第37話 引き渡し

 寝たフリ作戦決行中、車に乗せられた俺はトランクで横たわりながら運転する阿坂に呼びかける。

 

「これ、どこに向かってるんだ?」

「私も日野木に指定された場所に向かっているだけだ。場所は郊外の駐車場と言われていてな」

 

 とは言っても日野木に会えるんだから、結局は細かい事は気にしない方がいいのかもしれない。

 

「もう直ぐ着くぞ」

「分かったよ」

 

 俺は大人しく目を閉じる。

 

「日野木。こちらは到着したぞ」

 

 運転席の方から阿坂の声が聞こえる。

 

「どこにいる」

 

 扉が開く音がした。

 それからしばらく阿坂の声が聞こえなくなったかと思えば、トランクの扉が開かれた。

 

「へぇ……阿坂さん。本当に連れてきたんだ」

「……ああ。君だって会いたかったんだろう?」

「それはそうだけどさ。まさか、この子の信頼を裏切るなんてね。ま、ワタシの研究を盗んだんだ」

 

 そう言うことをする人間だってのも変な話じゃないか、と日野木の笑い声が聞こえる。

 

「その件は……すまなかった」

「いや全然。ワタシは研究に集中できて、阿坂さんは名誉を集められた。両方に得な話だったと思うぜ?」

「それで、今回の件だが……」

「ん? ああ。そうだね。この子を解剖して魔法少女研究が更なる発展をした時は、また阿坂さんの名前で発表してもいい」

「よろしく頼む」

 

 阿坂の前科がまさか良い方向に作用するとは。

 

「あの魔法少女手に入ったから! 運ぶの手伝えー!」

 

 どうにも今回は一人で来ていた訳ではないらしい。

 直ぐに俺の身体がぐいと持ち上げられる。

 

「じゃ、移動しようか。と、その前に」

 

 日野木が足を止めた。

 

「もう少ししたら出ると思うよ」

「何が」

 

 阿坂の問いに「ナイトメア」と日野木の短い答えが返されると共に、地面が揺れた。

 

「ここからもうちょっと離れた場所はね、住宅もなくて広い土地になってる。だからナイトメアが発生するには周囲を巻き込まないから最適なんだよ」

 

 聞こえる声だけでも嬉々としているようで。俺は直ぐにでも日野木を殴りたくなって仕方がなかった。

 

「……ナイトメアが現れた。君は行かなくて良いのかな?」

 

 寝てるはずの俺のすぐ近くでアイツの声がした。

 

「魔法少女たちが戦ってるよー? 君は否定したいんじゃないのかなぁ? 魔法少女の存在ってのを。ははは! ナイトメア出てんのに、眠りこけちゃって……説得力ないなぁ」

 

 ケラケラと煽り立ててくる。

 反応してはならない。

 

「あは。マジに寝てるんだね! 本当によくやってくれたよ、阿坂さん」

 

 ここで日野木を騙す為に。

 

「ほら行くよ、さっさと運んで」

「私も一緒に行って良いのかね、日野木」

「いくら阿坂さんでも許可はできないね。金は渡すから大人しく帰ってよ」

 

 付いてこようとしたら命の覚悟はしといてね、と脅迫の言葉を残して俺を担いでるヤツも歩き始めた。

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俺は魔法少女じゃねぇっ! ヘイ @Hei767

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