第30話 何も言えない
大学侵入の件からしばらく。
阿坂を見つけ出す事はできず、ナイトメア退治と病院の施設破壊を繰り返してる中で嶋さんから電話がかかってくる。
とっくに休みをとってる期間は過ぎたけど、俺は会社に何も言わずにこんな事を続けてる。
「…………」
流石に着信拒否にしてしまおうか。
今はどうにもできそうにないから。社会人として、と思わない事もないけど。
「時間がもったいない」
俺の事なんかどうでも良い。
今、必要なのは俺の社会的なモノなんかよりも、圧倒的に魔法少女をやめさせる事だ。
「あの……!」
ナイトメアを倒した後で、嶋さんからの電話を無視してると声をかけられた。
振り返ると立ってたのは。
「あ……」
北上さんだった。
「あの時はありがとうございました」
「…………」
なんて言えば良い。
俺は、北上さんにどう答えれば正解だ。
「……ごめん」
考えても浮かび上がるのは、まずは謝罪だった。
「私は、あの時貴女に救われました。貴女が覚えてるかは分かりませんけど」
覚えてるよ。
当たり前だ。だから、今、こんなにも苦しいんだ。
「貴女の笑顔が、素敵だと思ったから! だから、私も貴女みたいになりたくて魔法少女になったんです!」
「分かってる……俺の、せいだ」
君が魔法少女になってしまったのは。
助けた事が間違いだなんて思ってはない。死なせたくないのは同じだから。
「……君は、魔法少女になるべきじゃなかった」
俺は北上さんと話してるだけでも苦しくなるのを自覚してる。
俺が、彼女を魔法少女にさせてしまったから。何も知らなかった俺が、そうさせてしまったから。
「……魔法少女になって、人を助けました」
「…………」
「貴女みたいに笑って『大丈夫だよ』って言えるように頑張りました」
「……っ」
「ありがとう、って言ってもらえたんです。私も誰かを助けられたんです。それだけで、それだけでも……私は魔法少女になれて良かったって思ってます」
だから。
違うんだ。
君が誰を助けようが、それが嬉しい事であろうが。
「魔法少女は……要らないんだ」
君は、結局死んでしまうんだ。
魔法少女だけが救われない。魔法少女である限り、救われない。
「ちゃんと教えてください。貴女が何の意味もなく、魔法少女を否定する訳がない!」
「…………ごめん」
それは。
「貴女が優しい人だって、私は知ってますから!」
魔法少女である北上さんだからこそ、俺のせいで魔法少女になってしまった彼女にこそ一番言えない。
「ちゃんと話してくれるまで、逃しません! アースウォール!」
地面が迫り上がり、俺の行手を遮るように壁が形成される。
「……話せない。悪いけど、俺にこの魔法は意味がない」
こんな程度の壁、俺なら簡単に突き破れる。目の前の壁を殴りつけて破壊する。
「言いましたよ。話してくれるまで逃さないって」
直ぐに修復、俺の右腕が壁の中に埋まったままの状態になる。
「捕まえました」
埋まったままの右腕を無理矢理に動かして、壁から抜き出す。
「君の力じゃ、俺は拘束できない」
俺は光弾で壁を破壊してこの場を去る事にした。
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