俺は魔法少女じゃねぇっ!

ヘイ

第1章 Beginning

第1話 マスコット足り得ないタコ型宇宙生物、オクト星のホルトさん

 

「魔法少女営業も落ち目じゃねぇかな」

 

 最近とかだと、男ウケ狙いすぎって感じもしなくもない。

 

「そろそろ新規事業も考えた方が良くねーか。まあ、俺が契約取れねぇってのが一番の問題なんだけどさ」

 

 魔法少女の契約営業も最大手ってのがあるし。それ以外でも競合他社が結構な数あるような業種に就職しちまったのも、当時の条件に釣られたからであって。

 

「魔法少女飽和時代ですわ」

 

 国内だけじゃなく、海外にすら営業かけてるところもあるくらいなんだ。

 

「なーんで、あの時は魔法少女に夢を見ちまったのかな」

 

 大学三年の冬あたり、何と言うかあの時は魔法少女ってのが勢いに乗ってた時だった。突如発生した怪物、ナイトメア。

 それに対抗する為に研究開発されていた魔法少女。何で研究開発してたのか、とかは俺は知らないけど。

 

「魔法少女も結構な給料貰ってんだよな」

 

 何と言うか、有名企業の魔法少女のヒモになりてぇ。


「…………」


 俺の働いてる会社に所属してた魔法少女ももっと良い条件の会社にスカウトされたからって居なくなってくし。

 その内契約取れないからってクビにされるんじゃ……。

 

「…………はあ」

 

 そうやって幸せを逃していると。

 

 ────ズドォオオオン!!!

 

 目の前に何かが落ちてきた。

 

「え……いや、は? な、何だよ」

『ま、全く……重力が全然違うんじゃが? お陰で死にかけたわい』

 

 煙が晴れて現れたのは頭足類みたいなやつだ。デフォルメされてないマスコットとするには気色の悪い奴。

 

「タコ?」

『おい、何じゃそら。儂はオクト星のモンじゃ。そんでホルトっちゅう名前があるんじゃが?』

「は、はあ。それで、そのホルトさんは何だってこの星に?」

『それがのう。この星から救難信号が届きおってな? 儂が助けに来たっちゅう訳じゃ』

「へ、へぇ」

 

 救難信号って、多分この宇宙人のお仲間が送ったんだよな。もしかしてナイトメアの一種なのかな。にしては知性があるしなぁ。

 

『まあ、儂には戦う力がなくての。こういうのは現地人に協力を要請せな行かんのじゃ』

「は、はあ……」

 

 アニメの魔法少女みたいだな。

 なら、この人も俺と同じような事してるって事なんか。

 

『儂と契約せい』

「いやいや、待て待て……待ってください」

『何じゃ?』

「何で俺なんですか? 他にも人いますよね?」

『誰でも変わらんじゃろ? だからお前なのだ』

 

 おい、マジか。

 マジで言ってんのか、コイツ。

 

「それ、俺が契約するメリットは何かあるんですか?」

『そりゃ……モテモテウハウハになれるぞ?』

「どう言う意味で言ってますかね」

『分からんか? 儂と契約する事でお前さんは強大な力を手に入れる。お前と同種の奴らは「交尾せん?」と言い寄ってくる訳じゃ』

「知的生命体舐めんなよ!?」

 

 話が通じない。

 そりゃ宇宙人だから仕方ないか。

 

「まあ、俺はもう行きますからね」

『待て! 待つんじゃ!』

「おい、触手絡めてくんな! 何かキモいんだけど!」

 

 足と腹に巻きついて、と言うか抱きついてくる。リアルタコ型生命体が。

 

「ほあ?」

 

 そんな気色の悪い異種族交友をしてると頭上が倒壊を始めた。

 

「ぎゃああああああ!!! マジで!? マジかぁああああああああ!!!」

 

 破壊音が鳴り響く。

 轟音の連続。

 

「タイミングはいつも最悪だな、本当! だからナイトメアなんだよ!」

 

 絡みつく触手なんか気にできない。俺はホルトを身体に巻きつけたまま走る。

 

