第32話 ペットの花子

 雄鶏の名は、アレクサンダー15世と言う。

 愛称はアレクさんだ。


 アレクさんは元々どこかの世界の何とかという国で王様をやっていたらしいが、ある日可愛がっていた実の弟にクーデターを起こされて王都で家族共々捕まり処刑される寸前までいったらしい。


 アレクさんも捕まるまでは精一杯反撃をしたらしいが相手が悪かった。

 クーデターを起こした弟の戦力に異世界召喚された異世界人達がいたそうで、更にその裏には世界を管理する女神が付いていたらしい。


 弟はともかく、流石に女神と異世界人を相手に勝つことは難しい。


「俺ももはやここまでか……皆、すまない」


 と、イケオジボイスで家族に声を掛けていたところに突如、紫色をした津波が王都に来襲。

 どこからともなくやってきた紫の津波は、あれよあれよと言う間に関所やら城下町やら王城やらをゲロっと飲み込み、蹂躙した。


 クーデターに反発していた王都の民とアレクさん側の兵士達は運良く地下に逃れていた為に生命だけは助かったが、その他の全ては津波によって押し流されてしまった。


 王都の処刑場に磔にされていたアレクさん達、それを見学していた弟と異世界人達、ついでに顕現していた女神も当然飲み込まれた。


 一瞬の内に津波に飲み込まれ死んだと思ったアレクさんだったが、気付いたら自分と最愛の妻達だけが瓦礫の街と化した王都にポツンと横たわっていたそうだ。


 しばらく瓦礫の街を眺め呆然としていたアレクさん御一行。

 そこへ、神域からの遣いと云う者が現れ、津波によって死んだらしい前任の女神による今回の諸々のやらかしの謝罪と賠償を受け、なんやかんやあって今は神域の森の中で静かに家族だけで暮らしていたそうだ。

 ちなみに、森から出てきてうちの庭に来た理由は「森の生活に飽きたから」らしい。


 挨拶をして簡単な自己紹介をした後、そんな長話を聞いてもないのにずっと話された。

 私は「紫色の津波とか異世界って凄いなぁ」とかテキトーな感想を言いながら話半分に聞いていた。


 それからというもの、ちょくちょく森の奥からうちの庭にやってきては長話をしていくアレクさん。


 こいつのおかげで私は異世界のあれやこれやを知ることが出来たのだ。

 婆さんに教えてもらいたい色んな事も話の流れでこいつにほとんど教えてもらえた。


「アレクさん、あれは何?」


 とかなんとか言えば大体答えが返ってくる。


 美味しい野菜の育て方や収穫の仕方。

 畑の手入れの仕方に、採れた野菜を使った料理のレシピを沢山。

 神域のどこそこにあるパン屋が美味いだとか、あそこのカフェはコーヒーの味がイマイチだとか、肉はあっちのスーパーが安いだとか、生活を潤す情報が満載で教えてもらって生活が更に捗ったのだ。


 あとついでに魔力の扱い方や魔法に対してのアプローチの仕方。

 異世界の成り立ちから今の異世界情勢、神域の事も破壊神ハンナ=ベルウッドという人物のこともなんとなく教えてもらったりもした。


 正直、何で鶏のくせにそんな色んな事を知っているのか甚だ疑問だが、鶏曰く「俺はそういう役割なんだ」らしい。


 その話をする時だけ曖昧な返事しか来ないので、話し難い事なのかと思いそれ以上は追及しなかった。

 追及したら面倒臭そうだったのもある。


 このような流れでアレクさんと仲良くなった結果、アレクさんの娘の一人が妙に私に懐いてしまい庭に住むようになった。


 毎日卵を沢山産んでくれるからこちらとしては助かるが、親として娘の卵を食べられるのはいいのだろうか。

 無精卵だから良いのだろうか。


 アレクさんは私にじゃれ付いている娘を眺めながら何も言わないでニコニコしているので良いのだろう。


 あと、娘さんの名前は花子だ。

 大きさは普通の地球にいる鶏位のサイズでとてもかわいい。


 話が逸れたが庭で鶏を飼うことになった経緯である。

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