第19話 魔力のせいって言っとけば大体なんとかなる
例えば、ゲロというのは指先から出すことは可能であろうか。
あるいは、背骨からとか肋骨からとか、身体の任意の部位から吐き出したりは出来ないのだろうか。
口からしか吐けないからゲロなのだろうか。
鼻から出したならまだゲロと言えるかもしれないが、耳から出した場合は?
目から出した場合は?
お尻から出したならそれはう◯こと言われるものであるし、前からならおし◯この可能性が高い。
口以外から吐かれたそれはゲロと言えない、と言うならば、やはり私は口からゲロを吐くしかないのであろうし吐きたい。
一度私がゲロと認識してしまった以上、私の骨の身体に溜め込んだモノ――感覚的に何でも溜め込める気がする。今回は鶏の血――を体外に放出するには、ゲロを吐くという手段でしか行えないようだ。
引っこ抜かれ鶏に立て掛けてある骨の部位は、頭部から切り離されていたせいかゲロを吐いた後も白くならず紫色をしていた。
なのでそちらに意識を切り替え指先からもう一度ゲロを放とうとしたのだが、これがどうやっても出来なかったのだ。
この異世界では、思い込みや固定観念とかそういったものが魔力を扱う上で重要なファクターを担っている気がする。
視界の時には心の底から疑問を持っていたから上手くいったようだが、私の心には「ゲロは口から吐くもの」とちょっとやそっとじゃ覆せない程深く刻み込まれているらしく上手くいかない。
以上のことから、私は骨に溜め込んだモノを放出する為に口からゲロを吐くのだ。
こんな風に。
「あ、きもちわるぅ、ん、ぇ、……あれ、出ないな……あ、出る、げぇるぉぉろぉぉぉっ!」
びっちゃぐち、ゃどちゃあぃぁぁぁぁぁぁ
聞いたら耳が腐って落ちるようなとても汚い音を出しながら、私はまた口からゲロを吐く。
全身の骨の視界を複数同時展開すれば直ぐに気持ち悪くなるので、吐きたいと思えば容易に吐ける。
骨に残った鶏の血が少なかったからか、1発目のゲロより勢いが弱いが、まぁ、追いゲロなんてそんなもんだからそれはいい。
ゴブ子は明らかに弱りきっており、その身体能力は著しく弱体化しているのが見て取れる。
逆にあんなゲロを全身に食らってピンピンしている奴がいたらそいつの神経を疑う。
私の豊潤な魔力により強化され望遠機能等が追加された私の視界――なんとなくやったら出来た――に映るゴブ子は、ゲロ塗れの身体をスプリンターのように動かし遠〜くの方からゲロ道を爆走してこちらに近づいてきていた。
しかし、ゲロの力は偉大である。
あれだけ俊敏だったゴブ子が、私の目でも捉えられる程の素早さしかなくなっている。
ゲロ塗れの身体をよく見ると、全身の皮膚は爛れ耳や鼻は元の形が分からない程腐食している。
大きく開いた口は顎が外れているのかだらんと垂れ下がり、生えていた鋭い歯も根こそぎ全滅している模様。
腕や脚も一部では肉が腐り落ちて骨が見えていたり……。
「……グロいなぁ」
誰がこんな酷いことを。
まぁ、私なんだが。
そんな可哀想なゴブ子がこちらに到達するまでまだ時間はかかりそうだったので、その間に色々と自分なりに検証していた。
思っていた通り私の骨の身体は魔力で操作出来るようで、引っこ抜かれた部位の魔力を操作して自在に動かすことが出来た。
今の私を傍から見ると、首の無い馬鹿でかい鶏の死体に寄り添う紫の襤褸を纏った手足の無い頭の割れた骸骨と、その周りをフヨフヨと漂う複数の紫色をした骨の部位。
そして辺り一面紫の血とゲロで塗れている酷くカラフルな森。
なんだこれは。地獄か。
地獄の亡者感が凄い。
その地獄の亡者はというと、初めてなのに思ったより簡単に出来てしまった魔力操作が楽しくて、自分の身体をビュンビュンとあっちへこっちへと動かしまくっている。
ただ、魔力を操作して骨の部位を空中に漂わせるのは酷く疲れるみたいで、久しぶりに感じる疲労に秒で萎えてしまって大人しく身体を元の状態に戻し始める。
そうこうしている内に、そろそろゴブ子が射程距離に入って来たので2発目をお見舞いしてあげたわけである。
2発目のゲロは1発目よりも規模が縮小されているがされどゲロ、その破壊力は凄まじいの一言に尽きる。
2発目を打つにあたり少し工夫をしてみたが、ちゃんと思った通りのゲロ模様になったみたいで魔力って便利で凄いなぁと思いました。
骨内の鶏の血の量が少なく、吐かれたゲロがゴブ子に届かない可能性があり少し心配だったので、魔力操作で骨内の血を圧縮し更に出口をきゅっと絞ってみた。
こう、庭の水やりの時にホースの先っちょをきゅっとして出口を狭めて勢いを増す、みたいな。
結果、1発目の津波のようなゲロとは違い太いレーザーのようなゲロが射出され、満身創痍ながらも頑張って避けようと跳躍したゴブ子の下半身を丸ごと持っていき、それでも勢いは衰えず遠くに見える高い山に着弾し山を紫色に染め上げた。
着弾した衝撃で山の斜面が大きく抉れ、ゲロが弾けてその周りを浸食し山が枯れていく。
出来そうだからやってみたよ、くらいの認識で吐いてみたゲロの破壊力が、割と洒落にならないレベルの被害を出していることにも特にこれと言って心を痛めず、どころか異世界でもやっていけそう、と安堵している私がいる。
そんなゲロを食らったゴブ子といえば、下半身が消し飛んでも跳躍の勢いが止まらず、残った上半身がクルクルと赤い血を辺りに撒き散らしながら空中を舞っていた。
やがてその勢いも無くなり私の目の前のゲロ溜まりにどちゃっと上半身だけになったゴブ子
が落ちてくる。
「……私、なんかやっちゃいましたぁ?(どやぁ)」
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