第23話 とある魔法少女の怒り

 

〈???〉 

 

 私は魔法少女だ。

 そんなに有名ではないけど、そこそこに。別に平和ってのが好きだから、とか。誰かの笑顔を守りたいから、とか。

 そういう善意に満ちた理由で魔法少女になったんじゃなかった。

 

『え。由美ゆみ、魔法少女なったの?』

『そうなんだよね』

 

 顔には自信があった。

 大学生になる前までも男子は私の事を目で追いかけてたのは知ってたし。先生すらも贔屓してくれてた。

 大学生になって一年目、私はモデルにスカウトされた。そうしたら学校ではすごい話題になったし。

 私の時代が来たって感じがした。

 私が何か始めれば、皆んな凄いって言ってくれる。魔法少女を始めようと思ったのだってそんな理由だ。

 

『モデルもやって、魔法少女もやって。もう人生順風満帆じゃん!』

『それほどでも……あるかも』

 

 そう。

 その通りだ。

 私は自分の人生が最高なモノだと思ってた。だってモデルは人気だし、魔法少女もチヤホヤされるし。ナイトメアと戦うのは大変だけど、倒して感謝されるのは悪くない気分だ。

 人助けってのをしたかった訳じゃないんだけどね。

 

「えー、由美ちゃんって魔法少女なんだ」

「はい。バリバリ、ナイトメアと戦ってるんですよ」

 

 ある日、モデルの方の仕事の関係ですっごいイケメンと会った。別にモデルの方でも、魔法少女でも恋愛禁止なんて事はなかったし。この人の事がすごい好きだと思った。

 私って結構顔で人を好きになるタイプ。

 

「カッコいいな、魔法少女って」

「カッコいいって……でも、普段は可愛いの方が嬉しいんですけど? それにカッコいいのは宮木みやぎさんの方でしょ」

「あはは、モデルの由美ちゃんは可愛いよ。にしても、俺カッコいんだ? 由美ちゃんに言われると嬉しいね」

 

 欲しい言葉は“モデルの”じゃなかったけど。まあ、それは置いといて。

 

「由美ちゃんって大学だとどんな感じ?」

「大学だと、ですか? 友達と喋ってご飯したりとか……」

「普通だ」

「モデルと魔法少女で大学生活が普通になる程度には忙しいんですっ」

 

 私が頬を膨らませて言うと、頬をプスリと人差し指でさしてくる。

 

「ふぅ〜……」

 

 わざとらしく空気が抜けてくような演技をすれば宮木さんは笑顔になる。私は宮木さんの笑顔が好きだ。

 

「付き合いませんか?」

 

 そう告白したのは私からだった。

 大学二年になるちょっと前、私はもう良いだろうと思った。

 

「分かったよ。俺も由美ちゃんと一緒に遊ぶの楽しいからさ」

 

 お互い予定が空いた時はドライブしたり、バーベキューしたりと満喫してた。

 

「魔法少女してる由美ちゃん見てみたいな」

「えー……テレビとかで時々魔法少女戦ってるの出たりしてません?」

「もーっ、そう言うんじゃなくてさ」

 

 言いたい事は分かる。

 私は笑って「宮木さんに何かあったら、私泣いちゃいますよ」と。

 

「それに間近にいたらナイトメアに殺されちゃうかもですよ?」

「確かに。由美ちゃんの勇姿が見たいからって、そうなっちゃダメだね」

 

 なんて幸せな時間を過ごしてた。

 何もかもが最高で、これ以上にないほどの幸せだった。

 

「最近、由美楽しそうね」

「楽しいよ。モデルの仕事も、魔法少女も」

「魔法少女の方はお母さん、ちょっと心配だけどね」

 

 家族の仲も良好だった。

 お母さんから「大学はどうなの?」と言われて、私はぼちぼちと答える。溜息を吐かれる。そう言う日常が好きだった。

 

「……宮木さんと電話、繋がらない」

 

 撮影の仕事があるって聞いてた。

 私は大学と魔法少女の仕事があって、今日は電話しようって言ってたのに。

 

「何あったんだろ」

 

 ニュースで宮木さんが行ってた場所が滅茶苦茶になったのを知った。

 そこからだ。

 私の人生が滅茶苦茶になっていったのは。

 

「……由美、アンタ魔法少女辞めなさい」

 

 お母さんが私にそんな事を言ってきた。

 

「何で?」

「ナイトメアを見たの」

「…………それで」

「由美はいっつも、あんな恐ろしいのと戦ってたの……? 私は、その時何とか助かったけど……娘が魔法少女なんて」

 

 宮木さんが、生きてれば。

 魔法少女をカッコいいって言ってくれた。お母さんはこんなこと言うけど。宮木さんなら。

 

「由美、魔法少女って……辞めた方が良いんじゃない?」

「何で……?」

「何でって。だって……友達があんな危ない事してるって思ったら。それに、私を助けてくれた魔法少女が」

 

 魔法少女は要らないって。

 それから少しずつ、魔法少女は賛否両論あるモノになっていった。

 大多数は必要だと思ってくれてるのに、マイノリティの心無い言葉ばかりが焼き付いて刻まれる。

 魔法少女が間違いだと断じられる。

 

「私……頑張ってるじゃん!」

 

 好きな人死んでるのに、魔法少女の仕事頑張って。皆んなのこと守ってるのに。


 辛くなっても、苦しくなっても。

 心の支えの宮木さんが居ない。

 

 何で皆んな魔法少女を必要ないなんて、言うんだろう。

 私たちが居なかったら、皆んなナイトメアに殺されるのに。そんなことも分かってないのか。馬鹿な人たちだ。


 ……本当にイライラする。


 扇動する奴も、流されるだけの奴も、最初にそんな事を言った奴も。

 全員、嫌いだ。

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