第13話 憧れ

 

 日程が決まっていよいよ北上さんが会社訪問に来る日。

 

「久々の契約、勝ち取れるかな?」

 

 嶋さんに言われたけど「いや、候補の一個になればって感じですよ」と答える。

 

「実績になるかもですけど、無理に契約とっても良くないじゃないですか」

「それは確かに」

 

 一応は魔法少女契約については説明してあるし、実際に魔法少女の仕事を見れたら一番良かったんだけど。

 まあ、流石にナイトメアが居るような場所に連れてく訳にも行かないか。

 

「僕に手伝えることであれば何でも言ってくれ。どうせ暇だし」

「いや、契約取りに行ってくださいよ。いつも通りに」

「……そうだ。魔法少女のナイトメアとの戦闘映像とか何本かあった気がするし、持ってこようか?」

 

 間近の実物には劣るかもだけど、魔法少女について知るには悪くないかも。さすが嶋さんだ。

 

「それはぜひお願いしたいですね」

「分かった。それじゃビデオ用意するから頑張るんだぞ」

 

 嶋さんに返事をして、社内で出来る仕事をしていると俺に連絡が入った。北上さんが到着したとの事。

 直ぐにエントランスに向かう。

 

「あ、こんにちは。お兄さ……穂村さん」

「今日はありがとうございます、北上さん。応接室で行います。案内しますので、どうぞ付いてきてください」

 

 応接室に案内して「あ、楽にどうぞ」と座ってもらう。

 

「えーと、担当します。穂村大我です」

 

 お互いに礼をして始める。

 

「契約についてはこの前話しましたね。正直、来てもらっても特には出せる物もなかったんですけど」

「あ、大丈夫です。魔法少女になるって決めましたので!」

「そうですか、魔法少女に……」

 

 なる?

 決めた?

 もう決定事項なの?

 

「ですので、何処に所属するべきかを判断しようかと思いまして」

「随分と決断早いですね」

「ふふ、そうかもしれませんね。実はお兄さんが来てた、あの日魔法少女に助けられまして……」

 

 彼女は憧れの人を語るように饒舌に。

 

「とってもカッコよくて! そんな姿が目に焼き付いてて……私も、誰かを助けたいと思ったんです!」

「そ、そうですか」

 

 医者に命を救われた子供が、医者を志すような感覚と似ているのかもしれない。

 今回は北上さんは元々魔法少女に興味があったし、魔法少女に助けられた事で拍車がかかった感じだと思う。

 

「それで色々調べたのですが、まだ三回しか確認できてないみたいで……」

「そうなんですね」

 

 三回しか変身してないからな。

 

「あの、北上さん」

「はい、何でしょうか」

「私は今回、魔法少女の戦闘映像を観ていただこうと思っていました」

 

 それは。

 

「ただ、北上さんの目にした魔法少女と比べては……強くは」

 

 見えないかもしれない、と言おうとしたところ。

 

「大丈夫です」

「はい?」

「ナイトメアを倒すのも凄かったですけど……私はナイトメアを倒したいんじゃなくて、誰かを助けたいんです」

 

 だから落胆することはない、と。

 

「魔法少女ならあの人程に強くなれなくても、それでも誰かを助けられる……そう思ったんです」

 

 俺が助けた少女が、俺に憧れて魔法少女になる。嬉しいような、こそばゆいような。

 それに加えて、眩しいような。

 

「誰かの為に魔法少女になりたい。とても素晴らしいことだと思います。私も出来る限りの事をしたいと思います」

 

 その上で北上さんがどうするかを決めていただければ、と言ってから俺は立ち上がる。

 

「ビデオの準備をします。ちょっと待っててください」

 

 部屋から出て嶋さんを探しに行くと、ちょうど良くビデオを見つけてきたのか「これな」と渡してくれた。

 

「どんな感じだ?」

「魔法少女になるのは決定らしいですよ」

「あ、もうそこまで?」

「らしいですよ」

 

 俺はビデオを手に応接室に戻る。

 

「すみません、北上さん。もうちょっとだけ時間ください」

 

 準備を整えてビデオを再生させる。


「お、できました。じゃ、再生しますよ」


 出てきたのはナイトメアと戦う青木さんの姿だ。光弾を放ち、時には殴りつけたり蹴りつけたりと。

 一生懸命に戦っている。

 

「…………」

 

 チラリと北上さんに目を向ける。

 真剣な眼差しを画面に向けていた。俺も画面に向き直る。

 

「……ああ」

 

 この映像はいつのだろう。

 大学説明会の時の青木さんよりも動けてる気がするんだよな。

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