第27話 ただの風邪だと言われても

 病院の施設破壊を終え、外に出ると。


「やり方変えるって、今度はテロかよ」

 

 またあの魔法少女に会った。待ち伏せしていたかのように立っていた。実際は偶然か。それとも、本当に俺がここに来ると知ってたか。

 どっちかは分からない。

 今回も俺に話しかけてきたけど、殴りかかってはこない。

 

「俺のこと……取り押さえないんですか?」

「こっちは変身もしてねぇんだよ、お前に勝てる訳ねぇだろ」


 見ればたしかに魔法少女の時とは違う格好をしてる。今日は上がジャージで下がジーンズとラフな服装をしてた。


「それにオレはお前が人を殺してるとは思ってねぇからな」

「俺がやってるのは……病院施設の破壊、ですよ」

「魔法少女の手術が延命手術なんて聞いた事ねぇよ。間接的には誰かしらの延命になってるかもしれねぇけどな」

 

 いいかげん、随分と顔見知りになってしまっていた。俺としても特にこの子とは戦いたくないと思ってる。


「お前は誰も殺してないみたいだしな」


 当然だ。

 

「少なくともお前が誰かを殺そうとはしなけりゃ、オレも戦いたくねぇ。オレは恨んでないしな。流石にそうなったんだったら、オレもお前を倒しに行くつもりだよ」

「そうですか」

 

 それはありがたい話だ。

 それならこの人とは今後も戦うなんて事はないだろうし。

 

「そうだ、一個聞かせろ」

「……何ですか?」

「何でこの前何も言わなかった。あん時はちょっとイラついたぞ」

 

 そう言われても俺の事情は説明できない。

 俺がだんまりを決め込むと溜息を吐かれた。

 

「……結局一人で背負おうってのかよ。そこら辺は全然変わらねぇな」


 呆れてるんだろうか。


「まあ……はい」 

「チッ……どうしてもってんなら事情次第で協力してやっから。そん時はちゃんと話してくれ」

「はい」

 

 たぶん、そんな事はしないだろうけど。

 

「オレは今日休みだし、言いたい事は言ったからもう帰るぜ」

 

 俺は彼女の体勢が崩れた瞬間を見逃さなかった。

 

「あ」

 

 直ぐに駆けつける。

 

「大丈夫か……?」

 

 倒れそうになった彼女の腰に右腕を回す。

 

「ん、ああ。ちょっとふらっとしただけだ。ここ最近多くてな。悪い悪い」

 

 俺が咄嗟に支えて倒れる事はなかったけど。

 

「…………っ」

 

 ふらついただけだと。

 俺の目の前でナイトメアになった青木さんと重なる。青木さんもふらついてたから。

 

「ここ最近で体調不良とか、あったか?」

「……ん? まあ、多少な。だから今日休んでたんだけどよ」

「熱は? 目眩は? 疲労感とかないか?」

 

 俺の顔を見て、彼女が吹き出した。

 

「ははは、そんな深刻そうな顔すんなよ。心配しすぎだっての。目眩とか、熱っぽいとかそんくらいだ」

 

 俺を安心させようとしてか、頭を撫でてくる。

 

「寝りゃ治る。風邪みたいなもんだろうよ。よっこいせ、と」

 

 俺の支えから離れて「やっぱお前はテロリスト似合ってねぇよ。お前は誰も殺さない」と歩いていってしまう。

 

「……急が、ないと」

 

 あの子が死んでしまうかもしれない。

 それは、嫌だ。もう嫌なんだ。

 俺は、あの子を死なせたくない。

 

「時間は……」

 

 あと、どれだけ残ってるんだろう。

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