第33話 犯罪者二人
椅子に座って、お互い顔を突き合わせる。
「結局……その日野木ってのはどこに?」
名前が分かったとしても、手の打ちようがない。名前と顔だけじゃ捕まえようもない。
「すまない……実を言うと、私も日野木とは会えていないのだ」
「は?」
「日野木とは電話口で話しただけだ」
それじゃ阿坂から俺が得られるものは何もない。
「それでどうやって俺に協力するんだよ。魔法少女手術を中止するとかって話か?」
「……どうやって止めさせる」
「アンタは魔法少女研究の第一人者だろ」
そんな人間が「魔法少女手術を止めよう」と言えば、効果はあるかもしれない。
「止めさせるにも理由が必要だろう。ナイトメアになる可能性があるから止めろ、と発信するのか?」
阿坂が目を伏せた。
「ダメだ。もし仮にナイトメアになる根拠を示したとしよう。それでは世界に混乱を齎すだけだ」
俺が発信するのと、阿坂という人間が発信するので何で同じ結果になる。
「……と言うのも、私が魔法少女の能力を消す方法を知らないからだ」
論文を盗んだだけだからか。
「…………君が考える通りの理由もある。だが、より大きいのは……私がその方法を試したことがないというものだ」
推測でしかなく、試したことがないから危険でしかない。
「じゃあ、どうすんだよ」
「……それは」
「被検体が欲しいってか……それは絶対に安全なんだろうな?」
「…………」
阿坂は答えない。
「君は……協力してくれないのか?」
「悪いけど、俺は魔法少女じゃないから」
手術について、協力はできない。
こればかりはどうにもならない。もし魔法少女にその手術をしたければ、俺じゃない誰かを連れてくるしかない。
「私から協力者を募ろう」
「……それしかないのか」
魔法少女をこの世界から失くすには現状ではそれが一番なのかもしれない。
俺は犯罪者だ。
手術をしたいから、受けてくれる魔法少女がいないかと声をかけたところで誰も反応しないはずだ。
考えてみれば阿坂もバレてないだけで犯罪者ではあるんだろうけど、どっちが世間的に信用できるかって話だ。
『なあ、お前さん』
どうした、と言いたくなったが阿坂の手前ホルトさんの存在を知られるのは避けたい。
俺はまだ阿坂に心を許してないから。
『そこの男に手術の際は儂たちも立ち会う事を伝えてくれ』
ホルトさんが俺にだけ聞こえるように言ってくる。
「阿坂明衡」
「どうした」
「その手術、やる時は俺も立ち会わせてもらうからな」
「ああ」
俺は一日に一度はこの部屋を訪ねる事を約束した。
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