『ほれ契約せんか?』

「今必死なんだよ!」

『儂と契約すれば強大なPowerが手に入ると言っておろうが』

「だああああ!!! んな事せんでも、魔法少女が居んだよ! この地球にはなぁ!」

 

 俺が戦う力を手に入れる必要はない。

 それに魔法少女飽和時代の今なら戦うだけじゃなくて、きっと泣き叫ぶ住民だって助けられるだろうさ。

 

「……穂村ほむらくん!」

「いっ! 片岡かたおかさん!?」

 

 片岡めぐみさん、二十六歳。

 大学時代の先輩で俺が好きだった人。もう会えないかも、とか思ってたのに。茶髪の髪は黒になっていて、髪はポニーテールに纏めていた。

 仕事をしてる人って感じで。

 

「は、早く逃げま────」

 

 言葉の途中、頭上を巨大な影が覆った。

 巨大なナイトメアが建物を破壊しているのが見えた。

 それが原因で出来た残骸が落ちてきた。このままだと、俺も片岡さんも潰れてしまう。

 

「────片岡さんっ!」

 

 全てがゆっくりに見える中で、俺だけが倍速で動けるなんて事はない。

 そんな特別な機能は持ってないんだよ、魔法少女じゃないし。

 でも。

 

「良かったぁ」

 

 ギリギリ、間に合ったと思う。

 

「────────!」

 

 何か言いたそうにしてるけど、聞こえねぇや。

 

「はあ……死にたくなかったけどなぁ」

 

 仕方ないよな。

 魔法少女のヒモになりたいなんて夢よりだったら、片想いしてた女の人を助けるってのが立派な気もする。

 

『お前に死なれては困るんじゃ』

「は?」

 

 世界が止まった。

 時間が停止した、と言う訳じゃない。

 

『契約しろ、人間』

「何だよ、これ」

『諦めるにはまだ早いと言っておるのじゃ』

「いやいや無理だろ。てか説明しろ」

 

 この状況を。

 

『これは儂とお前が直接触れておるから起きた現象じゃ』

「は?」

 

 いや、確かに絡みついてたから無視して走ってたけど。

 

『儂らはテレパシーが出来るんじゃ』

「ああ、うん。驚かないよ……まったく」

 

 宇宙人だもんな。それくらいできても別に、うん。

 

『それの応用での。精神でのやり取りに限定する事で会話可能な時間を限りなく引き延ばしとる』

 

 だから隕石は落ちてこないし、俺は死なないのか。

 

『儂もお前に絡みついとったせいでこのままだと死にそうじゃ』

「いや、それは自業自得じゃないですかね?」

『うっさいわ……まあ、それにお前さんだって本当に死にたい訳じゃなかろう?』

「まあ……そうですね」

『儂と契約したらひとまず生き延びる力を与えてやろう』

「そらありがたい話なんですけども」

『その代わりに儂の仲間を救う手伝いをして欲しいのじゃ』

「……そらそうだよなぁ」

『他に欲しいものがあれば可能な範囲でくれてやろう』

 

 別にんな事言ってない。

 このまま死んでも、片岡さんが助けられたし満足っちゃ満足だけど。

 

「……生き残れるかもってなら、最後くらい賭けても良いかもな」

 

 俺は契約を結ぶ。

 

『よし来た! 契約は完了じゃ! さあ、力を得る呪文を唱えるのじゃ』

「そ、そんなのあんの?」

『「マジカルチェンジ、ピースラヴァー」と!」

「…………」

『早くせんか!』

「は、はは……」

 

 んだ、そりゃ。

 命が懸かってるとか。そう言う時に恥じらいがあるとか。

 

「マジカルチェンジ、ピースラヴァーッッ!!!」

 

 んな訳ねぇだろ!

