第30話 骨の朝は早い

 私こと骨の朝は早い。

 地球にいた頃と違い朝はパチっと直ぐに脳が覚醒する。

 脳味噌は無いが。


 そして、今日も婆さんは仕事で私より早く起きてさっさと家を出ていった。

 いつもお勤めご苦労さまです。


 朝、ハンナ婆さんの家の台所を勝手に使って朝食を作る。

 最初の頃は勝手に台所を使うと婆さんに怒られたが、じゃあ私はどうやってご飯を食べたらいいんだよと懲りずに使い続けていたら何も言われなくなった。


 婆さんは「スケルトンのくせに三食きっちり食べてるんじゃないよ」と愚痴愚痴と言っていた。


 骨は朝はパン派だ。

 骨の好みはダブルでソフトなちょっとお高いトーストだ。

 それを2枚、今日は目玉焼きとウインナーも付けちゃう。

 トーストはこんがり狐色、目玉焼きは半熟でウインナーは焦げ目がつくくらいこんがり焼く。


 飲み物はコーヒー、◯lendyが好きだ。

 と言っても苦いのは苦手なので砂糖とミルクは欠かせない。

 いつも思うが自分で淹れたコーヒーは決まってなぜだか不味くなる不思議。

 一度婆さんにコーヒーを淹れてあげたことがあるが「……アンタ、コレを毎日飲んでるなんて舌が腐ってるんじゃないのかい」と言われた。


 そもそも私は舌べろがないのに腐るわけないじゃないか。


 ちなみに婆さんは米派なので私がパンを焼いているとすごく嫌な顔をする。

 最初の頃はパンを焼いていると婆さんに嫌味を言われたが、懲りずに焼き続けていたら何も言われなくなった。

 婆さんは「ずっと気になっていたけどそのパンとコーヒーはどうやって手に入れてんだい」と不思議がっていたが、気付いたら棚の中に置いてあるのでそれを食べている。


 こんな事を言って、婆さんが買ってきてくれているのは分かっている。

 婆さんは基本ツンデレなのだ。



 出来上がった朝食をトレイに載せ、だだっ広い庭の端の大木の陰にあるテーブルへと向かう。

 トレイを置きテーブルの側にあるチェアに座り一息つく。


 このテーブルとチェアは少し前に婆さんちの倉庫へと暇潰しがてら忍び込んだ際に、倉庫の奥の奥で埃を被っていたのを発見したものだ。


 中々趣があり骨的嗜好に合っていたので勝手に拝借してここに置いた。

 庭の雰囲気に合っていて、ここに配置する自分のセンスに驚きを禁じ得ない。


 婆さんには「勝手に倉庫に入るんじゃないよ!」と、例の如く怒られたが物は持っていくなとは言われなかったので引き続き気に入った物は拝借している。


 朝の清々しい空気を胸いっぱいに吸い込み、よし、と頷くと朝食を頂く。


「いただきます」


 あーん……サク。


「もぐもぐ、、んまい」


 1枚目のトーストはウインナーを挟んで食べ、2枚目は目玉焼きを載っけて食べるのが骨的ジャスティスなのだ。


 サラダ等の草類を食べた方が健康に良いとは思うが、朝から野菜を切ったりするのは妙に面倒臭いので今日もサラダは無しだ。

 健康は気になるが……今は骨だし大丈夫だろう。


「ゴクゴク、、うん、相変わらず、まずい」


 トースト2枚をぺろり。

 最後に食後のコーヒーをガブガブと飲み干す。

 自分で淹れたコーヒーがなんでこんなに不味くなるのか毎度毎度不思議でならないが、だからといって特に美味しく淹れるように気をつけるとか工夫するとかはしない。

 朝は逆にコレが良いのだ。


「……ふぅ」


 ナプキンで口を拭き、婆さん家の庭をぼけっと眺める。

 婆さん家の庭は手入れがされている範囲でテニスコート4面分くらいの広さがある。

 一応庭は申し訳ない程度に柵のような物で囲われているが、実際のところその先に広がる森も婆さん家の敷地だ。


「ここら辺一帯は私の領域だよ」と言っていたので家の周りの見える範囲は全部婆さん家のものらしい。


「……破壊神て儲かるのかな。ていうか破壊神てなに?」


 破壊神たるハンナ婆さんは毎日毎日朝早くから仕事に出て夜遅くまで帰ってこないのだ、たいそう稼いでいるに違いない。

 こんな一等地を手に入れるほどだ、絶対金持ちだ。


 破壊神と言えば、結局何度聞いても怒られるだけで破壊神の仕事内容も教えてもらえず、婆さんが毎日何をやっているか分からないし骨的にももはやどうでもよくなってきた。


 ここに来てもう二ヶ月になるというのに未だに婆さんとはまともに話せていない。

