第2話 森と私
勢いで適当に森の中をあっちへこっちへ進んでみているが、体感で2時間くらいは歩いただろうか。
歩いても歩いても森森森。
もうずっと同じ景色でそろそろ飽きてきた件。
森を歩き始めた当初は、森を歩くということが新鮮で楽しかった。
空気も綺麗で清々しいし、まるでジ◯リにでてくる森のようでテンションも上げ上げだったのだ。
だが、歩けども歩けども景色が変わらず、流石の私ももういいかなって飽きちゃった。
それに、やはりというか、成る可くして成ったと言うか。
私、遭難している、気がする。
「……どうしたもんか」
森で遭難したらどうしたらいいのか。
なんて、私には分からない。
川を探して下ればいいのか?
それとも高台とかに登ってまずは地形を把握?
水とか食料とか確保したほうがいいのか?
「川を見つけて下っていけば街とかないかな? それとも救助の人に見つけてもらいやすいように高い所に登るか? うーん、スマホがあればなぁ」
まぁ、こんな森の中で電波が入るかわからないが。
「……よし! とりあえず高いとこに登るか。さっき木々の隙間から山っぽいの見えたし」
そういえば骨の身体のせいなのか、喉の渇きや飢えといったものは感じられない。
それに加えて2時間近く歩いたというのに、この身体は全く疲れていない。
「疲れ知らずとか、骨ってすごいなぁ」
元々私は運動が苦手で、高校卒業後まともに運動と言えるようなことをした記憶がない。
高校はまだ体育の授業があったし部活は帰宅部だった。
大学も社会人になってからもろくに体を動かしていない。
こんなぶっ続けで、しかも見知らぬ森の中を歩き続けても疲れないなんて骨の身体の恩恵に感謝感謝だ。
「もっと前からこの身体が欲しかったなぁ」
それと……身体だけでなく精神的にもなんか今までと違う気がする。
私は確かもっとヘタレだったはずだ。
森の中を独りぼっちで2時間近く歩くなんてこと出来ただろうか?
それ以前に、全身骨になったのになんでこんな平気なんだ?
私という人間は……あれ?
私……ワタシって、誰だっけ?
「いやいやいや、待て待て待て」
一度立ち止まり深呼吸する。
「すー……はー……。……骨なのになんで深呼吸出来るんだよ。……はぁ」
「私は……名前は……思い出せない? 家族……友達……駄目だ、いたのは覚えてるけど顔が……家……学校……会社、はおもいだせる……趣味は? ……これも大丈夫。……駄目なのは人だけか?」
自分や家族、友達がいたことは分かるが顔と名前が分からない。
まるでそこだけ記憶から切り取られたように頭からすっぽりと無くなっている。
「……なんでだ? 人物だけ駄目なのはなにか意味があるのか?」
骨になったのと一緒で、なんでなのか分からない。
正直気持ちが悪い。
流石にこれはしばらくその場で立ち尽くし脳味噌のない頭で必死に考えてみるが……。
「……でも、ま、分からないならしゃーないか」
分からないことはどうしようもない。
ん? いやいや、私はこんな直ぐに切り替えられるような人間だったか?
以前の私はもっと……。
「うーん……しゃーないか」
そんなことより、今は先に進む方が大事な気がする。
あれこれ考えるのは助かってからにしよう。
とりま、早いとこ救助されたいし登山登山である。
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