 

 俺の仕事は魔法少女に関わる仕事だ。こういうのを口にする機会がどれだけあると思ってんだ。思ったよりあるんだぞ。

 何だったらもっと恥ずかしい事、言ったこともあるんだからな。

 

「うわぁああああ!! 落ちてくんなぁああ!!!」

 

 急激に瓦礫が落下し始める。

 俺の声に応えるかのように、光弾が発射される。瓦礫を消し飛ばす程の高出力だ。

 

『ふむ、完璧じゃな』

「え、ええ……なんだそりゃ。てか、ホルトさんはどこ行ったんすか?」

『今はお前のコスチュームじゃな』

「マジで気色悪い」

『命の恩人に何ちゅう口の聞き方じゃ』

「それお互い様では?」

 

 瓦礫が消し飛んだ事で安心してると、隣に居た片岡さんが目を見開いていた。

 

「あ、片岡さん? 何とかなったみたいです」

 

 死ぬかと思ったけど、こうして生きてる。俺が軽く笑うと片岡さんが「え、ええと……誰?」と戸惑いを見せながら聞いてくる。

 

「え、誰? え、え? ど、どう言う事ですか?」

 

 ちょっと待って。

 質問の意味がわかりません。

 

「おい、ホルトさんや。説明が必要だと思うんですが」

『儂はナイトメアと戦っとる奴を参考にしただけじゃ』

 

 なるほどなるほど。

 うんうん。そういえば視点が低いな。何だか声が高いな。股の辺りに虚無感がな。

 

「……そこは男物のヒーローもあれよ!」

『そこはすまんの。儂はお前さんたちの性別とかよく分からんから』

 

 そこは宇宙人らしいのな。

 

「いや、別に良いけど……もう良いよ。男ヒーローなっても余計面倒かもしれないし」

 

 魔法少女の中に突然男ヒーロー出てきたらそれは問題かもしれない。

 

「……危ないっ!」

 

 片岡さんを抱きかかえて危険を回避する。ナイトメアが俺たちの方に近づいてきてる。

 

「ご、ごめんなさい。ありがとう」

「か、片岡さんが無事なら……」

「私の事知ってるんだね」

 

 取り敢えず逃げながらでも説明しておこう。

 

「あの、俺こんなナリになってますけど穂村です」

「エ?」

「穂村大我たいがです」

「穂村クンガ、穂村チャンニ?」

 

 情報処理が追いつかないけど、今はそんな事より。

 

「とにかく、ここから離れます!」

「走って!?」

「仕方ないじゃないですか!」

 

 他にどうしろってのさ。

 こんな状況じゃなかったら自転車の二人乗りも視野に入れたかったよ。

 

「穂村くん、私重くない?」

 

 しばらく走っていれば片岡さんも何とか色々飲み込んだのか。俺の事を穂村くんと呼んでくれた。

 

「全然重くないです」

 

 何だろうか、不思議といつまでも走ってられるような。これは好きな人の前で見栄を張りたい的な。

 

『違うのう。儂との契約によるものじゃ』

 

 違ったわ。

 

「それじゃ、帰りますか」

「え?」

「え?」

「ナイトメア倒しに行かないの?」

「いや、その……それは魔法少女の仕事と言いますか」

 

 俺は今までナイトメアから逃げるだけだったし。片岡さんが守れたから、それで。

 

「私は大丈夫だから。穂村くんは飛んでくる瓦礫も何とか出来るくらい凄いんでしょ?」

「う、うぅっ」

「お願い、他の人も助けてあげて」

 

 断れない。

 断れないよ。

 好きな人に言われたら、それはもう行くしかねぇんだ。

 

「それでちゃんと戻ってきてね。待ってるから」

「行って、きますっ!」

「行ってらっしゃい」

 

 たったこれだけでも俺は頑張れる気がした。

 

「────悪いな、ナイトメア」

 

 街の中、暴れるナイトメアの足元に立つ。

 

「魔法少女、ではねぇけど……俺はお前を倒さなきゃならなくなった」

 

 さっき瓦礫を消し飛ばした光弾。

 それを今度はナイトメアに向けて放つ。

 

『マーシー・シャインじゃな』

 

 俺は右腕を伸ばして、手のひらを開く。左手で右腕を支えて構えは問題なし。

 

「行くぞ、ナイトメア」

 

 これが。

 

「俺の究極!」

 

 多分。

 全然分かってないから何も分からんけど。取り敢えず今は。

 

「マーシーィィイ、シャイィィインッッ!!!」

 

 瓦礫を消し飛ばした時以上の光が地上からナイトメアの身体を通り空に向けて放たれた。

 

『────ガ……────』

 

 ナイトメアの体が消えていく中で声が聞こえた気がした。

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