 話す機会は朝のタイミングが合った時か、夜遅く婆さんが帰ってきた時に待ち伏せするかだ。

 しかし、婆さんは私と話をする気がないのだろう、いつ如何なる時も私が話しかける度にブチギレている。

 カルシウムが足りていないのだろうか。

 牛乳を飲んだほうがいいよ、と言ったら無言で引っ叩かれた。

 やはり牛乳を飲んだ方がいい。


 それにしても、婆さんは私と何かを話す為にわざわざ自宅まで私を引っ張ってきたのではないのだろうか。

 いい加減色々と教えて欲しいと思い、あの手この手で婆さんに話しかけて向こうから話すきっかけを作っているのだが……。


 婆さんはシャイなのか怒るばかりで一向に話題をそちらに向けない。

 ふむ……やはり婆さんは認知症になっている可能性が高いかもしれないな。


 まぁ婆さんが言うには「スケルトンに寿命なんてものはないさね」らしいので、認知症の治療魔法でも開発しつつ気長に待つのもありかもしれない。



 魔法についてだが、先程言った婆さん家の倉庫に大量の魔導書と言われる魔法の取扱説明書みたいなのが置いてあった。


 本棚やその辺の床に無造作に大量の本が転がっていて、歩くのに邪魔だなぁと手に取ってみたらそれが魔導書だった。


 私が手に取ったのは初歩の初歩、魔法とは何たるかを記した入門書のようなものだったのだが……私には全く読めなかった。


 内容が分からないではなく文字が読めないのだ。


 あとで婆さんに聞いてみたら私が読めないことに心底驚いていた様子で、その驚いた顔が不気味で逆にこっちがびっくりした。

 老婆が目を見開いて驚愕している顔は割とショッキングな映像だったのだ。


 思わず「うわぁ……」と言ってしまった。


 婆さんには「魔法を教えてほしいと言っていたね? 望み通りその毎度毎度失礼な頭に直接魔法を教えてやるよ!」としこたま魔法を打ち込まれた。


 会話の途中でいきなり魔法を打ち込んでくるような人に言われたくはない。

 失礼なのはどっちだと思ったがそれを言うと火に油を注ぐので言わなかった。


 それからというもの、婆さんからのスキンシップは全て魔法を使ったものになった。

 手に持っているあの杖で床をとんとんするのだ。


 朝ちょっと聞きたいことがあったので婆さんが仕事へ行く前にパンを齧りながら質問したら――とん。

 婆さんが仕事から帰ってきた時に夜だし気配を隠して背後から声を掛けたら――とん。

 そんなことばかりしていたら、しまいには顔を見る度にとりあえず一発――どん。


 しかし、ここ最近の私は婆さんに怒られ慣れてきたのか、婆さんからのスキンシップに耐性ができたみたいだ。

 最初の頃は婆さんの過剰なスキンシップに痛覚が仕事をしていたようだが、今や何も仕事をしていない気がする。


 婆さんからのスキンシップに反応出来ないのは少し寂しいような悲しいような……。

 でもまぁそれはそれ、痛いのはやっぱり嫌なのでとても助かる。


 昨日は婆さんは魔法を打ち込んでもピンピンしている私にビックリしたのか、なにやら考え込んだ後ブツブツ独り言を言って何処かに行ってしまった。

 やっぱり認知症が進行しているのかもしれない。


 あと、婆さんからのスキンシップを受けてからというもの、全身が薄っすらと光っているような気がする。


 夜寝る時に明かりを消すと全身が淡く発光しているのに気付いて、昔そんなおもちゃがあったなと懐かしい気持ちになった。


 おかげさまで明かりをつけなくても周りが分かるようになったので便利だ。

 ただ、婆さんは暗闇に潜んでいる私をすぐに見つけられるようになったので嬉しいみたいだった。


 そんな感じで魔法についてもよく分かっていないが、私は魔法とはイメージが大事だということは既に分かっている。

 異世界ではご都合主義なことに、できると思えばなんだってできるのだ。


 既に私の魔法、神器の一つであるGジェットも改良に改良を重ねて更に強力になった。

 これでまたあの女神ゴキブリが現れても次こそ私の力で撃滅できるだろう。


 他にも色々とたくさんの魔法を私は開発していたりする。

 伊達にこの2ヶ月ニート生活をしていないのだ、時間は捨てるほどあったので自己強化に努めた私は勤勉な骨なのである。



















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