第33話 鈴木さんと骨とスローライフ
楽しい土いじりを終えて、土で汚れた身体を温泉で洗い流した後は昼飯の時間である。
お昼も庭の畑で採れた野菜や果物をふんだんに使った料理を作る。
お昼になるとこの家のもう一人の同居人であるらしい精霊の鈴木さんがどこからともなく現れて昼飯作りを手伝ってくれる。
鈴木さんはふわふわくるくるな綺麗な灰色の長い髪を馬の尻尾風に纏め上げ、更にはメイド服をバッチリ着こなす誰に聞いても美少女と答えるくらいの見た目の美少女たる美少女だ。
鈴木さんと初めて会ったのは、いつ頃だっただろうか。
私が婆さんに問答無用で魔法を撃ち込まれ始めてた頃に、この人もアレクさんと同じようにひょっこりと現れた。
いつもの午前中の日課を終えて、温泉にて汚れた身体を部位毎にバラバラにし、頭以外の骨の部位を新たに開発した魔法〈洗濯機〉に全てぶち込み隅々までしっかり洗っている最中だった。
魔法〈洗濯機〉の中で激しく回っている自分の骨を眺めながら「ふんふ〜ん〜♪」と気分良く鼻歌を歌っていると(私は洗濯物が洗濯機の中で回っているのを見るのが何故か昔から好きだったりする)、いつの間にそこにいたのか隣の席に座っている女性がいるのに気付いた。
腰辺りまであるくすんだ灰色をした長い髪はここから見ても傷みに傷んでいるのがよく分かった。
席に設置されている鏡に映る女性の顔は、誰に聞いても間違いなく美人と答える程に整っていて口元には微妙に笑みを浮かべているようだった。
よく見れば身体の所々に切り傷や痣があり、見ていてとても痛々しい。
(……どえらい美人さんなのに、なんだか大変そうだなぁ)
と、〈洗濯機〉をごぅんごぅんと回しながら不躾にジーッと見ていると、女性も見られていることに気付いたのか顔をこちらに向け私とバッチリ目が合ってしまった。
「あ、すみません」
「……(ペコリ」
スーパー銭湯とかの洗い場で隣同士になった人と目が合って「あ、ども」と軽く会釈する、そんな感じのファーストコンタクトだった。
湯船に浸かっている時もお互い終始無言で、気が付いたら風呂場から姿が消えていた。
それからというもの、この人もアレクさんと同じで気付いたらその辺に出現していて家事やら畑仕事やらを手伝ってくれている。
最初に温泉で見た姿は痛々しい妙齢の大人の女性だったが、時間が経つ毎にどんどん若く綺麗になっていき、結果、可愛いメイド美少女が爆誕した。
何故そうなるのかは不明だ。
ちなみに、私はこの人の喋っている姿を一度も見たことがない。
基本無言を貫き、何があっても言葉を発することがない。
挨拶しても無言で会釈し、何か声を掛けても返事はコクリと頷くかフルフルと首を横に振るかだ。
前に一度、余りにも何も喋らないのでそれに業を煮やしたアレクさんの要請で庭に落とし穴を仕掛け、何も知らずに畑仕事の手伝いに来てくれた彼女を落としてみた。
結果、無言でブチギレる彼女にアレクさんがボコボコにされただけに終わった。
ブチギレた理由は、いつも着ているメイド服がアレクさんの糞でちょっぴり汚れたから、だそうだ。
後に、彼女と筆談で意思疎通するようになった際に聞き出したらそう言っていた。
鈴木さんと言う呼び名も筆談し始めてから教えてもらうことが出来た。
しかし、鈴木さんは達筆すぎて癖のある書道家みたいな字を書くので、結局何を言っているか分からないことが多い。
ハンナ婆さんからは鈴木さんの事は一言も聞いていないが、二人はかなり長い付き合いみたいだ。
なので婆さんの食の好みとかも把握しているので、夜遅く帰ってくる婆さんの為に晩飯を何か作り置きしておく際にも色々と協力してもらっていたりする。
そんな見た目よりもかなりな高齢な鈴木さんと昼飯を作り、庭の畑を眺めながら美味しくいただく。
昼飯が終わればあとは自由時間となり、魔法の開発だったり自身の鍛錬だったりとその日の気分で何をするかを決めるのだ。
そして晩ごはんは決まってガッツリ目なメニューを鈴木さんにオーダー。
鈴木さんがどこからともなく取り出したお肉をふんだんに使った料理を食べ、落ち着いた頃に温泉に入り婆さんが帰ってくるまでダラダラと過ごし、婆さんが帰ってきたら声を掛けて魔法を撃ち込んでもらい、温かい布団に包まって眠りにつく。
私の異世界での日常は、だいたいこんな感じだ。
……うん、わざわざ異世界でやることじゃないな、とは思う。
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