第12話 あの日、死ななくて良かった
北上さんに話をしに行った日から二日。
休みが明けた月曜日。俺はいつも通りに帰る所で片岡さんと会った。
「今帰り?」
「はい、仕事終わったんで」
「一緒にご飯食べない?」
食事の誘い、これを断るというのが俺にはなかった。
「はい!」
お店何処が良いかな。
「ほら、ご飯買いに行くよ」
「え?」
どっかレストランとかじゃないんだ。
「色々、聞きたいことあるんだよね」
「聞きたいこと、ですか」
まあ、兎も角。
片岡さんと一緒に居られる理由が出来たんだから、別に良いか。
「何か食べたいのとかある?」
「お刺身、とかですかね」
実家に居た時は肉類ばっかだったし。ちょっとさっぱりした物が食べたい。
「じゃ、パック買ってさっと帰ろ」
スーパーで刺身を何個か買う。
「はい、上がって」
「お邪魔します」
二度目の片岡さんの部屋。
「さて、と」
片岡さんが座ったのを見て、俺も「はい」と返事をして座る。
「穂村くん、休みの日変身したよね? どこかはよく分かってないけど。今回もネットニュースなってたよ」
「あ」
「いや、それは責めないよ。私が決める事じゃないし。ただ、出かけるなら私も誘ってくれて良かったのになぁ、って。変身の時とか色々手助け出来たかもしれないし」
誘って、と言われても。
「あの、あそこ実家だったので」
「へぇ……あそこ、穂村くんの実家だったんだ」
片岡さんは考えるように顎を摩る。
「何か用事あった感じ?」
「そうなんですよ。妹に『魔法少女に興味ある子がいるから』って感じで言われたので」
俺は実家に一時的に戻っていた理由を説明すると、片岡さんが「おお」と声を上げた。
「あれ……もしかして契約取れたり?」
「いやいや、ウチの会社以外にも色々あるって言いましたよ。来てくれたら嬉しいには嬉しいですけど」
「穂村くんだったらそう言うよね」
片岡さんは刺身のパックを開いて、蓋の方に醤油を入れる。
「大学の時からそうだったし」
「……まあ、大学時点ではそれなりに成熟してますから」
今と大して精神面では変わらない気がするけど。
「いやぁ、色々とありがたかったよ」
「そんなそんな。むしろ俺の方が……」
一緒にいる口実になってたし。
「俺、片岡さん就職して以降会えないと思ってたんですけどね」
俺もその後は就活とかで忙しかったし。仕事が始まってからは余計に。
「でも会えて良かった。あそこで会ってなかったら、私死んでたかも」
片岡さんは「命の恩人だ」と呟く。
「で……話戻すけど。今って魔法少女の契約取るのも中々難しいよね」
「え、片岡さんもですか?」
「私だって全然取れないよ。最近は本当にないかも」
片岡さんのところも最大手って感じでもないから、それは当然っちゃ当然か。
「まあ、他の人が何人かは連れてくるんだけどね」
「俺の方も似たようなモンですね。それで一、二年くらいで……」
「他社からスカウトされる、だね?」
何処も似てるらしい。
そうやって仕事の愚痴を吐きつつ笑い合う。そうして盛り上がってるうちに休日の話になって。
「にしても、穂村くんの実家の方凄かったね。一気に二体もナイトメア出たんでしょ?」
「そうなんですよ」
「通りすがった例の魔法少女が二体とも倒しちゃったって」
片岡さんが「頑張ってるじゃん」と褒めてくれる。
「ふふふ。ホルトさんのお陰ですよ」
俺が鞄をポンポンと叩けば触手が鞄から出てくる。
『戦っとるのはお前さんじゃがな』
「こうしてみると、生きてて良かったってのが何度もありますね」
妹とその友達が助けられたし。
大学の時は出来なかった片岡さんの部屋に上がるってのも出来ちゃってるし。今なんて片岡さんの部屋で一緒にご飯食べれてるし。
「私も、穂村くんが死ななくて良かった」
優しげな目が俺を見ていた。
「ありがとね、ホルトさん」
そして片岡さんはホルトさんに感謝を告げた。
「────ん?」
片岡さんとの食事が盛り上がってるなか、俺のスマホにメッセージが入った。
「誰だろ?」
アプリを立ち上げて確認すると、北上さんから『今度、そちらに伺っても良いですか?』との事。
俺は直ぐに『分かりました』と送り、日程については後で連絡する事を伝えた。
「誰から? 仕事?」
「仕事……と言えば、仕事かもですね」
「ふーん」
片岡さんは何かを呟く。
「どうしました?」
「気にしないで良いから」
俺に刺身を渡してくる。
「ほらほら、どんどん食べて」
俺は好きな人からの施しをありがたく受け取ることにした。
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