第7話 一途だよね、本当

 

 会社説明会の昼休憩中、人事部長の酒井さんは「昼は各々で」と言って居なくなってしまった。

 

「青木さん」

「何ですか?」

 

 朝は特に話す時間もなかった。

 

「体調の方は大丈夫ですか?」

「全然問題ないです! 一時的なものだと思います」

 

 青木さんの答えに対して、俺はそこまで信じられない。ナイトメアが現れたあの日は大丈夫だと言ってたのに、次の日は体調不良で休んでたり。

 

「病院行きましょう」

「いやいや、全然問題ないですから!」

「疲れやすいってのも原因わかるかもだしさ」

 

 今は大丈夫でも、問題が後から出てくると色々困るし。

 

「それに嶋さんも心配してるぞ」

「……嶋さんが?」

 

 食いついたな。

 嶋さん出しときゃ何とかなるかもしれねぇ。俺は「青木さんが体調崩してるって聞いた時、嶋さん『早く治って欲しいな』って不安そうな顔してましたよ」と伝える。

 嘘ではない。

 

「しょ、しょんな事が」

「一人で行けないなら俺も付いてくぞ。幸い有給は残ってんだ」

 

 それに今日の会社説明会で出社扱いになって代休出るかもしれんし。病院がやってる平日でも問題ない。

 

「子供ってのは無茶しがちだし……うし、年上としてちゃんと見張っとかないとな」

「なっ!? ひ、一人で行けますけど!」

「俺も不安なんだよ」

 

 ここではこう言っといて、病院行かないで放置って可能性もあるし。

 

「…………仕方ないですね。付いてきても良いですよ、どうせ単なる風邪だと思いますけど」

「そうだったら良いんだけどな」

 

 少し話し込んでしまった。

 

「悪い悪い、時間取らせて。昼食いに行くか」

「あ、なら奢ってください!」

「は?」

「悪いと思ってるなら」

「マジかよ。昼くらいは俺と居なくても良いと思うけどな」

「穂村さん、なんかお兄ちゃんみたいでわたしは嫌いじゃないですよ」

 

 抵抗ないなら、別に良いか。

 誰かに懐かれるのも悪い気はしないから全然良いんだけど。

 

「大我お兄ちゃんって呼んでも良いぞ」

「調子に乗らないでください、気持ち悪いです」

「……すみません。許してください」

「冗談です!」

 

 演技だとしても拒絶は心に刺さるぞ。俺が悪いんだけどさ。

 

「あの! すみません!」

 

 昼に向かおうとした俺たちにスーツ姿の男性が声を掛けてくる。

 

「はい?」

「少々お時間良いですか」

 

 どうにも学生らしく質問をしたいとの事。時間を考えて欲しいと思っても無碍にはできない。

 

「ちょっと待ってください。青木さん、外で待っててくれる?」

「分かりました!」

 

 まあ、これで良いか。

 それから学生との質疑応答を五分程度。俺は外に出て待ってる青木さんと合流しようとして。

 

「すみません、お断りさせていただきます」

 

 頭を下げているのを見つけた。

 相手はスーツの中年。彼も礼儀正しく謝罪を述べてから去っていく。

 

「何だったんだ?」

「別の会社からのスカウトでした」

「条件は?」

「かなり良かったですけど。前にも言ったじゃないですか」

 

 大分筋金入りだな、青木さん。

 

「後で嶋さんと話す機会とか貰おうか?」

「良いんですか!?」

「そりゃ、まあ……全然構わないよ、俺は」

 

 嶋さんも何だかんだ大丈夫だと思うし。

 嶋さんの写真とかでも見せれば青木さん喜び……あれ、何だろコレ。

 

「…………」

 

 覚えがないのに、カメラに変な映像が。

 

「どうしました、穂村さん?」

「いやっ、何でもっ!」

 

 コレは。

 コレだけは、青木さんに見せてはならない。彼女の中の幻想を打ち砕く事になるかもしれない。

 

「ほら、昼! 昼に行こうか!」

「露骨に何か隠しましたよね!?」

「全然! 本当に気にするなよ!」

 

 美味いもん食わせて追求を避けよう。

 鞄を開くと一瞬ホルトさんと目が合った。

 

『あの日は酷かったな』

 

 そして笑ったのだ。

 ホルトさんは知ってる。俺と嶋さんの醜態を。


「さ、流石に……」


 食事中怖くなってSNSを確認した。

 酔っ払って動画をアップするなんて事はなかった。

 

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