第31話 変身してて良かったと思うこと

 現状、俺がすべき事は何も進んでない。

 それもナイトメアの発生が抑えられてなければ、魔法少女手術を止められてないんだ。

 あの男の手掛かりになるかもしれない阿坂とも大学に侵入した日から会えてない。

 そして、相変わらずこの部屋に片岡さんは戻ってこない。

 

「…………会社の方もダメ、か」

 

 片岡さんの部屋の中で呟く。

 向こうの方もずっと連絡がつかない状態らしい。

 結果。

 全部、前に進まない状態になってる。行き詰まりだ。どうにもできないからナイトメアを倒してる。

 

「阿坂が何か知ってるかもしれないのに」

 

 重大な何かを。

 なんて思ってると父さんからの電話が来た。出るかどうか迷ったけど。

 

「…………今は、出れない」

 

 無視する事にした。

 コール音が鳴り続ける。

 その時間がえらく長く感じる。

 迷惑をかけてるのは分かってる。迷惑になってるとしても、出られない。

 

「…………」

 

 ようやく切れたかと思えば、留守電だ。俺は音声を聞いてみる事にした。

 

『大我、忙しいか? 会社の方から連絡があってな。お前もお前で大変だろうとは思うけどな、大人としてしっかりやる事はやった方が良いぞ』

 

 辞める時は辞めるって言うとかだな、と父さんの声が咎める。

 

『……まあ辛くなったんなら、俺の説教も聞きたくないか。お前の会社の方には連絡がつかなかったって報告する。また電話するかもだけどな、ちゃんと戻れるかどうかが分からないってなら出なくてもいい』

「……父さん」

『ま、そう言う訳だ』

 

 留守電の再生が終わった。

 

「全部終わったら、会いに行こう」

 

 その時までは待って欲しい。

 結局、何もかも全部が終わってからだ。俺が変身を解けるようになるのも。父さんに会いに行けるのも。

 

「……良かった」

 

 俺の変身前の姿が露見してなくて。

 俺が穂村大我であると知られてしまってれば、父さんたちにもっと迷惑をかけてただろう。

 

「俺、指名手配犯だもんな」

 

 病院施設の破壊、大学への侵入。

 魔法少女の必要ない世界にしたいからと随分とやってきたものだ。

 前の自分が聞いても信じてくれないだろうと思う。

 ここまで来てしまったんだ。

 もう戻れない。最後まで、やらないと。

 ちゃんとやらないと。

 

「助けないと」

 

 魔法少女の存在を否定して。

 魔法少女というものをこの世界からなくさないと。それが最低限なんだと、思ってる。

 それも全部が終われば、また話が変わってくるのかもしれない。

 だから、最低限なんだ。

 

「ごめん、ホルトさん。俺の事情ばっかりで」

『構わん』

 

 俺の謝罪にホルトさんがキッパリと。

 

『儂とて、お前さんと同じものを見てきたんじゃ。仲間を失う痛みはよく分かっとる』

 

 だから、とホルトさんが続けて。

 

『契約するのがお前さんで良かった、穂村大我』


 俺は「ありがとう」と言ってから部屋を出る。

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