第7話 地雷ゴブリン

 しばらくして血のシャワーが止んだところで辺りを見回してみる。


「……うわぁ……グロぉ……」


 辺り一面血の海になっている。

 鶏の血が紫色なものだから某有名RPGゲームの毒の沼みたいになっているし、周りのカラフルな森にも紫の血が飛び散り、元々視覚的にキツイのに1色足されていい感じに更にキツくなっていて目がチカチカする。


 その中心には首無しの新鮮な鶏肉が横たわりビクンビクンと痙攣しており、それを見下ろす全身紫色に染まった以前の可愛いさが見る影もないボロボロのパジャマを着た骨。


「あっ?! ……パジャマが……パジャマが紫色になってしまった……アイスの生地……高かったのに……」


 ちょっと奮発して先週買ったばかりのもこもこパジャマが見事に紫に染まってしまった。

 それにしこたま蹴られて啄かれて所々穴も空いてるし破れている。


「着心地抜群で凄い気に入っていたのに……ボロボロだ……」


 空いた穴から大事な部分の骨が見える。

 生身だったらR18になること必至なダメージ加工にため息が出る。


「ムカつくのは、今の骨な私にこのボロボロな服がめっちゃ似合っていそうなことだな」


 今の私を傍から見たら襤褸切れを纏った立派な亡者だ。

 ちょっと前まではもふもふ可愛い骨だったのに。


 まだビクンビクンと痙攣している鶏を忌々しげに睨むが、それが余計に恨みを抱えた亡者っぽい気がする。


「……はぁ。まぁ、しゃーない」



 さて、例によって切り替えが早い私はさっさとこの場から離れることにする。

 ゴブ子は何故か素直に洞窟に戻って行ったみたいだし、気付かれる前にトンズラするに限る。


 ゴブ子、表面上は素直で良い子なんだが……骨的直感だがあいつはなんとなく地雷臭がする。

 さっきのやり取りの最中に、じっとこちらを見つめているゴブ子の目を見たらなんとなくそう感じた。


 何も考えていないようなつぶらな可愛い目をしていながら、こちらを値踏みしているような観察しているような……。

 見ていると心の底から嫌悪感が湧いてくるような、そんな目だった。

 出会った時はつぶらな目で可愛いと思ったのだが……。


 それと、あの目……前にも見たことあるような……?

 昔の、前世の記憶の中にゴブ子と同じ目をする人がいた……ような気がする。

 その辺りのことはまだ詳しくは思い出せないが骨的直感がそう囁いている。



 思い返せばゴブ子、あいつ、たぶん鶏より、私より断然強いんじゃなかろうか。


 鶏が来る前に抱き着かれた時、あいつが掴んでいた私の骨からメキメキと嫌な音がした。

 そういえば先程突き飛ばした時も違和感があった。

 それに、帰ろうとする私の背後に一瞬で回り込んでいたし。


 鶏の攻撃にもダメージ1つない私の自慢の骨ボディが悲鳴を上げる攻撃力。

 軽く蹴っただけで鶏の頭が爆ぜる程の力を持った私が、抱き着かれたのを引き離そうと力を入れても微動だにしないし、突き飛ばしてもまるで無傷な防御力。

 鶏の素早い蹴りにも反応してみせた私にも反応できない程に素早く動ける瞬発力。


 そして、自称だが前世がJKの子どもが、この鶏みたいな化け物が普通に生息しているこの森で1ヶ月もサバイバルしていて割といい暮らしをしていること。



 ……改めて考えると、あのゴブリン……いや、本当にゴブリン?

 あいつが言ってることもあまり鵜呑みにしないほうがいいかもしれない。


「……うん、さっさと逃げy――」





「ぎゃ〜う?」





 音もなく。

 気配もなく。

 いつの間にか、右手を掴まれている件。








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