第17話 自惚女と呼ばれる日

 

 家に帰ってない。

 ずっと片岡さんの家に居た。

 申し訳ないと思ってる。

 

「私、仕事行ってくるね」

 

 片岡さんが仕事に行くのを見送った。

 会社には体調不良だと伝えてしばらくの休みを取ってる。自分の仕事が怖くなった。何も知らずに働いてた自分が許せなかった。

 自分が誰かを殺してるなんて思った事はなかった。

 

「…………」

 

 ナイトメアがどう現れるのか。

 そんなナイトメアと戦う魔法少女がどうなるのか。

 もしかしたら、数ある内の一つなのかもしれない。

 もしかしたら。

 

「……全員、同じなのかもしれない」

 

 全ての魔法少女がナイトメアを生み出して、死んでいくのかもしれない。

 

「……ホルトさん、変身する」

 

 きっとこれが偶然なのだとしても。

 

『……分かった』

 

 俺は考えて、思ったんだ。

 俺に力があるなら、全部のナイトメアを俺が倒せば良い。片岡さんの部屋で塞ぎ込んで、悩んで。

 ようやく単純な事に気がついた。

 

「なあ、ホルトさん……力貸してくれよ」

 

 静かに変身の言葉を唱える。

 

「俺は、ナイトメア倒し続けるよ」

 

 魔法少女の必要ない、ナイトメアの居ない世界を作るために。

 

『ああ。お前さんが望むなら』

 

 外に出る。

 世界は変わらず回っている。

 俺だけが弾き出されたみたいだ。

 幸せそうに笑う人たち。魔法少女に焦がれる少女。契約を勧めるリーマンも。

 全部だ。

 全部が、俺の胸をざわつかせる。

 

「ナイトメアだ!」

 

 街を歩いていると騒がしい人波が荒れ狂う。遠くには確かにナイトメアが見えた。

 

「…………っ」

 

 ああ、今日も出たらしい。 

 青木さんの光景がフラッシュバックする。最悪な光景が脳に焼き付いてる。俺はあの日の現実あくむから逃れられない。

 きっと、この先も。

 

「……また」

 

 魔法少女が死んだかもしれない。

 そうしてナイトメアが生まれたかもしれない。否定しきれない。

 

『大丈夫か?』

「大丈夫、だ」

 

 この地獄を一刻も早く終わらせるために、俺は全力で走る。

 

「俺が、全部倒す」

 

 止まってられない。


「俺だけで、何とか……しないと」


 ナイトメアを倒す力があるんだ。ホルトさんが居るんだから。


「マーシー・シャイン!」


 ナイトメアを消し飛ばす。


「ア────────」

「……はっ、はあ……はあ」

 

 直ぐに現場を去ろうとしてカメラに取り囲まれた。

 

「本日も素晴らしい活躍でした!」

「…………」

「あの、お名前をお聞きしても?」

「…………」

 

 名前なんて名乗る必要がない。ナイトメアを倒す事には関係ない。

 俺は、ただ。

 

「一つだけ言わせてくれ」

「は、はい!」

 

 俺は深呼吸をしてから口を開く。

 

「────もう魔法少女は要らない」

 

 この日、俺は世間から自惚女コンシーターと呼ばれる事となった。

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