第20話 あの魔法少女を知ってるか(胸糞注意 ※不要であれば注意喚起は消します)

〈片岡恵〉


 目を覚ます。

 顔がヒリヒリする。

 お腹の辺りがジンジンする。

 身体が自由に動かない。ボヤける視界でここが何処かを探ろうとした。

 今、私は座ってるらしい。

 椅子に縛り付けられている。

 窓がない。

 

「や、手荒な真似をしてすまなかったよ」

 

 私の苦手な先輩と同じくらいの年齢、ざっくり三十歳くらいだと思う。白衣を着た男の人が話しかけてきた。

 

「少々聞きたいことがあったんだ」

 

 思い出した。

 出社中に顔を隠してる人たちに襲われたんだ。顔を叩かれて、腹を殴られて気絶して。

 

「…………」

「片岡恵、二十六歳。現在は魔法少女契約に関わる仕事に従事してる。大学は────────」

 

 情報が段々と遡ってく。

 大学時代に就活で何処を受けたか、高校は何処だったか、中学校は何部だったか、小学校は、保育園は。

 

「…………気持ち悪い」

 

 何でそこまで知ってるんだろう。

 そんな疑問もあったけど、私の口から出たのは感情的なものだった。

 

「まあ、ワタシは君の事をしっかり知ってる。でもね、把握できてない事があるんだ」

 

 男の指が私の顎先に触れて、頬へと動いていく。そして暴力的な勢いで掴まれる。

 

「痛っ……!」

「これ、知ってるよね?」

 

 彼はスマホの映像を見せる。

 いつかの穂村くんの映像だ。

 

「そして、これ」

 

 私の部屋に入ってきてる所が撮られてる。そして映像は早送りされて、今度は私が出てる所が。

 

「これはここ最近の映像。この未登録の魔法少女は君の部屋に入って、朝になって君が出てきた」

 

 覚えはあった。

 本当にここ数日の話だ。私は部屋で穂村くんを待ってた。鞄も置きっぱなしだったし。突然に居なくなるとは思わなかったし。

 

「…………」

 

 でも、この人には話したくないと思った。

 

「拷問ってのは人体欠損を基本としてる。苦痛があれば結果はより早く得られるからね。欠損てのは想像しやすい痛みだけど。でも人体は有限だ。まあ、今は水責めにしておこうか」

 

 ああ、最悪だ。

 話せば解放されるなんて思ってた。

 

「わだ、し……じゃ」

「はい、突っ込んでー」

「がっ……ぶ……ゔ」

「はい出してー」

「うぁっ、わだ、し……」

「はい、入れて〜」

 

 ケタケタと笑ってる。

 数度の気絶を繰り返しても、拷問が止まらない。夜になろうかと言うとき。

 

「あれ? 何であの魔法少女が? あ、本当にこの子じゃなかったんだ。あはっ、だから変身しないのか!」

 

 なら、私は解放して。

 何度殴られたか。何度水責めを受けたか。大人になって泣かないと思うようになったのに、涙を出させられて。

 そして、絞り出した涙も枯れてしまうほどに。

 

「じゃあ、君じゃないのは分かったけど。あの魔法少女が何処の誰なのか……教えてよ」

 

 嫌だ。

 もう、嫌だ。助けて、助けて、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて。

 

「死に……たく、ない」

「いやいや人聞き悪いね。死なせないよ。てか、早く教えてよ。ワタシはただあの魔法少女を教えて欲しいんだ」

「…………」

「あら、気絶しちゃった。ねえ、君たちー起こしてよ」

 

 そうして、腹に痛みを感じて目を覚ます。

 

「あぐっ、う……!」

 

 穂村くんは。

 

「……君があの子を差し出せば、君は解放してあげるよ?」

「本当、ですか……?」

「もちろん」

 

 穂村くんを、この人に。

 

「その子を、どうするんですか?」

「え? あはは。解剖するに決まってるじゃん」

 

 当たり前のようにそう言った。

 

「どうすんの? 君はこのまま拷問受け続ける? ワタシは全然良いんだけどね。まあ途中で死にたくなっても、死なせないよ? 吐き出すまで」

 

 私は答えられなかった。

 だから拷問が続く。まだ、耐えれる。私は拷問されてても、穂村くんは死なない。私が折れれば、穂村くんが殺される。

 まだ、耐えれる。

 私のせいで、穂村くんが死ぬのは嫌だ。穂村くんが死んだ後で、私はのうのうと生きていられない。


「中々強情だね。戦った事もないし、命を脅かされるなんてこともなかった癖に」


 他人事のように。


「大変だね。ただの一般人だったのに」


 彼は笑う。


「あの魔法少女のせいで」


 穂村くんの、せい……?


 私がこんなに苦しいのは。

 私がこんなに痛いのは。

 全部、全部。


「ちが……う」


 全部、コイツのせいだ。

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