第23話 想像しただけで無理

 なんか変な電波を受信した。


 ゴブ子が化けて出たかっ!

 と、恐る恐るそれでいて光の速さで後ろを振り返るもゴブ子は相変わらず汚く死んでいる。


「……ふぅ……落ち着け、お化けなんて居ない。お化けなんて嘘さ、ははは―――」


《&#¥ークス!ル:暴■ の譲▽を☆$★%#す》


「ひぇっ」


 え、やだやだこわいこわい。

 えー、なにこれー?


 自分の耳を手で塞いでも聞こえてくる謎の声に戦々恐々としながら声の出所を探る。


「これは……耳に聞こえる、というより……魂に直接、響いてきている……?」


 この世界は魔力があれば何でも出来る。

 だとすれば、私の魂に直接怪電波を垂れ流してくるような迷惑な奴も存在する可能性がある。


「私の頭に怪電波を流している奴が、近くにいる可能性もある、か。……ならば、疲れるとか言ってられないなっ! 行け、ファンネルっ!!」


 私は新しいタイプの骨だから、古いタイプの骨とは違ってやれることが多いのだ。


 肋骨をパージさせ周囲に展開、同時に視界も複数同時展開し周囲を索敵。

 吐き気がもりもり込み上げてくるが、吐くものは今はないので頭痛と気持ち悪さだけがどんどん増していく。


「ヴォエッ……きもちわる。あー、周囲に敵影無し、か。魔力も感じられないな」


 自分の魔力を粒子状にし肋骨ファンネルから辺り一帯に拡散。

 私の魔力粒子に触れたモノの姿形がこれで一発で分かるという優れモノだ。

 ちなみに、思い付きでやったら出来た。

 これでも白い悪魔シリーズは全部見ているのだ。

 この骨の姿は伊達じゃないのだ。


 近くには誰もいないが、どういうことだ?

 今も私の魂に、周波数が合っていないラジオみたいな何言ってるか分からない怪電波が流れ込んできている。


 ひとまず視界と肋骨を元に戻し、周囲を警戒しつつ疲れた魂に鞭打って怪電波の内容を聞き取れるか集中する。


《E¥#or #体%:■■■■■■からの★妨$を*認》

《個体名:々¥ 夏鈴の&βαを流用、展µπ§》

《個%名★■■■■■■へ、ユニーク▽☆¥:+#φΘ強制的$付与しゞ〃》


「……うん、分からん……!? んふぅぅ! 、ん、あたぁま痛ぁぁぁぁい気持ち悪ぅぅぅい」


 突然、鼻からスイカを無理矢理捩じ込まれているみたいな、お腹いっぱいなのにこれ食えよって味濃い目のカツ丼を口に流し込まれたみたいな、そんな痛みと気持ち悪さが同時に私を襲ってきた。


 その上、死んだと思っていたゴブ子の身体からドス黒い、漆黒と言ってもいい色をした魔力がゴバぁっと拡がり、辺り一面を覆い尽くす。


 ゴブ子の身体からどんどん吹き出してくるそれはタールのようににっちょりしていて、私の身体をも覆い尽くし纏わりつき、にちょにちょと身体中を這い回ってくる。


「ひぃぃ!? キモいイタいキモチワルイっ!!」


 まるで黒いあいつ、Gに身体を這われているような、虫が全身にびっしり張り付いてカサカサしているような感覚が私の魂を駆け巡り、その気持ち悪さに立っていられなくなり背中から地面へと激しく倒れる。


 やがて、散々私の身体を弄んだG達は、私の半分になった頭部へと一匹また一匹とカサカサ集まっていく。


 虫が、特にGが大嫌いな私に、これは効く。


「……ころ……して……もう……ころし……て……」


 目玉があったなら、私は泣いている。

 こんなの酷い、酷すぎる、あんまりだ。

 ゴブ子に喰われた時よりダメージがでかい。


 私は、前世でもあいつらが嫌いだった。

 私の部屋に一匹でも存在したら、存在を確信したなら即引っ越しをしていた。

 あいつらのせいで引っ越した回数は両手で足りないほどだ。


 ここにGジェットとホウ酸団子があったなら……まだ戦う勇気も湧いたかもしれない。

 ここに、虫に強いオカンがいたなら、あるいは……。


 しかし、ここは異世界。

 そんなものは存在しな――


「作ればいいんじゃない?」


 がばっと勢いよく起き上がり、急いで魔力を練る。

「……イメージ、だ。ここは異世界、魔力があれば、何でも出来るッ! 強固なイメージ!」


 オカン、は顔が思い出せないから無理だ。

 ならば、私の3種の神器の1つ。

 Gジェットを!


「私の魔力よ! 神器を再び我の手にっ!」


 ぺかーっと、私の魔力が身体から漏れ出し光り輝く。

 頭部はゴキアフロによりドス黒く、身体は神々しいまでの魔力光を放ち、骨は大地に立つ。


 やがて、光が収まり、私の左手には……かつて苦楽を共にした神器の1つ。

 Gジェットが、そこに。


「……勝った」


 ぷしゅーーーーーーーーーーーっっっ!!


 異世界に、あの小気味良い音が鳴り響く。

 私にとってそれは勝利の福音。

 奴にとっては死の宣告。


 私の頭に纏わりついていたゴキアフロは、神器により噴射された聖なる殺虫剤により、一匹また一匹と頭から剥がれ落ち消滅していく。


 やがて、最後の一匹を殺し終え……。


 私は気を失った。


 精神的に限界だった。




《個体名:■■■■■■により、ユニークスキル:暴食が消失しました》







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