第6話 魔法少女所属契約は簡単には取れない

 

「失礼します、先日のナイトメア災害から無事に帰還しました」

 

 俺は会議室に呼び出された。

 ナイトメア災害に巻き込まれた際の話と、嶋さんからは報告は聞いてるらしいけど念の為という事で。

 

「あれ? 青木さんは?」

「それが体調不良らしいんだよね」

 

 あの日もふらついてたし、やっぱり病院とかに行った方が良かったんじゃないか。

 

「熱が出ててフラフラするってさ。まあ単なる風邪だと思うよ」

 

 魔法少女人事部部長が言う。

 一日休めばどうにかなるのか。今度会った時にでも確認してみるか。無理しそうだったら病院に行くよう言うか。

 

「それで穂村くん、ナイトメア災害の報告を聞こうか」

 

 社長が本題に入るように促してくる。

 

「……ナイトメアは私が大学で説明を行なっていた時に現れました。それでナイトメア出現の情報を受けた青木が討伐に向かい、私は学生と一緒に避難しました」

 

 報告、なんて言っても俺が出せる情報はこれくらいしかない。ホルトさんの事やら、俺が女になった事やら。

 片岡さんには言ってしまったけど、バレたらどうなる事か。

 

「……そうか。ありがとう」

「はい」


 報告はこれで終わり。

 社長も「君は自身の命を守る適切な判断を行なった」と納得して頷く。


「それでは」


 俺が深々と頭を下げようとすると。

 

「そういえば、だが」


 と、社長が言う。

 俺は頭を上げてから「はい」と返した。


「今度の休日に大規模な企業説明会がある」

「はあ」

「君も行ってきてくれ」

「……私が、ですか?」

 

 何で俺が。

 そう言うのって部長とかの仕事じゃないんだろうか。

 

「君の仕事を説明してきて欲しい。あと、青木くんにもまたお願いしようと思う。人事の酒井さかい部長も一緒だ」

「分かりました」

 

 どう思おうが一社員の俺には断れる訳がない。仕事内容の説明は別に苦でもない。

 

「……はぁあああ」

「どうした、穂村。んな溜息吐いて」

「大学説明会の次は会社説明会に行ってこいと言われまして。契約全然取れてないのに大丈夫ですかね」

 

 俺は事務所に戻って直ぐに嶋さんに思った事を吐き出す。

 

「いやいや、誰もちゃんと仕事できてないから。だから魔法少女の所属が増えてないんだし。僕だってそうだから」

 

 誰が行っても同じだと。

 

「……まあ、人事部長も来るらしいんで良いんですけどね」

「それでも穂村も付いてかせるってのは期待してるって事だろ? 良かったじゃないか」

 

 バシバシと背中を叩いてくる。

 俺、まだペーペーなのに。

 

「青木さんも来るみたいなんですよね」

「珍しいね。魔法少女と一緒に仕事するのも珍しいけど、二回目もあるなんてね」

「そうですね。俺も契約取れても、そのあとは会えてませんし。青木さんが初めてです」

 

 思い返してみれば入社から三年くらいは経ってるのに。

 

「まあでも丁度良かったかもなんですよね」

「ん? 何かあった?」

「いや、青木さん今日体調不良らしくてですね。心配っちゃ心配なんですよ」

 

 ナイトメアに殴り飛ばされてたし。最近は疲れやすいとも言ってたし。

 

「そっか。ウチの数少ない魔法少女だもんな。大事にしないと」

「そうなんですよね」

「それに、青木さんってそろそろ二年目だろ?」

 

 そういえば。

 

「一年目から二年目あたりで他企業にスカウトされてやめてく人、メチャクチャ多いですからね」

「それなんだよ」

 

 青木さんは問題ないと思うけど。

 だって彼女、嶋さんいるからこの会社の契約に合意したっぽいし。

 

「何はともあれ、だ。早く良くなって欲しいもんだよ」

「じゃ、それ今度あったら青木さんに伝えておきますね」

 

 青木さんも喜ぶだろう。

 嶋さんから言われたってなったら。


「いやいや。僕が言ってたとか言わなくていいからな」


 嶋さんは笑ってから、一言。

 

「今日の仕事、頑張ろうか」

「そうですね」

 

 今日こそ契約取るぞ。

 

「…………そっちはどうだった、穂村」

「……無理でした。嶋さんは?」

 

 意気込んで出発したものの、結局惨敗。

 俺はトボトボと会社に戻ってきた。

 

「は、はは」


 この感じ、普通に嶋さんの方も無理だったんだろう。


「酒飲みに行くぞ!」

「そうですね!」

 

 飲まなきゃやってられなかったんだ、俺も嶋さんも。愚痴を吐いては盛り上がる。


「メイクアップ! 爽やかスマイルっ! マジカルレモネード!」

「また変身のお手本見せて欲しいって言われたんですか!」


 ……悪酔いだと思う。

 

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