第2話 片岡さんとの約束

 

「た、ただいまです」

 

 ナイトメアを倒して、俺は逃げるように走った。そして片岡さんの下に。

 

「おかえり、穂村くん」

 

 何とかなった、と思うと身体から力が抜けていく。

 

「は、はは……」

 

 本当に、良かった。

 片岡さんも無事だし。俺も何とか生きてるし。あの状況からのこれなら最高の状態なんじゃないか。

 

「そう言えば穂村くんって魔法少女?」

「え? いや違いますよ。魔法少女は女性限定じゃないですか」

 

 男だと魔法少女になれないんだから。

 魔法少女になるには手術ってのが必要らしい。まあ、実際はその手術に立ちあった事はないから、どんなのかはよく分からないけど。

 手術は政府に指定された病院でしか受けられないらしいし。

 ウチの会社の社長とかも手術の内容については、俺たちと同レベルにしか分かってないと思う。

 

「俺、男ですよ?」

「いや、でも……今はどこからどう見ても可愛い女の子だよ?」

 

 はい、と片岡さんがスマホを内カメラにして差し出してくる。

 

「……は、はは」

 

 確かに。

 これはどっからどう見ても女の子だわ。艶のある短い銀髪。宝石のような赤い目。性別どころか髪色まで変わってるじゃねぇか。

 

「その改造制服みたいなのも似合ってるね」

「ああああああああ!! もう終わったんだから戻せよ、ホルトさぁああああんッッ!!」

 

 俺が叫べば『やれやれ仕方ないのう。そう急かすな』と服が解けていく。

 ホルトさんがコスチュームから元のタコに戻っていく。

 

「うわっ……変身解除、ちょっとエッチすぎない?」

 

 と言うのも、俺の身体から少しずつ触手が剥がれていくからだろう。そしてコーティングが解ける様に、元の男の身体になる。

 

「何で……何で、そこは魔法少女らしくファンシーにいかないんですかっ!?」

『仕方がないじゃろ。儂が覆うしかないんじゃからな』

 

 この辺り、要相談だ。

 

「あ、本当に穂村くんだ」

「信じてなかったんですか!?」

「いや、ごめんて。でもこうして目の前に居るんだし信じるよ。それでそのタコさんは?」

 

 俺の隣にいるホルトさんを見て首を傾げた。

 

『儂はオクト星のホルトっちゅうモンじゃ』

「ええ……宇宙人って本当に居るんだね」

 

 受け入れるの早くない?

 

 と思ったけど、目の前で俺が女の子から戻ったりしたから今更な気もする。

 

「男の身体落ち着きますわぁ」

「女の子の穂村くんもかっこかわいかったけどなぁ」

「……それは、どうも」

 

 褒められてるのがさっきのアレだったとしても嬉しい。

 今は疲れたし休みたい。

 俺は地べたに腰を下ろす。

 

「大丈夫?」

「大丈夫です。ただちょっと、一息吐きたいだけで」

 

 片岡さんは少し考えるような顔してから「私の部屋上がってく?」と言ってきて。

 

「いっ!?」

「ここよりも少しは落ち着くと思うけど」

「そう、ですか」

 

 や、やばい。

 心臓がうるさい。そういう意味で言ってんじゃないだろうなってのは分かるのに。なんか期待しちゃうんだよっ。

 

「────ほら、上がって上がって」

 

 ここが、片岡さんの部屋。

 心なしか良い匂いがするような。

 

「今、お茶淹れてくるから」

 

 大学時代も色々と仲良くはしてたけど、部屋に上がったのは初めてだなぁ。生きてて良かった。

 

「はい」

「ありがとうございます」

 

 俺がお茶を受け取ると、片岡さんも腰を下ろしてテレビを点けた。

 ニュースはさっきのナイトメアについて報道している。

 

「……あのさ、穂村くん」

「はい!」

「穂村くんって魔法少女じゃないんだよね」

「そうですよ」

「私が行かせといてアレなんだけど……今回のナイトメアの事、どうするんだろうね」

「…………」

 

 そ、そうだ。

 未登録の魔法少女は居ない。俺、どうしたら良いんだろう。コソコソやるにしてもあんだけ派手に光弾ぶっ放したし。

 

『む? 何かダメなのか?』

「いや、だって……魔法少女じゃない俺がナイトメア倒したってなったら、こう……面倒くさそうと言うか」

『そこは寧ろ「俺がアレを倒す。皆んなを守るから詮索するな」って言った方がやり易いんじゃないかの?』

 

 なるほど。

 実力で黙らせる、と。

 

「よしっ、それで行こう! とにかく俺だってバレないように」

「なら穂村くん。変身と変身解除はここでしてって良いからね?」

「い、良いんですか?」

「私以外の誰かに見られるのもマズいんじゃない?」

 

 やったぜ。思わぬラッキー。

 片岡さんの部屋に上がる口実が出来たぞ。

 

「ありがとうございます! よーし、これから頑張るぞ!」

『ゲンキンな奴じゃな』

「ナイトメア出たらどんどん倒そうぜ」

『…………』

「ホルトさん?」

『ま、そうじゃな。今はそれで良いじゃろ。儂の仲間を救うにも色々分からんことばかりだしな』

「あ、そういや」

『おい、儂との契約内容忘れとったのか!?』

「いや、えーと……ごめんなさい」

『まあ、よいわ』


 俺たちのやり取りを聞いていた片岡さんがクスクスと笑う。


「頑張ってね。私には応援くらいしかできないけど」


 それが一番嬉しいかもです。


「それと今度からもちゃんと帰ってきてね。待ってるから」

「はいっ!」

「あと人前で変身したり解除したりしない事!」


 俺は元気よく「はい!」と返事をした。

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