくらいしか手がない。何かあれば金で黙らせる。論文や魔法少女研究でそれなりには持ってる。まあ似合ってるだろう、私には」
その自嘲はよく分かんないけど。
「……何があっても魔法少女の命を一番に優先。それが前提だ」
「ああ」
俺と阿坂は準備を整えて、手術室に向かう。全身麻酔直前までの準備はできていたらしい。
「手術を始める」
魔法少女が眠ったのを確認して俺も手術の様子を見ようと近づく。
メスで魔法少女の腹を開いて、子宮内部を確認する。確かに、そこには目視で確認できる大きさの黒いボコボコとした球体のような物が存在していた。
そして、摘出を行おうとする阿坂を見て。
『ダメじゃ! 摘出は中止だ!』
ホルトさんが叫んだ。
俺も咄嗟に止める。
「阿坂! 摘出は止めろ!」
俺の声に阿坂が手を止める。
魔法少女以外の視線が俺に向けられた。
「いきなり誰ですか?」
「彼女は、私の助手だ。説明したはずだぞ。私たちの他にもう一人手術に立ち会うと」
俺はホルトさんに理由を求める。
「……ホルトさん」
止めたのはホルトさんだから。
『刺激を与えると、未熟じゃがナイトメアが発生する可能性が高い』
だから、このまま摘出を試みようとすれば俺以外が全員死ぬ可能性が高いらしい。
『これは……原型もない程に改造されておるが』
オクト星人を素に作られておる、と。
「ホルトさんは……どうにかできないのか?」
『今は、無理じゃ……これの素になったオクト星人がおればどうにかできるじゃろうが』
安全な摘出手術は現状不可能。
「阿坂、このまま手術を続けるのは……危険だ」
「……そうか」
阿坂が俺の言葉の意味を汲み取ったのか、すぐさま摘出を諦め、縫合に移るよう指示を出す。
「ど、どうしたんですか、阿坂先生。助手の言葉で」
「今回の事に関しては目の前のことに集中するように言ったはずだ」
「その助手は一体誰なんです!」
「君は手術だけに集中しろ」
私が中止だと言ったなら中止だ。
阿坂の圧力に屈したのか、他の医者も思うところはあったろうに大人しく従う。
「────何が分かったか、教えてもらって良いだろうか?」
手術を終えて阿坂が俺に話しかけてくる。
今回の手術を行なった人たちには前金の倍額を支払ったらしい。
「先程は人が居たからね」
「……あのまま手術を続ければナイトメアが発生して、俺以外全員死んでたかもしれなかったんだよ」
「……そうか」
現状はどうにもならない事だけが分かった。
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