第3話 やはり変身と変身解除はどうにかしたい

 

 今日の予定は大学に行って説明会をするとのこと。OBの俺が適任だろうと任された。さらに魔法少女職の方も取るようにとウチの数少ない魔法少女も連れて行くように、と。

 

「穂村さんの母校なんですよね?」

「そうだね。と言うか良かったの、青木あおきさん。魔法少女とか学校とか忙しくない?」

 

 彼女、青木遥香はるかは高校生兼魔法少女と多忙の身だ。

 

「同じ会社に魔法少女増えるの嫌な人居ませんって!」

 

 朗らかに笑う彼女に俺は「青木さんって何でウチに残り続けてるの?」と気になった事を聞いてみる。

 

「大した理由じゃないですよ?」

「そう?」

「穂村さんの先輩にしま智宏ともひろって人、居ませんか?」

「ああ、居る居る」

 

 俺の四個上で、俺の教育担当だったイケメン先輩だ。常ににこやかで爽やか。男の俺でもイケメンだと思うレベルで。

 

「その嶋さんがメチャクチャカッコよくて」

「本気で単純な事ある?」

 

 いや、俺も人のこと言えないけど。

 

「どこで魔法少女やっても同じなら、それくらいの理由じゃないとダメなんですよ」

 

 折角、魔法少女になったんですから。

 と言って、彼女は元気いっぱいの笑顔を見せつけてくる。

 

「後輩、見つかると良いな」

「それ、穂村さんに返します」

 

 俺と青木さんは大学内に入り、受付を済ませると見知った構内を案内される。俺が卒業してからそこまで経ってない。そんなに変わるでもないのは当然か。

 

「あ、穂村くーん!」

「……そりゃ居ますよね、片岡さんも」

 

 ここのOGなんだし、俺と同じような魔法少女営業してる所で働いてるんだし。

 

「え、知り合いなんですか。穂村さん」

「大学の時の先輩の片岡恵さん」

 

 俺が青木さんに紹介すると「うん。私は片岡恵、よろしくね」と名刺を差し出す。

 

「わっ……わたし、名刺持ってません」

「取り敢えず自己紹介でもしておいた方が良いと思います」

「そうですね。わたし、株式会社浦野うらの所属の魔法少女、青木遥香と申します!」

 

 俺は片岡さんの隣の席に座る。

 

「ホルトさん、どうしたの?」

 

 青木さんには聞こえないように小さな声で片岡さんが聞いてくる。

 

『居るぞ』

 

 俺の持っていた鞄から触手を伸ばす。

 

「出てこんで良いんです……!」

 

 軟体生物だからって鞄にスルリと入り込みやがったんだ。万が一に備えて一緒に居た方が良いだろって。

 

「今日は魔法少女も居るんで大丈夫だと思ったんですけどね」

 

 俺がチラリと青木さんを見ると彼女は「仲良いんですか?」と聞いてくる。

 

「うん。穂村くんは健気で可愛んだよ」

「穂村さんが?」

 

 これ喜んで良いのかな。

 片岡さんに褒められたって喜んで良いのかな。

 

『良かったのう』

 

 ホルトさんが親とか親友みたいな反応してくる。

 そんなやりとりがあって少しすると。

 

「皆さん、今日はありがとうございます」

 

 大学の就職相談室の人が俺たちに挨拶をして、まもなく大学生が来ることを伝える。

 

「穂村さんは何準備してきたんですか?」

「俺は……まあ適当に会社の説明のレジュメ持ってきたけど」

 

 俺が鞄から持ってきたレジュメを取ろうとすると、中のホルトさんが『これじゃな』と差し出してくる。

 意外と便利かも。

 

「へえ、こんな感じなんですね」

「もしかして青木さんって見たことなかった?」

「はい、記憶にございません!」

 

 とは言っても説明は俺がするつもりだし。青木さんには魔法少女の仕事の説明とかしてもらえればそれで良いし。別に覚えてなくて良いか。

 

「あ、来ましたよ!」

 

 大学生がゾロゾロ入ってくる。

 一時間ほど企業説明をするという事で、俺が話を始めてから十分が経った辺りで。

 

「────穂村さん!」

 

 青木さんにナイトメアが出現したと言う連絡が入った。しかも場所はこの大学の近く。

 

「わたし、ナイトメアを倒しに行きます!」

 

 俺は片岡さんの所へ向かう。

 

「穂村くん、窓の外……」

 

 そこにはまたしても巨大なナイトメアの姿があった。大きさは数十メートルはあるだろう。

 

「ナイトメアですね。ウチの青木が倒しに向かいました」

 

 学生たちも避難を始めてる。

 

『倒しに行かんのか?』

 

 学生も居る。

 倒すにも変身するだろ。

 

「流石にここじゃムリ!」

 

 取り敢えず、外に避難しないと。学校は崩れる可能性あるし。

 

「今は大学から出るのが最優先!」

「そうだね」

 

 俺は片岡さんと一緒に学生たちの後を追って避難を始める。全員、非常階段から外に出るつもりらしい。

 

「やっぱりでけぇよな」

 

 大学の外に出て、地上から見上げるナイトメアはでかい。黒々とした二足歩行。叫びを上げながら歩む。知能はないように思う。

 

「ん?」

 

 知能はない、筈だ。

 だから個人個人を気にもしない。だと言うのに、何でか俺の方を見てる気がした。

 

「えええええ!? な、何でこっちくんの!?」

 

 しかも俺の方に迫ってくる。

 

「穂村くん! あっち!」

 

 俺は片岡さんに引っ張られて人気のない所に連れ込まれてしまう。

 

「ここなら」

「か、片岡さん……こんな所で」

「変身、出来るよね?」

 

 あ、そう言う。

 

「青木さんが倒せるかどうかは分からないけど、穂村くんが行けばもっと早く倒せるかもしれない」

「そう、ですね」

「変身すれば穂村くんも安全。早く倒せば、皆んな安全。私もね」

 

 それは間違いないな。

 それにここなら出来る。

 

「マジカルチェンジ! ピースラヴァーズ!」

 

 変身は解除の逆らしい。

 つまりは、だ。

 膜に覆われてから、触手が絡みつくと。

 

「おい! マジでファンシーなヤツにしろ!」

「え、エッチだね。変身も」

 

 取り敢えず。

 

「行ってきます!」

「うん。行ってらっしゃい」


 あのナイトメアを倒す。

 片岡さんに期待されるから。

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