第24話 白い空間の変態
私は今、仰向けに大の字で寝ている、と思われる。
《……》
全方位を確認してみたが、私がさっきまでいた森ではなくどこを見ても何も無いただただ真っ白い空間にいるようだ。
《……すー……はー……》
訂正。
私の眼の前を除いて、何も無い、だ。
《……スンスン……はぁはぁ……》
……近いなぁ。
《…………………ふへっ》
…………ふへっ、じゃないが。
異世界に来てからというもの、距離感がおかしい連中に立て続けに絡まれている気がする。
と言っても、絡んだのはゴブ子と鶏の二匹だけなんだが。
異世界のマナーとして、顔に鼻息がかかるくらいの距離でコミュニケーションするのがデフォなのだろうか。
それならば、これから先異世界で他人と関わるのはすごく躊躇する。
……それが、今目の前にいるような物凄い美人だとしても。
《……ふへ、……ふへへ、》
「えーと……なにをしているか、聞いても?」
《……?!》
むぎゅっべちゃ。
「、うぷ」
……そんで、こいつらみんな私の話聞かない。
私の丸く形の良い頭を両手でガシッと掴み、私の骨の顔に満遍なく自分の顔を引っ付けてくる。
とにかく密着させたいのか、ぐりんぐりん顔を捻ったりして自分の肌の脂を私に擦り付けるように上下左右に動かし続けている。
人形のように整っている顔が自分の涎とか皮脂とかよく分からない体液でベチャッとなって、とても、とっても残念な事になっている。
これは、変態、というやつであろうか。
ゴブ子とは違う種類の変態だ。
「……事案です。いい加減に、離れ――っ! なんだよぉ、こいつも力強いのかよ!?」
《、ぅ、ふへ、ふへへへ》
変態を引き剥がそうとしたら引き剥がせなかった。
異世界の変態は力が強いのもデフォなのだろうか。
「は、な、れ、ろ、よ!」
《ぶ、べ、べ、べ、ぶぇ》
壊れた猿のおもちゃの如く、シンバルをジャンジャンやる要領で両手で小さい頭の耳辺りを連続でぶっ叩く。
私は男とか女とか容姿とか種族とか年齢とかも差別せずに、あ、こいつ殴りたい、と思えば既に殴り終えている骨である。
例え相手が情緒不安定なよく分からないイカれたゴブリンだろうと、何の罪もない馬鹿でかい野生の鶏だろうと、目の前の顔立ちがこの世のものとは思えない程整った物凄い美人だけど変態な残念な女が相手だろうと、NOを突きつけることのできる日本人なのだ。
それでも手を離さず、私に裸で覆い被さっている自分の顔を大根おろしみたいにスリスリしている変態――痛くないのだろうか?――の、無駄にサラサラキューティクルな長い金髪を右手で掴み、喉輪を食らわせ無理矢理顔を引き剥がす。
「ぐ、ぬ、ぬぅぅっ!」
《ふ、ふ、ふふふっ!》
――ぶぼぎぃっ!!
「あ、やべ」
後ろ髪を勢い良く引かれて女の首がぐいんっとなり、普通は鳴っちゃいけない音が鳴った。
私の頭を掴んでいた腕はだらんと力無く垂れ下がり、髪の毛を掴んでいた手を咄嗟に離すと変態の身体はどさっと横倒れになる。
変態の首に指を当て脈を測るが……。
「……私、なんか殺っちゃいましたぁ? ……いやいや、こ、殺すつもりはなかったんです。ちょっと引っ張っただけなんです」
誰に言い訳しているのだろうか。
咄嗟に出てきた言葉がこれだったが、とりあえず殺意は否認しておく。
まぁ、殺してしまったものはしょうがない。
逆に、気を失っている私に覆い被さり好き放題やっていたのだ、これくらいで済んで良かったなと言いたい。
痴漢するやつは死ねば良かろうなのだ。
「……嫌なこと思い出した。……はぁ」
頭に浮かんだ忘れたい記憶を頭をブンブン振って振り払い、身体を起こして両足で立ち上がる。
改めてこの真っ白い謎空間と全裸の変態という意味不明なシチュエーションをしばらく考える。
「ふむ……真っ白空間に、この世のものとは思えない美人……!……これは……まさか……例の、アレかっ?!」
テンプレか?
異世界転生のテンプレが私にも?
異世界転生と言ったらやはりこれだろう。
物語冒頭、真っ白い空間で美人な女神様にこう言われるのだ。
『あなたは死にました。でもチートあげるからゆるしてちょ』
と。
そこから始まる異世界での俺つえーチーレムなんかやっちゃいました物語。
「ふふふ、割と好きだったんだよな、そっち系も」
よし、ちょっとタイミングがズレている気もしないではないが、まぁ誤差だろ誤差。
チートも……割かし骨は強い気もするがこれも誤差だよ誤差。
では、早速チートもらおうじゃないか!
「さぁ、女神様、オラにチートを分けてくれぇ!」
「……んー? …………あ、女神様、殺しちゃったじゃん」
《あ、死んでいませんよ?》
「ひぇ?!」
ぐりんっとなった頭でこっち見ないでもらえますか?
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