第32話 自分の中でどこまでの悪事を許容できるか
「コンシーター……君と、話がしたい」
中々接触のできなかった阿坂が、俺のところにやってきた。
「まさか、そっちから来るなんて」
想定してなかった。
でも、これは悪くない予想外だ。俺の前に立つ阿坂からは罪悪感というモノが滲み出てるように思えた。
「私は……君に、協力しよう。付いてきてくれ」
そう言って歩き始めた阿坂に「どこに行くんだ」と聞けば。
「私の所有してる部屋だ。家ではない」
大学で見た時と比べて随分と憔悴してる。どの行動にも余裕がない。
「……さて」
玄関の鍵を閉めて、阿坂は部屋の中にあるソファに腰掛ける。
「何でいきなり俺に協力しようと思った」
阿坂は長い間を置いてから、ようやく口を開く。
「……例えば、犯罪をしたとして。犯罪は犯罪であったとして、全てが同等の罪であると君は思えるか?」
俺の質問に対する答えになってない。
「それが、関係あるのか?」
阿坂は俺から目を離して、俺の確認を無視して話を進める。
「盗みを働いた。けれど、殺人はしたくなかった。そんな許容範囲の話であって……」
「だから」
俺が早く質問に対する答えを出すように急かそうとした。
「私は……魔法少女研究について、深くは何も知らない」
私はある男の研究を盗んだのだ、と阿坂は目を細める。
「研究を盗んだ。だが、その研究が……人を殺すような物であるとは思わなかった」
天井を見上げる阿坂に俺は何も言えなかった。
「そのある男ってのは、誰だ」
「
阿坂が立ち上がり、俺の方に近づきスマホの画面を見せてくる。
「この男だ」
そう言って見せられた日野木の顔には見覚えがあった。白衣を着た、あの男。
「コイツだ」
「…………会ったことがあったか」
「間違いなく、コイツが魔法少女を生み出したって言ってたんだ」
「それが、正しい」
阿坂がスマホをポケットに戻す。
「私は日野木の研究を盗み、あまつさえそれを自分の名前で発表までした」
元々は日野木の用意していた論文であり、それに目を通して少しの添削を施し提出したのだと。
けど、そこにはナイトメアが発生するなんてことは言及されていなかったらしい。
「君が来て……私は、日野木に連絡をした。確かめなければならなかった。君の言葉が本当か、どうか」
俺が見たってだけじゃ弱いことも分かってる。
「日野木は、イカれてる……話してそれを実感した」
だから、俺に協力したいと。
けど。
「…………俺は、アンタを信じきれない」
「そうだろうな。それで良い。信用してくれとは言わない」
阿坂は「こんなクズの言葉を」と自嘲する。
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