第10話 実家のご飯が一番美味い
「────と言った感じです」
北上さんに魔法少女の契約について、ウチの会社ではどうなっているかを説明する。
「他社では契約内容も変わってくると思います」
実際、俺のところよりも好条件なのはめちゃくちゃある。
「そうなんですね……あの、お兄さんは自分の会社で契約して欲しいとは」
「思いますよ。魔法少女になるのであれば。それでも、最後に決めるのは北上さんですから」
契約取れたなら俺の実績になるとは思うけど、流石に妹の友達を言いくるめて契約してもらおうとか思わない。
そう言うことしたら、美波に軽蔑されそうだし。
「今日はありがとうございました」
俺が説明を終えると彼女は立ち上がって扉に向かう。
「お話終わった?」
俺も一緒に部屋を出ると美波が聞いてくる。
「ありがとね、美波」
「全然。お兄ちゃんが都合あわせてくれただけだから」
北上さんはもう帰るらしい。
「あ、北上さん!」
「はい?」
「一応名刺渡しときますね」
今日はスーツじゃないから鞄の中に突っ込んでたんだ。
「はい、これ」
ホルトさんがいつものように手伝ってくれる。一人に一人、オクト星人と思うレベルでホルトさんがありがたい。
「ありがとうございます」
「連絡先とか書いてるので、話聞きたい時とか。それと会社に訪問したい時とかは私が対応するので」
北上さんは名刺を手に持ったまま家を出ていった。
「ありがとね、お兄ちゃん」
「おう」
今は三時半過ぎ。
そろそろ父さん達も帰ってくる頃だと思う。
「今日の晩飯、何かな」
実家の飯が一番美味い。一人暮らしして気づいたけど、これは本当に。
「聞きたい?」
「……いや、楽しみは取っときたい。絶対ネタバレすんなよ」
そんな他愛のないやり取りをしていると、家が揺れた。
「地震……?」
俺は直ぐに外が見える場所に移動する。
「ナイトメアだ」
窓から見えるのは黒い巨体。
「取り敢えず、ナイトメアは魔法少女が何とかしてくれるはずだ」
だから俺がすべきは美波を連れて、ここから避難するってことだ。
「美波! ここから逃げんぞ! ナイトメア出てる!」
「う、うん!」
ナイトメアは地震災害と違う。建物から出ないと。
「は……?」
俺はナイトメアから遠ざかるように走っていた。その時に見えてたのは一体だけだった。
「嘘だろ……?」
同じ街、同じエリアにナイトメアが二体同時に出現すると言うのは信じたくなかった。
「実家でゆっくりしたかったのに!」
文句を垂れながらも、俺は美波と一緒に走る。俺の方はまだ問題ないけど、美波には疲労の色が見えてきてる。
「ご、めっ……お兄、ちゃん」
美波の走る速度が落ちてきた。
「大丈夫だ、美波……お兄ちゃんがちゃんと連れてくからな」
俺は美波を抱いて走る。
変身できれば良いんだろうけど、今の状況じゃどうにもできない。一先ずは避難場所まで移動してからじゃないと、話にならない。
美波を一先ず安心できるところまで連れてかないと。
「や、っと……着いた」
息が切れてる。
「ごめん……お兄ちゃん」
涙を滲ませながら謝る美波の頭を撫でてから下ろして「ちょっとトイレ行ってくる!」と言って走る。
「え?」
息は切れてて。
「ほ、ホルト……さん!」
やばい、めっちゃ疲れてる。
『早く変身する場所を見つけるんじゃ!』
人はほとんどいない。多くは既に避難を終えたのだろうか。
「ど、どこか……あそこ、ならっ!」
公衆トイレを見つけて俺は中に入る。
「マジカル……チェ、ンジ。ピ、ピース……ラヴァー」
途切れ途切れでも口上は良いらしい。
鏡を見て変身が完了したのを確認してから、俺は今度はナイトメアに向けて走る。
「身体軽い!」
さっきまでの疲れが嘘みたい。
「なあ……魔法少女、居なくね?」
どうにもナイトメアに攻撃をしてる魔法使いが見当たらない。田舎だから仕方ないっちゃ仕方ないのか。
『今は気にしとる場合じゃなかろう! と言うか好都合じゃ!』
「そうだなっ!」
魔法少女居ないならマーシー・シャインの射線気にせずぶっ放せる。
「って、誰か居る!」
足首を挫いたんだろうか。
このままだとナイトメアに。
流石にそれは。
「うぉおおおおおおお!!! 間に合えっ!!」
速度を上げる。
「マァアアアアシィイイイ!!!! シャイイイイイイインッッッ!!!!」
ナイトメアの足下。
直ぐ近くまで来て、俺は最強の一撃を放つ。倒せたのはまだ一体だけ。
「大丈夫か?」
「魔法、少女……?」
転んでいたのは北上さんだった。
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