第22話 魔法少女手術の生みの親
ナイトメアを倒した。
しつこい人間たちが「魔法少女は要らない!」と騒ぎ立ててる。
「…………」
気分が悪い。
何かを勘違いしている気がする。迫害するつもりで言ったんじゃない。こんなのを聞いていたくない。
「や、こんにちは」
撒こうとして入り組んだ路地を通った所、白衣の男が話しかけてきた。
「…………」
「皆んな酷いもんだよ。今まで自分たちの生活を守ってきてくれた魔法少女が必要ないなんて」
ヘラヘラとした態度が妙に気に入らない。
「魔法少女は希望なんだ。ナイトメアを倒してくれるね」
白衣のポケットに両手を突っ込んで俺の方に近づいてくる。
「そうだ名前、教えてくれよ」
「…………」
「教えてくれないか〜……じゃあ仮称ってことで、コンシーター。ネットじゃそう呼ばれてるみたいだし。ワタシも乗っかろっと」
俺の前をうろうろと。
右へ左へ。落ち着きがなく。
「そうそう。君、未登録だろ? というか、ワタシのデータベースに登録されてない魔法少女は普通は居ないし。じゃあ、君はどこでどうやって魔法少女になったんだ? とても興味があるんだよね」
「さっきから……お前、魔法少女の開発者か」
「え〜? どうだろうね」
笑みを浮かべた男は「まあ、こんな所よりも落ち着くところがあるんだ。そこで話そうか」と提案してくる。
『おい……!』
怪しいのは分かってる。
それでも、聞かなきゃいけないことが沢山ある。この男は何を知ってるのか。
「ほら、ここだよ。来るのは初めてだけど」
通されたのはとあるレストランの個室だ。壁は防音性に優れ、話し声は外に漏れないとの事。
「変身、解かないのかい?」
「…………」
「面接の時とかに上着とか帽子とか脱がないようなモンじゃない? ワタシはほら、何も持ってないのに」
俺は外で変身を解くつもりはない。
こんな得体の知れない人間の前でなんて、絶対に。
「まあ良いけど」
「……何の為に、俺に」
「言ったろ? ワタシのデータベースにないから。それに君の強さが魔法少女として異常だったから目に留まったんだ」
君が弱けりゃこんな風な事はなかったよ、と。
「君も聞きたい事があるんだろ? ワタシも気になる事が沢山だ! 是非是非、有意義な時間にしようぜ」
提案してきたのは情報の交換。
俺が知りたい情報について与えるから、俺も情報を教えろとの事。
「魔法少女の開発はお前がやったのか?」
初めに気になったのはこれだ。
「あはは、そうだね。魔法少女作ったのはワタシだ。ナイトメアという脅威に対策する為にね」
俺の質問に澱みなく答える。
嘘はないだろう。
「じゃあ次はワタシから。君、何で魔法少女は要らないって言ったんだ?」
「……一個聞かせろ」
「おいおい、君の番じゃないだろ。先攻後攻って感じでさ。流れ的にワタシの番だろ? それに答えてから」
俺は机を叩いて立ち上がる。
「魔法少女とナイトメアはどんな関係だ!」
男の目が細められた。
「……質疑応答は終わりだ。いやぁ……悪いけど、ワタシも多忙の身でね」
自分から誘ったくせに露骨に話を逸らし始めた。間違いなく、コイツはあれを知ってる。ナイトメアの発生についてを知ってる。
「君を警戒させすぎるだけだったか。失敗も失敗だ」
何の話か分からない。
「ナイトメア退治に勤しむと良い。アンチ魔法少女過激派の旗印の君」
彼はそう言い残して個室を出て行こうとする。
「待て!」
「待たないよ。次会う時は変身前の姿の時がいいな」
俺が店を出ると民衆が殺到して称賛の声が聞こえたかと思えば、罵声が飛び交い。乱闘にまで至る。
白衣の男は見当たらない。
「…………クソ!!」
腹立たしい。
騒ぎは続く中、グワンと世界が弾んだ。
「ナイトメアは」
俺が倒す。
白衣の男も重要だけど、今はそれよりも。
「魔法少女の要らないように」
ナイトメアは直ぐに倒せた。
けれど、戦いが終わらない。
俺に向けて魔法少女の一人が殴りかかってきた。
「ぐ……っ。何で……!」
突然の事で訳が分からなかった。
気がつけば、俺は魔法少女に取り囲まれていた。
「魔法少女を要らないって、アンタが言ったからっ! 私の友達が!」
「家族が!」
「先生が!」
私たちを否定したんだ、と。
彼女たちの怒りが、憎しみが胸に突き刺さる。俺は彼女たちと戦いたくない。抵抗すらもしたくない。
傷つけたくない。
「……ごめん」
俺は走り去った。
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