第22話 なんにも噛み合っていない

 某ゾンビゲームのゾンビのように「あー、うー」とかうめき声を上げながらこちらに這いずってきているゴブ子。


 わざと掴みかかられて首を踏み潰したい衝動に駆られる。

 ……そんなことはしないが。



 下半身がへそ辺りから全部持っていかれているため、内蔵とか骨とか肉とか血とか、その辺のものがぶりゅぶりゅピューピューとこんにちはしている。


 原型を留めていない目や鼻や口からはゴブ子の体液がダラダラと流れていて、顔を上げてこちらを見つめてくるゴブ子の不気味さったら半端ない。


 ゴブリンゾンビ怖ぁ、と思っていたら、ゴブ子はニチャァと笑みを浮かべると急にガクッと身体の力が抜けて地面に突っ伏した。


「あ、死んだ」


 こんなボロボロな身体になってもしばらく生きていたのだから、ゴブリンの生命力というのは黒いあいつ並かもしれない。


「とりあえず、南無南無〜」


 化けて出ませんように、と片手で熱心に拝んている(別にお化けとかホラーとか怖くないです)と、ゴブ子の身体を包んでいた明滅していた濃い青色の魔力が、スッと消えた。


「ふぅ……成仏したか」


 自分の魔力が視覚化されるようになってからというもの、目に映るあらゆるものに魔力があるのが分かるようになった。


 鶏の死体には未だに血と同じ色の紫色の魔力が残っているのがまだ見える。

 カラフルな森の木々の一本一本にも薄っすらとだが魔力があるのが見て取れる。


 ゴブ子にも当然魔力があるのは見えていたが、こいつは何故か魔力の色がコロコロと変わっていた。


 ゲロ津波で押し流された時は、キャンバスに様々な色の絵の具をぶち撒けたようなぐちゃぐちゃな色の魔力が見えた。


 ゲロの下から飛び出してこちらに爆走している時は、じっとりとした質感も分かるくらいの真っ黒な魔力。


 そして、ゲロレーザーをお見舞いした後は、夏の空のような清々しい濃い青色の魔力をしていた。


「やってる事も言ってる事も、魔力さえもコロコロ変わる変な奴だったが……こいつは何がしたかったのだろう」


 最初から私を食べる為に近づいたのだろうか。

 いや、だったら私と初めて遭遇したあの時に有無を言わさず食べられているはず。


 そういえば、私と同じで自分含めて名前や顔が思い出せないとか言っていながら、やま……やま……山田だっけ? とかいうクラスメイトの名前は覚えていたなこいつ。


 やはり私と洞窟で話した内容やさっきの鶏前の会話のあれやこれは私を油断させる為の嘘か。


 聞いたことがある。

 相手に好印象を与えるには共通点を作る、だったか?

 一目で私が強敵だと見抜き普通にやっても適わないと悟るやいなや、そうやってあなたと同じですよーJKですよ~と油断させようとしたわけだな!(名推理!)


 なるほど、関わったのは短い時間だったが確かにゴブ子に対して少なからず情も……沸いたか?あれ?


 正直、面倒臭いしかなかった気がする。

 ゴブ子を殺した今もその辺の虫を殺したくらいの感覚しか沸かな……うん、まぁいいか。


 その辺追求すると自分の性格の悪さとかサイコパス気味なところを自覚しそうだから止めとこう。

 誰も得しない。うん。


 思い返せば、時折、私と鶏がイチャイチャしているのを見つめていた時の背筋がゾワゾワするあの目をしていた気がする。


 あのこちらを観察するような、肉食動物が獲物を捕らえる前のじっと見つめている感じの目。


 毎回ちょっと強めにツッコミ入れたら元の雰囲気に戻ったが、分かり易すぎだゴブ子。


「ふ、設定の作り込みが甘かったな」


 ちょいちょい私のなんでもない返しの言葉や態度に必要以上に動揺している節があったものな。


 それに、元JKとか言っておきながら時折出すあの雰囲気は歴戦の捕食者のそれだった。

 私じゃなきゃ見逃してしまうところだ。


「相手が悪かったな、ゴブ子よ。私は全て理解わかっていた」


 こう見えて私は幼稚園の頃からジャ◯プを毎週欠かさず購読していたのだ。

 世紀末覇王とかヤサイの人とか死神とか妖怪とか人斬りとか狩人✕2とか、もうなんでも読み込んでいた私にあの程度の駆け引きなぞ児戯に等しい。


「来世では、ジ◯ンプを読んでいない奴に喧嘩を売るんだな(どやぁ)」


 そう言ってドヤ顔をキメ、ゴブ子の亡骸に背を向ける。


「……足、どうしようかな。やはり魔力で……」


 と、ドヤ顔キメても足がないとカッコつかないのが少し気に入らないので、魔力をこねこねしながら考えていると、




《ユニ%#*キル:暴¥ の保%#、個体★■:六車 $@!&+<*を殺▽☆$%た》




「……ちょっと何言ってるかわかんないです」

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