第19話 片岡さんが帰ってこない

 

 気がつけば昼を過ぎていた。

 そうして変わらず、片岡さんは仕事に行った。

 俺の変身はそのままだった。別に鎧だとかじゃないから問題はなかった。ホルトさんも解くようにとは言ってこなかった。

 

「……嶋さん、から?」

 

 電話がかかってきて、普通に出ようとしてこのままだとまずい事に気がつく。

 変身を解除してから応答する。

 

「はい、もしもし」

『もしもし? 大丈夫か?』

「……はい」

『そうか。ちなみにいつ頃仕事に復帰できるかとか分かる?』

「いつ頃……」

 

 復帰、出来るかな。

 もう、働きたくないかも。会社辞めようかな。ナイトメア倒さないとだし。ああ、でも無職になっちゃうか。そんなの気にする必要あるのか。

 あそこに居ても、俺は契約を取りたいとは思えないし。

 

『僕は待ってるから』

 

 通話が切れた。

 

「……遠くのナイトメア、どうしようか」

 

 そうだ。

 この街から段々とやってけばいいんだ。

 一つずつ、確実にやっていけばいつかはナイトメアも居なくなるはずだ。今はここから。ナイトメアが居なくなったら、次の場所に行って。

 

「それを続けていけば、いつかは終わるだろ」

 

 ほら、やっぱり単純だ。

 簡単な話なんだ。

 それを日本全部でやったら、次は別の国でやってけばいい。ナイトメアが現れるって国でやってけば、永遠に思える戦いも終わるんだ。

 ちゃんと休んで、考えれるようになってる。

 

「だから、ここで戦って。ナイトメア倒して。どうだ、それなら良いんだろ……!」

 

 俺は、現実をちゃんと。

 

「ちゃんと……見てるんだよっ」

 

 分かりやすい目標があるんだ。

 なあ、簡単じゃないか。最後の目標に辿り着くまで一個一個乗り越えてけば良い。それで解決する。

 

「マジカルチェンジ、ピースラヴァー」

 

 再度の変身。

 手始めにこの街から救うんだ。ナイトメアを倒し尽くして。

 

『…………』

 

 ホルトさんは何かを言いたげだった。

 それでも黙っていた。

 

「は、はは……ははは」

 

 街を駆け抜ける。

 ナイトメアが現れたと聞いた。

 直ぐに向かう。

 倒して、他の情報を探す。

 

 ナイトメアが現れた。

 ナイトメアが現れた。

 ナイトメアが現れた。

 

 倒した。

 倒した。

 倒して、倒して、倒して。少しだけ前に進んだ気がした。そうだ着実にナイトメアを倒してるんだ。

 

「まだやってんのか」


 また一体、倒したところで昨日の魔法少女が声を掛けてきた。


「…………」

「諦めろ。どう考えても無茶だ」

「ちょっとずつ……でも。やってけば、いつかは終わる」

「……ナイトメアは世界中で発生してる。それを全部か?」

 

 当たり前だろ。

 

「何十年かけてでも、絶対に」

 

 そうしないと、ダメだ。

 戦わないと。

 終わらせないと。

 

「一人で出来ることじゃねぇだろ。まだ現実が見えてねぇのか」

「俺は、やらなきゃならないんだよ」

 

 せめて、これからの誰かが青木さんのようにならない為に。


「俺が……やらないと」


 次のナイトメアを倒しに行く。

 

「────助けていただきありがとうございます!」

 

 偶然助かった人たちが群がって。アナタが言うなら、と。そんなことを言ってた気がする。

 どうでも良いと思って、聞き流した。

 

「…………クソ」

 

 あまりにもうるさくて、邪魔くさくて、俺は逃げるように。

 なんでか、自分の部屋じゃなくて片岡さんの部屋の前にまで戻ってきていた。

 もう夜だから、片岡さんが居ると思った。

 片岡さんと話したかった。

 扉には鍵が閉まってた。

 俺がインターホンを鳴らしても出てこない。渡されてた合鍵で扉を開ける。部屋の中は真っ暗だ。

 

「片岡さん……?」

 

 それから数日、ナイトメアを倒して片岡さんの部屋に戻る生活を続ける。

 その間も片岡さんは帰ってこなかった。

 電話も繋がらなかった。

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