第9話 妹の友達と
青木さんの病院の付き添いからしばらく。
「お、ここだここ。よっこらせ、と」
妹の友達が魔法少女に興味があるとの事。
まあ別に妹も「私のお兄ちゃんがそういうの知ってるから話だけでも聞いてみれば?」とか軽い感じで言ったんだろう。
まあそんな感じの事があったので、久しぶりに実家に行こうと思う。
「実家に行くの何ヶ月ぶりだ?」
働き始めてから何回か帰ってたりはするけど、そんなに頻度も多くない。
「ま、そんなに長くも居られないし。帰省って感覚も全然しないけどな」
窓の外を眺める。
『儂も故郷が懐かしいと思う気持ちは分かるぞ』
「そう言うのって誰でも共通ですよね」
そう言えば……ホルトさんって、無賃乗車にならないよな。考えたら怖いんだけど。
タコだよ。あれ、生ものの持ち込みって。いや、でも生きてるし。
え、でも生きてるって事は。
「ホルトさんは、ペット……?」
『失礼な発言が聞こえたんじゃが?』
「いやでも、ホルトさんは賢いし……人間並だし。てことは人扱いなのか?」
でもこれって人間扱いして良いんだろうか。どう見てもタコだし。俺とか片岡さんは受け入れてるけど、流石に騒ぎに。
「俺、犯罪者? 危ない橋渡りかけてる……?」
『大丈夫じゃ』
「はい?」
『大丈夫じゃ』
「……そうかも」
よくよく考えれば大丈夫な気がしてきた。
うん、大丈夫だろ。だってホルトさんがこう言ってるんだぜ。
全然問題ない。何とかなるなる。
「────さてと、到着だぜ!」
無事、ボルトさんの存在は隠し通せた。後はタクシーで家まで。
『何と言うか、ここは全体的に建物が低いのう』
タクシーを降りるとホルトさんが言う。
「まあ田舎だしな」
タワーとかマンションとか特にないし。ビルだってほとんどない。そりゃ向こうと比べれば全体的に低く見える。
「お兄ちゃん」
玄関の方から声がした。
タクシーの音で気がついたのか。
「お、
アイスキャンディーを咥えた黒髪ショートの少女。高校生にしては色々と未発達な俺の妹が出迎えてくれた。
「んっ、いつもそれな」
「何だ嫌なのかよ」
頭撫でられんの好きだったじゃん。
「仕方なく撫でさせてやってんの」
「めっちゃありがたいです」
ぶっちゃけ俺の方が喜んでるのは否定できない。
「一撫で五千円」
「ぐっ……仕方ないっ」
俺が鞄に手を伸ばすとホルトさんが財布を用意してくれる。
「待って待って! 冗談だってば!」
「何だよ」
払うつもりだったのに。
「まあ久しぶりに会うし。お小遣いって思って、ほれ」
取り敢えず三千円は渡そう。
「マジで? 気前良いね」
「お兄ちゃんはいつだって妹に優しいんだぞ」
「嘘つけ」
妹の後ろに付いてく。
どうにも父さん母さんはお出かけしてるらしい。帰ってくるのは夕方くらいだと。
「それで友達ってのは?」
「お兄ちゃん、着いてすぐにそれ?」
「休日の合間縫って来てんだぞ」
「ちょっとはゆっくりしたら?」
「それもそうだな」
俺は懐かしさのある居間に腰を下ろした。
「なあ、美波は魔法少女興味ないのか?」
「私? 無理無理。痛いの嫌ーい」
「怪我したらすぐ泣いて、俺に抱きついてきたもんな」
「いつの話してんのっ!」
やべ、怒らせた。
「悪い悪い」
「三千円貰ったし許す」
美波がスマホをいじり始めた。
「友達、二時半くらいに来るって」
「オッケー。んじゃ昼飯食お」
「私も」
美波と一緒に飯を食う。
食事中、美波は俺に色々聞いてくる。魔法少女にはなる気はないのに、どう言う仕事してるのかとか。
魔法少女に知り合いは居るのか、とか。
俺は答えられる範囲で答える。
「それじゃお兄ちゃん!」
「ん?」
俺が水を飲みながら美波に顔を向ければ、聞き覚えのある『セ、センサクスルナッ!』というセリフが聞こえた。
「ぶごっ……ごほっ、ご、ふ!」
やべ、鼻に水入った。
まさかここで見せられるとは思わなかった。
「どうしたの?」
「いや、ちょっと……それで、どうした?」
「この子知ってる?」
「……ネットで有名なんだろ? ニュースにもなってたし。俺も知ってるよ」
「うん。すっごい可愛いなって思ってさ」
お兄ちゃんとしてすっごい複雑な気持ちだよ。片岡さんに言われる可愛いとは全然違う。
「でも、会った事はないな」
だって俺自身だもん。俺が俺自身と会える訳ないってな。
「そっか」
美波はスマホをしまう。
聞きたい事は聞けたのか。
美波は食事に戻ろうとして、思い出したように顔を上げた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん?」
「……友達、
ちゃんとよろしくね、と。
美波は軽い感じで友達に話したと思ってたけど。
「分かったよ」
真摯に向き合おう。
魔法少女に興味がある女の子の一人に。
「すみませーん」
美波が勢いよく立ち上がった。
「友達?」
「そう! 二時半って言ったのに!」
食卓から飛び出て迎えに行く。
俺はゆっくりと後を追う。
「ごめん、まだ二時だけど。もう来ちゃった」
緑の髪を腰まで伸ばした制服姿の少女が立っていた。
「悠里さん?」
「あ、はい。
初対面、彼女はおっとりとしてる人だと思った。
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