第35話 骨にはミジンコ程も関係ないどうでもいい話
「答えな。……あの性悪女神達と、接触したんだろう?」
「……」
「アンタが神法違反したとか、そんなもんは私にはどうだっていいんだ。……それよりも、アンタが大罪の女神の眷属神になった方が問題さね。……女神サクヤ、だったかね。アンタはいったい誰の眷属神になったんだい?」
「、わ、わた……し、は」
老婆にサクヤと呼ばれたこの女神は、ここ二百年ほどの間、担当する世界の管理がうまくいっていなかった。
女神サクヤの仕事の成績は控えめに言っても、うんこ、レベルと言ってもいいくらい悪かった。
サクヤは女神に成る前も成った後も、いつもずっとどこまでも真面目に誠実に生きてきた。
だが真面目に頑張ろうが誠実にしてようが、仕事が上手くいくとは限らないのはどこの世界でも同じである。
女神に成る前の養成所でもすこぶる成績は悪く、何千何万といる神候補や女神候補の中でも成績は下から数えたほうが早かった。
そんなドベなサクヤでもなんとかかんとか女神に成ることは出来たが、女神に成ってからも同期の神や女神達には悉く差をつけられ、というか最初から天と地中にいるバクテリアくらい差がついており、もはや嘲笑の的侮蔑の対象、悪い意味でマスコット的な彼女は気が付けば何年もドベ争いをしている。
担当している世界も最初はビギナーズラックなのか何故か思いの外順調な滑り出しで、神や女神の誰もが不正を疑うほどに上手くいっているように見えた。
が、そんなボーナスタイムは長く続かず、時間が経てば経つほど彼女の無能さ故かどんどん担当している世界は荒れに荒れ果てていった。
最初はあれだけ無駄に繁栄していた人類もどんどんと数を減らし滅亡しかけ、逆に魔物や魔獣といった魔のモノが大量に産まれ世界は魔の楽園になりつつあり、挙句の果てには魔物や魔獣達から篤い信仰までされている始末。
同期達に陰どころか表立って「女神ではなく魔神だ」とゲラゲラと揶揄われていたりする。
そんな無能な
女神をクビになってしまった元女神は、ほとんどの場合神域には居られなくなる。
神域滞在許可証があれば話は別だが、女神サクヤにそんなものが貰える程のコネも金も運も実力も無い。
女神という神格が無くなれば当然只の人になり、その身に纏う神気も消失する。
神気が無い者が神域という数多の神が住まう環境に長時間居続けると、周りの神気の圧で心身共に潰れてしまう。
滞在許可証があればその圧を緩和できるので、まぁ多少の圧をチクチク感じることはあるだろうが神域に存在することは可能である。
神気を持って無く滞在許可証も無い者が神域に住まうには、何らかの方法で再び神気を纏うか、或いは周りの神気の圧を跳ね返せるだけの何かしらの力を手にするかしかない。
どちらにしても一朝一夕で手に入るようなものではない、一部例外はいるけれど。
このまま何もせずに1週間経てば当然の如く女神をクビになり、神気を失い神域からそのまま自分が担当していた世界へと堕ちることになる。
そうなるとどうなるかと言うと、別にどうもならない。
一見普通に人として寿命までその世界で暮らすだけの話なので、堕ちたからと言って特にペナルティ的なものはないように見える。
だが神々にとってクビになり自分の管理していた世界に堕ちるということは、
「あれ、
と、言われているようなものなので、それ自体がペナルティでもあるし皆当然ザリガニにはなりたくない。
ザリガニとまでも言わずとも、元々神として自分が管理している世界だけとは言えそこの人々から崇め奉られ信仰されてチヤホヤされていた者が、その人々と同じ立場になり只のモブの一人として生きていけるかと言われれば……。
神や女神と言った存在は、誰も彼も皆傲慢で自分が一番偉いと思っている超絶自己中心的なモノばかりである。
そもそもそういう頭のイカれている奴くらいしか神に成ろうとはしない。
世界を管理する仕事をしている神々は一応組織に所属しているので上下関係はあるにはあるし、上の命令には基本的には逆らえないし逆らわない。
それは上司の神としての力が自分より強いからという理由によるもので、逆らうと返り討ちに遭うからという一点だけで命令を聞いているに過ぎない。
皆何か隙あらば上にいる神を蹴落としたいし、なんなら創造神とかいう意味が分からない存在もぶっ殺したいし自分がその地位に就きたいと常々思っている。
大なり小なり、神々は皆こんな感じである。
自分以外の存在は自分の役に立つ為だけに存在しているとナチュラルに思っていて、そんな奴が只の人間になってしまえばたぶんストレスとかで死ぬ。なる前に絶望して死ぬ。
女神サクヤも女神としての成績はうんこだったが、プライドだけは一丁前に他の神と同様、いやそれ以上に高かった為、このままザリガニに成るのだけは心の底から嫌だった。
ザリガニに成るくらいなら死んだほうがマシだった。
何も具体的な策を思いつかないまま期限の1週間が過ぎ、いよいよサクヤがザリガニになる日が来た。
早朝、絶望しきった顔で上司の前に立つサクヤと、女神の中でも見た目だけはトップレベルに良いサクヤをクビにしてあわよくばそのまま自分のモノにしてやろうと下衆い顔をした上司が、上司の執務室で向かい合っていた。
朝から下衆い妄想で頭がいっぱいの上司がサクヤに一言二言何かを言い、それにサクヤが激昂し死なば諸共と上司と自爆しようとしたところで、どこからともなくスッと一人の女神が現れた。
「はぁぁ……で、そいつの名は?」
「その人の、名前は……」
「、あのねぇ、長々と話してくれたようだけど……アンタの事情なんか誰も聞いてないんだよっ! どうでもいいから、早くアンタが会った大罪の女神の名を、教えなっ!」(どんっ!)
「!、ひっ、あ、そ、その人は、女神、え……」
《女神エウシスちゃん、でーっすっ! イェイ!》
「「ーーっ!!」」
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